お目眼キラキラ
さてさて、無事木皿儀家は長年の因縁を捨て去り伊皿木家並びに国家公安委員会と共存の道を歩んでいくことになったわけだけど……。
「なんでトップの円香ちゃんがうちに住むことに?」
「いわゆる生贄です……その、十三階段初の会議にて連れてきた原因だし責任者は責任を取るためにいるから出向と言われて」
「ふむ?」
「伊皿木家の気が変わらないようにお目付け役兼防犯ブザーとして……」
あぁ、なるほど。
私達が木皿儀家を滅ぼそうと思ったらまず真っ先に円香ちゃんをどうにかするという事か。
あの集落に辿り着こうにも特別な手順が必要だし、それを聞き出さなきゃいけない。
私は覚えているから当然隣で見ていた祥子さんや縁ちゃんも同様だろう。
だけど仮に生体認証みたいなのが必要になったら?
その時は円香ちゃんを引きずってでも連れて行かなければならない。
運が良ければ伊皿木家の血でも認証できるかもしれないけれど、そこで賭けに出るほど温いとも思っていないのだろう。
だからこそ念入りに、いざという時円香ちゃんから連絡が途絶えたらあの集落への移動ルートを潰して引きこもるという意思表示なんだ。
「……というわけで、しばらく置いていただけませんか?」
「それは構わないけど防犯ブザーとしては役に立たないと思うわよ?」
「と、いいますと?」
「私一度行った事がある場所、会った事のある相手がいる場所ならどこでも行けるから」
影移動と転移で。
やろうと思えば異世界経由での移動もできるから道を全部潰しても抜け穴捜して潜り込むだけだし。
「……なんでこんな規格外の人外と戦う事になったんでしょう」
「失礼な。分類上は人間よ?」
統合後戸籍を一新する際に一周回って人間という扱いになった。
ちょっと変わった細胞の持ち主くらいに扱われている。
鬼の血に関しても世代を重ねすぎて実物の鬼や、ゲームのオーガとかと比べると別物という事で比較的人間という立場に収まっている。
ついでに公安も「あー、面倒くさいから人間でいいですよ」と太鼓判を押してくれた。
「あ、そうだ。戸籍とかどうしてる?」
「そりゃ戸籍の100や200はありますけど……」
「いやあっちゃダメでしょ、そんなに」
「私達はそういうのが無きゃいけない存在だったので……なんにせよこちらで統合後と言われる時代の戸籍やら住民票やらはちゃんと用意してます。いらないのとか、足がつきそうなのは放置しているので公安に送り込んだ涼香にでも聞いてください。彼女はその辺の事情全部記憶しているので」
「……記憶?」
「はい。この電子社会で一番安全な保管方法はアナログ、その極地が記憶です。涼香の場合見聞きしたものは全て覚えているという体質なので」
「あー、祥子さんと同じ類の人かな? 先天的? 後天的?」
「生まれつきだそうです。物心つく以前からの記憶も持っているとかなんとか」
「へぇ……」
祥子さんは後天的に、必要に狩られて完全記憶能力を得た人である。
テスト勉強をしたいけれど時間が無くて、ついでにお金も無かったから本屋さんとかで立ち読みした参考書を基に大学試験に臨んだらしい。
……法的にいいのかなと思ったけど、祥子さん曰くばれなきゃ犯罪じゃないとのこと。
自白してますよね総理大臣?
「先天的にそういう体質の人は初めてだなぁ……もしかして十三階段ってみんなすごい人?」
「暗殺という意味では木皿儀家の中ではそこそこですが、人となりとしては信用に値するかと。いえ、暗殺者を信頼というのもどうかと思いますけど」
「言い回しが完全に悪役のそれだものね」
「まぁ悪の怪人みたいな人が言ってるので説得力はあると思いますね」
はははっ、こやつめ。
「ちなみになんだけど……円香ちゃんも何か能力ある?」
「私は毒の調合くらいしかできないですよ。あ、でも薬なんかも作れます」
「おぉ、それはいいわね。地下で薬草作ってるからあとで見る? 異世界のとかも揃えてるわよ?」
「ぜひお願いします!」
「ただ気を付けてね。近づいただけで骨も残さず溶かす草とかあるから」
「それは便利ですね!」
「……その反応は新鮮だわ」
周りからはドン引きされまくったのだが、円香ちゃんは目をキラキラさせていた。
うーむ、近頃の女子はなにで喜ぶかわからぬのう。




