お話合い(物理)
「つまりなんじゃ? 伊皿木の当主でもない小娘が我ら木皿儀家の長老会を潰すと申したか」
あれからゲリさんに運賃をお支払いして、駅で妙な順番でポチポチして出てきた切符を片手に電車に乗って数分で辿り着いた木皿儀家本拠地。
錆びれた駅の周りに建つ古民家の中でも一番大きなお屋敷に通された。
敵意むき出しだったけど気にせず、こちらも殺気全開にしたら静かになったけど。
「今回の勝負はそっちが吹っ掛けてきたもので、勝った方が負けた方の言い分を聞くという内容。その程度の雑事にうちの、表も裏も当主が出てくるほどじゃないわ。それに潰すわけじゃなく、今後長老会は一新、この木皿儀円香ちゃんを中心に据えて展開してもらう予定だから。あ、それと日本政府御用達としても働いてもらうつもりなのでよろしく」
「それを飲むと? ここで貴様らを殺しても構わんのだぞ」
それは私や祥子さんはもちろん、円香ちゃんも殺すと言っているのだろう。
まぁ向こうの言い分としては負けておめおめと逃げ帰った駒と言った扱いなのかもしれない。
惜しい事をする人たちだ、価値を理解していない。
人間として辿り着ける境地としては最高峰、レベルカンスト寸前にまでたどり着いているだけではなく、危機察知能力に関しても超一流の円香ちゃんを殺すとか……。
「言う事を聞かないというのならこちらも実力行使に出るまでだけど?」
殺気を放ってみれば少し静かになった。
が、まだまだ敵意は消えていない。
長老会というだけあって案内役の人よりは肝が据わっているようだ。
まぁ本当にそれだけなんだけどさ。
「ふっ、若造共を送ったのが間違いだったか……なればここで儂等長老会が貴様らを殺し、そして伊皿木家を根絶やしにしてさらし首にしてくれる!」
1人の御老体が小刀片手に飛びかかってきた。
かなり速いのだけど……それは人間基準で、という但し書きがつく。
私もなんか色々面倒だから分類上人間という事にしておこうという事になっているが、ぶっちゃけ一会ちゃんの方が早いし、羽磨君の方が気配の消し方が上手い。
要するに雑魚である。
私や祥子さんはもちろん、縁ちゃんが動くまでもなく円香ちゃんがその小刀を奪い、そのまま眉間、喉、鳩尾に三度突き立てた。
その速度はご老体の物と比べるべくもない速度であり、化け物基準であっても一瞬の動きにしか見えなかっただろう。
「さて、あと何人殺せば、それとも全員殺せば長老会を明け渡していただけますか?」
ゆらりと揺れるように動く円香ちゃんだが、その頭部だけは微動だにしない。
芯が入ったかのように軸がぶれていないのだ。
このまま続ければ間違いなく円香ちゃんの圧勝で終わる。
後腐れの無い方法だ。
「くっ、謀反である! 誰かここへ!」
思ってたけど、この長老会って戦国の時代から語彙が変化していなかったりする?
それとも単純にそういう口調なだけなのかな。
今時謀反とか……いや、よそ様の家についてどうこう言うのはよくないわね。
反省反省。
「お呼びでしょうか、長老」
おっと、数十人の木皿儀っぽい気配纏った人達が来たぞ?
いや、中には純然たる鬼とか化け物もいるな。
世界統合の影響で化け物になったのではなく、元からこちらの世界で生活していたタイプの化け物だ。
この手合いははっきり言って手ごわい。
それなりの存在になれば私でも面倒に思うくらいには頑丈で、捕まれば腕の一二本は千切られる。
以前本物の天狗と喧嘩になった時は内臓引きずり出されたけど和解して飲み勝負で勝って便宜を図ってもらった事もあったが……そこまで友好的な相手には見えない。
「こやつらを殺せ! 円香もだ!」
「御意」
鬼の一人が金棒を振り上げる。
円香ちゃんでも余裕そうだとは思うけど……あ、いや、放置でいいや。
「なっ」
鬼が金棒を振り下ろす際に手を離した。
つまりはぶん投げた。
そのまま金棒はすっ飛んで行き、長老の頭部を弾けさせて壁に突き刺さったのである。
「我らが忠義は新たな長老である木皿儀円香様に」
「だそうだけど? ……いつの間にこんな根回ししたの?」
「伊皿木家に喧嘩を売るってなった時にこっそり話しておきました。私が伊皿木家の人間に負けて一緒にここに来るようになったら味方をするようにと。敵対する形ではなく助かりましたっす」
……抜け目ないなこの子。
ここまで秘密にしておいて、いざ伊皿木家が無理やり木皿儀家解体とか合併とかしようものなら不意打ちなりなんなりでこちらの戦力を削いでいた。
あるいは気を向けさせてその隙に木皿儀本家は逃げ出す算段だったのだろう。
今回は利害の一致で長老の一人を潰して、その忠誠心がどこにあるかを教え込み、残った長老たちも捕獲されたと。
「ご安心を元長老会の皆様、あなた方に危害を加えるつもりはありません。ただちょっと隠居していただくだけですよ……群馬の別荘でね」
あ、終わったわあの人達。
ナイ神父のおもちゃルート確定ね……同情はしないけど。




