攻略、本格的にスタート
ゲリさんに頼んで外からの攻撃をお願いして30分。
エントランスの出入り口から微かにだけど戦闘音が聞こえてきた。
私は詳しくないけれど、このゲームにおいてミスリルは魔法に対する防御力が高いらしい。
とはいえ、銀よりも更に貴重とされており私達で言うところのプラチナと同等かそれ以上の価値だそうだからゴーレムみたいな巨体、それもこの塔を守護する全部をミスリルで作るというのは現実的ではない。
……いや、ゲームに現実的もくそもないんだけどさ。
まぁそんなこんなで、攻めてきているのは銀にそれほど弱くない人達を中心としたパーティ。
そして銀はミスリルと違い魔法防御力は普通の金属と変わらないらしいので、前座として魔法系統の人たちが置かれている。
作戦ではこの魔法系統を中心とした人たちが銀のゴーレムを削り、ミスリルのゴーレムは近接戦特化の人が戦うらしい。
そして私達はというと……。
「はっはぁ! 脆い! 脆いわぁ!」
「ゲリさん右に火球吐いたら子竜化して上昇!」
「あらよっと!」
3階でゴーレムと戦闘を繰り広げていた。
ゴーレムの待機所という事もあり天井が高くフロアとしても広い。
外から見るともっと狭そうに見えるんだけど……これも魔法かしら。
まぁどちらでもいい、ゲリさんが本来の姿でヒャッハーできるんだから。
実際子竜化を解除したゲリさんは大暴れしてくれた。
自ら盾役を買って出て、こうして前線でゴーレムをなぎ倒している。
ロボット対怪獣のバトルみたいね……。
私は巻き込まれたら悲しいことになってしまうので後方待機。
ついでに指揮をしているんだけど、ゲリさんが久しぶりに大暴れできるとかで楽しんでいるからこっちもついつい無茶な注文をしてしまう。
タイミングもぎりぎりだったりするし、迷惑をかけることになってしまうと思うんだけど……。
「あ、左下から腕伸ばしてきてる。そのまま上昇して旋回してからブレス」
「おっしゃあ!」
「再び子竜化して今度は地面に着地、同時に元に戻って一回転」
「しゃおらぁ!」
「そのままローリングソバット・尻尾バージョン」
「ひぃはぁ!」
とまぁ、ノリノリでこなしてくれるのよね。
何気にゲリさん、スペック高いわ。
とっさの判断力もあるし、機転もきく、何より思い切りがいい。
そのうえこちらの指示にもしっかり答えてくれて、必要とあればその時々でこちらの指示以上の効果を出してくれることもある。
いやぁ、楽な戦闘だわ。
「おら、ラストぉ!」
こうして最後の一体を貰った装備で叩き潰して対ゴーレム戦は終了した。
「おつかれさまー」
「いやぁ、フィリアさん指示うまいなぁ。いつもより動きやすかったわ」
「ゲリさんはできる事がなまじ多いからね。その全部を使うんじゃなくてその時々で戦い方変えたほうがいいかもしれないわね」
「なるほど……ボードゲームとかで言う最善手を選び続ける感じ?」
「そうそう、やることは少なくても的確にしっかりとね」
「はぁ、すっげえなフィリアさん。どこでこんな戦略みたいなの覚えたの? TCGとかやってたりする? あ、チェスとか将棋?」
「チェスよ。イギリスで知り合ったグランドマスターと1000回くらいやりあってるから」
「ぐらんどますたぁ?」
「チェスのトッププロ、将棋で言う竜王とか名人みたいなの」
まぁ取材の関係でイギリスに行ったときに知り合ったんだけどね。
ミスターユーサーという人物と知り合って、その伝手であれこれとつないでもらったわ。
その時は簡単なルールと定石を教えてもらっただけだけど、ネットで対局したり続けているうちに対戦回数メーターが1000を超えた。
その先は数えてないし、メーターも見てないからわからないけどね。
当然だけど今のところ全敗している。
「フィリアさんの人脈ってさ、どうなってるの?」
「私は大したことないわよ。知り合った人たちが大物ってだけで、そこに至るまでに合縁奇縁があっただけ」
「……だとしたらとんでもない幸運の持ち主だよね」
「幸運ね……そろそろまともな異性との出会いも欲しいんだけど、恋愛運はゴミカスなのかしら」
「いや、それは限度がありますんで」
くっ……まぁいいわ。
とりあえずはこのまま上の階を目指しましょう。
一つ気になることがあるとすればリスポン地点が2階のまま変わらないという事。
3階をまだ制圧したと認定されていないのかしら。
「あれ? ゲリさんどうしたの?」
「んー、ちょっと思ったんだけどさ、ここと2階の壁ぶち抜いたら何人か侵入しやすくなるんじゃないかなって」
「あーなるほど、でもできるかしら……」
「ちょっとやってみる」
そう言って元の姿に戻り、壁にブレスをぶつけるゲリさん。
しかし焦げ跡がついたくらいで、目立った傷はできていない。
壁が融ける様子もない事と、ゲリさんの様子から本気の一撃でも阻まれたというのがわかる。
「俺にゃ無理っぽいわ」
「ふーむ、じゃあ私が」
腰を落として丹田に意識を集中させる。
呼吸、無意識で行っている通常の物から意識的に武術用のそれへと切り替える。
集中、一点突破……破壊、それのみを考えて拳を軽く握る。
まるで赤子の手のように、やわらかくもその一撃はあらゆるものを粉砕するハンマーのように。
そして、あらゆる国を旅してその先々で身に着けた技の集大成をここに!
