竜頭蛇尾だと思うけど次で完結エピローグだよ
それからしばらく、円香ちゃんがうちに住み始めてから波乱万丈な日々が続いた。
公安に持ち込まれる暗殺情報に関してのドタバタが多かった。
チンピラや反社組織の揉め事くらいならこちらも黙認するが、その被害が国や地域の均衡を乱すとかになると専門の部隊が突撃することになる。
また国の要人とかになってきたら即座に最強戦力か、最凶戦力が送られる。
前者が縁ちゃんで、後者が辰兄さん。
大抵の場合は辰兄さんが送られてハーレム増やして帰ってくるけど、たまに縁ちゃんが呼ばれるのよね。
で、その尻拭いとか後処理とか、あとはそんな戦力じゃなくてもいい場合は私が派遣される。
そんなこんなで忙しい日々だった。
「私結婚します」
永久姉がそんなことを言い出すまでは。
お相手は木皿儀の十三階段に属する春菊さん。
美味しそうな名前だと言ったら脱兎のごとく逃げられたから捕まえたけど、どうやら公安で一緒にお仕事していて仲良くなったらしい。
まぁもめたわね。
木皿儀家と伊皿木家の表立った交流は無かったのもあって、そういうお近づきはもうちょっと後だと思っていた。
誰もがそうだった。
そこでいきなりだったのと、永久姉が結婚するという一大事に公安全体が阿鼻叫喚地獄となった。
あの、男に騙されやすい永久姉がついにと話題になり上から下への大騒ぎ。
普段はマスコットに甘んじている縁ちゃんですら驚きの余り飛び起きたくらいだし、辰兄さんが正気を疑ったほどだ。
「春菊さん、マジで永久姉と結婚する気ですか?」
「マジですよ。魅力的な女性ですし、仕事も生活もそつがない。いい人です」
……確かに永久姉は家事全般得意だ。
男にもてるためという悲しい動機だが、お母さんたちから嫁入り修業は念入りにされている。
人柄を除けば上玉であるのは間違いない。
性格面がカスなだけでそれ以外はいい伴侶になれる素質があった。
ただなぁ……。
「あの、木皿儀の本家はどんな反応で?」
「十三階段はみんな賛成の意です。年寄り連中は黙らせましたし、妖怪たちも歓迎していますよ」
「嫁入りと婿入りどちらの予定で?」
「本流は伊皿木家ですからね。婿入りの予定ですが十三階段としての仕事もこなしますよ。むしろそちらはどうなんですか?」
「うちは行き遅れだった永久姉が結婚できるならまぁいいかなという意見が主流です。同じく年寄り連中が五月蠅かったですが私のお爺ちゃんが一喝して黙らせました」
「お爺さまはなんと?」
「孫娘をやるのだからしっかり顔を見せに来なさいと言ってたくらいです。多分酒を酌み交わしたいだけだと思いますけどね。長女の永久姉の事可愛がってたので色々言われると思いますが」
「ふっ、私の永久さんへの愛を舐めないでほしいですね。百を聞かされたら今の永久さんについて千語ってみせましょう」
あ、この人も変人だ。
あるいは変態だ。
たぶん大丈夫だろう。
そんな気分で実家の住所を教えた三日後、手土産を持参して結婚の申し込みに行ったらしい。
「で、どうなったの?」
「お爺ちゃんに気に入られて、お父さんも気に入ったようで伊皿木家秘伝のあれこれをいろいろ教え込むらしいです。ほら、長男がアレで孫やひ孫が何人いるかわからないので正式な後継者となると……」
「なるほどね。それなら心配いらないんじゃない?」
「じゃああの計画も進めて大丈夫ですか? ちょっとこの問題は大きすぎたので先送りにさせてもらってましたが……」
「えぇ、東京から船で2時間半、小さな無人島だけどそこを伊皿木家に譲渡します。そのうえで伊皿木辰男を中心とした方々には移住してもらうわ。辰男さんを除いて兄妹は本島に残るけれど各地でお仕事をしてもらう形になるわね」
「わかりました。それじゃあ私もこれで」
「えぇ、たまには奥さんとして顔を出してね? 私もお嫁さんとして遊びに行くし連絡もするから」
私はこれから東京を離れる。
私と関係を持った子達もついて来たいと言ったが、これは私のお仕事だ。
それに巻き込むのは気が引けるし、何より私の第一婦人は祥子さんだ。
だから今回あの地で仕事をするのは私だけだ。
5年……いや3年で終わらせよう。
絶対にこの地に帰ってこよう。
そう決意して私はヘリに乗り込んだ。
無人のそれは電子生命体が操縦してくれる最新鋭の物であり者である。
辰兄さんのお嫁さんの子、つまり私にとっての甥っ子が現地まで送り届けてくれる手はずになっている。
「よろしくね、A-P1君」
『はい、よろしくお願いしますおば様』
おば様なんて言われると複雑な気持ちになるけれど、私も子供達がいる。
あの子達の成長を見届けたいと思うけれど、そのためにはこの仕事を成し遂げなければならない。
だから行かなきゃいけないんだ。
あの土地へ……。
「目標群馬、ナイ神父撲滅作戦始動よ。地獄への片道切符にならないことを祈っていてね」
『マキナさんのバックアップもあります。いざとなったらネットに避難しますので端末は持ち歩いていてくださいね』
「了解。ミッションスタートよ!」
ラストミッションの始まりだ。




