作戦会議:塔の攻略
ゲリさんと合流してからお話合い。
「というわけで上のは殲滅してこの通り、アンデッドとして使役しました」
「よかった……食べられた人はいなかったんだね」
「まだお腹減ってないので」
まぁ称号のおかげで食事ゲージの蓄積もできるんだけど、これあまり意味ないのよね。
ログアウトすると上限こえていたら100%にリセットされるから。
とはいえ、短期決戦を望むならその方がいいから食べてもよかったんだけどアンデッドになった彼らを食べても問題ない。
それは妲己が鼠の天ぷらで証明してくれている。
まぁ……ある意味踊り食いになるのかしらね。
「こっちは特にめぼしいものもなかったかな。地下の人たち……魔族の方ね? あの人たちは毎日決まった時間あの部屋で死んで、生き返っているという話だけ聞けたよ」
「それ、私もある程度は知っているんですけどどういう感じなんですか?」
「聖属性のエリアを発生させる装置があるとかで、それを使って一網打尽。発動は一瞬らしいけどね」
「へぇ……」
「ちなみに素材を無駄にしない一番いい方法だとかなんとかで一瞬の発動なんじゃないかってのが俺の考え。もしかしたら発動に制限があるのかもしれないけどね」
「その心は?」
「地下二階を抜けた時、聖属性エリアって多分いくつかあったんだよね。常に発動している可能性もあるから」
確かに人間には聖属性が効かない。
まぁ妲己に会えるくらいの悪人なら別かもしれないけれど、それでも肌がピリピリするくらいでしょ。
だとしたら地下二階の、牢屋の外は常に聖属性エリアの可能性だってあった。
正直邪悪結界で全部スルーしたからどこがどうなのか、とかわからないけど。
「でもこれで一つ分かったことがある」
ゲリさんの真剣な言葉にこちらもうなずく。
「装置のある場所以外では聖属性エリアを発現させることはできないということね。そして地下二階に関しては牢屋みたいなもので閉じ込めているわけではなく全体がそうなっている可能性もあると」
「まぁ、逃げようと思えばできるだろう環境だしね。それを許さないように仕掛けは施してあった。けれど俺達は力ずくで突破した」
「そしてそれを察知したことでここにいた人たちは上に逃げた」
「そこが不可解なんだよねぇ。もっと妨害があってもよかったと思うんだけど……少なくとも今回の一件で死人が出ているんだし、ゴーレムを配置していたら俺達はお手上げだった」
「ねぇ、ゲリさん。あなた一つ忘れてることがあるわよ?」
「え? なに?」
小首をかしげるゲリさん、子竜化状態という事も相まって小動物みたいで可愛い。
声が野太いから心の底からそう思えないのが悲しいけれど。
「これはゲームで、運営は性格が悪い」
「……説得力のある言葉ってさ、聞かされると本当にぐうの音も出ないもんだね」
ようするにゲーム進行に支障をきたすようなことは避けるべきである、というのが通常の考え方。
でもこの理論で行けば地下二階の聖属性エリアだって私やゲリさんじゃないと突破できなかった。
システム的に考えればそれらを突破できるプレイヤーのみが落とされる場所、と考えるべきなんでしょうけど……ここの運営はね。
美味しいご飯をくれたいい人たちなんだけど、性根の部分はどうにも。
なんというべきかしら、クリアできるかできないかのぎりぎりを狙っているような感じ?
あと設定にこだわっているみたいだから階級制度みたいなのがあるんじゃないかしらね。
今回見たのはずんぐりむっくりなゴーレム、地下で聞いた話ではヤッガイとかいうやつだった。
量産型という事もあり性能はそこそこらしいけれど、私やゲリさんにとっては難敵極まりない。
邪悪結界やこのアンデッドの尊くない犠牲で強引に突破することもできるけれど、後々のことを考えると倒しておいた方がよさそう。
なによりあそこを無事突破できたら外から化け物プレイヤーが侵入しやすくなるかもしれないから。
聞いた話ではゴーレムは4種類、量産型と、耐久型の悪魔の肉体、速度重視の自由の翼、外のプレイヤーを一掃したという赤い奴。
どれも難敵だと思うけれど、想像するに下層階は量産型が置かれているんじゃないかしら。
中層、上層となるにつれて種類も数も増えていくんでしょうし、私たちが知っているのが全てじゃない可能性もある。
はっきり言って情報不足なのよね。
ま、やるだけやるけれどね。
「というわけで作戦なんだけれど、邪悪結界を使ってあのゴーレムを一掃しようと思います」
「できるん?」
「やってできないこともないはず。いざとなったらこれを盾に逃げるわ」
くいっと下僕たちを指し示す。
「まぁ、倒せるならそれに越したことはないと思うけど」
「それに中で大暴れすれば外から人が入りやすくなるかもしれないでしょ?」
「まぁ……たしかに」
「というわけでゲリさんは呼びかけよろしく。決行は今から30分後、リアル時間では午前0時、ゲーム内時間では真夜中よ」
「夜襲ね、なかなかに化け物らしい光景というか……百鬼夜行か何かかな?」
「うまいこと言うじゃない。じゃあこの作戦名は百鬼夜行ね」
「作戦って……」
「なんか盛り上がらない? 男の子ってこういうの好きなんでしょ?」
「そりゃまあ……控えめに言って大好きですが」
「ならよし」
さて、それまでは手持ちの食料でも調理して待っていますか……ん?
インベントリを開くべくメニューを見るとリスポン地点が2階になっていた。
「ゲリさん、リスポン地点どこ?」
「え? あ、いつのまにかエントランスになってる」
これは……階層が進むごとにリスポン地点が高くなっていくのかしら。
だとしたら内部からの攻略は時間をかければいけそうだけど……あの運営がそんな優しいことするかしら。
ちょっと嫌な予感がするわね。
……運営のこと考えたらお腹減ってきたかも、リアルで。
ワクチン接種してきました。
左腕が軽くしびれているだけですが、体調次第では明日は更新をお休みさせていただくかもしれません。
また皆様感想ありがとうございます。
腕のしびれが取れるまで、また副反応の状況を見ながら明後日以降順次返答させていただきます。
あわせて設定に関しまして、ゲームとリアルをわかりやすく分別してほしいとの要望がございましたので修正させていただきました。
この場をお借りして発信させていただきます。
ご了承ください。
なお本編では主人公が真面目な空気を出していますが、やはり本音は最後の一文です。
ただしくは「リアルでお腹減ってきたけど、今はログアウトできなくて残念。この恨みはゴーレムにぶつける」という状況。