「破っ!」
拳が壁に当たる。
無音、一切の音を立てずに拳に乗ったすべての力を壁に注ぎ込んだ。
一瞬遅れて床にひびが入る。
そして壁はというと……。
「無理みたいね」
亀裂が走ったものの、その傷は見る見るうちに修復されていった。
残念、壊せたら楽だったのに。
「あのぉ……ドラゴンって一応火力最強って言われているんだけど」
「え? うん」
「そのドラゴンの中でも一番威力が高いブレス撃ってほぼ無傷だった壁壊しかけるとかなにしたの?」
「えっと、鎧通しって技の応用と中国で習った武道、空手の正拳とかを合わせてぶち込んだ」
「……それ、リアルでできる?」
「まさか、こんなの使ったら腕がちぎれるわよ」
「あ、怪我を顧みなければ使えるんですね」
やってできないことはないけれど、絶対に使わない。
初めて試したときは腕の肉を突き破って骨が飛び出したもん。
あれは痛かったなぁ。
引っ張って骨の割れ目をつないで固定して、いやぁ……冗談で言われた岩を砕く訓練とやらを本気にしてぶん殴ったら岩もろとも私の腕も壊れたというオチだったからね。
あれはどこぞの国の米軍キャンプでの出来事だったけど、医療班に死ぬほど怒られたわ。
「でも自動修復か……厄介ね」
「あの、厄介とか言ってるけどあんな攻撃できる人の方が厄介なんじゃ……」
「集中して、ためをしっかりして、正確に打ち抜かなければできないから対人戦じゃ無用の長物よ? 首をはねるだけでも死ぬ相手をミンチにする意味ないじゃない」
「あ、はい」
「それに頑丈ね。粉々に粉砕するつもりだったんだけど」
「……もう何も言いません。それより上いこっか?」
「そうね、ここにいてゴーレム増援とか来てもいやだし」
そう言いながら階段を上る。
ゴーレムのいた階の上は人、その上はまたゴーレムと続いて何階層か上っていった。
リスポン地点は50階で一区切り。
でもまだ上層があるみたい……ラスベガスで泊まったホテルが停電した時のこと思い出したわ。
あんな上層階なのに階段使うか、ロビーのソファーで寝るかって言われたとき迷わず階段使った私は実に愚かだったわ。
「んー、そろそろこのループ飽きてきた」
「そうは言うけど、あと10分くらいで夜明けだよ? もうちょい頑張らない?」
「もうそんな時間だったのね……ゲリさん明日会社大丈夫?」
「ははは、だいじょばない。寝不足で死ぬと思う」
「だめじゃない……今日はもう解散する?」
「いんや、このまま行こう。なんなら朝食食べて会社に有給申請してもう一度ログインするから」
「寝なさい」
「ランナーズハイってやつです。今最高にハイってやつです」
「それ、危ないわよ? というか1日のログイン制限に引っかかるんじゃないの?」
「大丈夫、改造してあるから」
「……そう、もう何も言わないわ」
ゲリさんが生粋のゲーマーだというのはわかった。
でも私がそろそろ限界が近いのよね。
「んー、あと10階くらい登ったら今日は落ちて休みましょう。外の人たちは?」
「とっくに全滅してログアウトしたよ。あっちはあっちで外部攻略に作戦会議してたみたいだけど、全員寝落ちしたって」
「そう、だったら私達だけでずかずか進んでもねぇ。やっぱり10階くらい登ったらでいいわよね」
「ん、じゃあそれで」
ゲリさんの承諾も得て、次の階層へ足を踏み入れた瞬間だった。
そこで待ち構えていたのは今までのそれとは明らかに違う、白銀に輝き二本の黄金の剣を持った騎士のようなゴーレムだった。
副反応セーフ!
ちょっと痛むくらいで、頭痛は低気圧が原因だと思われますが無事書けました。
感想返信は明日行わせていただきます、皆様ありがとうございます。
ちなみに言っておくと、ゲリさんことローゲリウス。
またはやわらかとかげは一般人です。
人外ではありません。




