被害者コンビ
翌日、円香ちゃんを木皿儀家の長として認めるように書状を出したところすぐに返事が来た。
要約、なんでもいいから殺さないで、あるいは殺すならせめてサクッと楽にしてくれとのことだった。
……プライド無いのかな?
それとも縁ちゃんに砕かれちゃったかな?
というわけで、とりあえず木皿儀家の本拠地にお邪魔することにした。
今回は祥子さんと縁ちゃんもついてきているが、一会ちゃんや辰兄さん、そして永久姉はお留守番だ。
刀君も先日の一件で橋姫さんに捕まっているので、私と縁ちゃんが代理としてきたという形にしてある。
祥子さんは国の重鎮という立場から自ら足を運ぶと決めたようだが、縁ちゃんがいるから許可したようなものだ。
「で、どうやって行けばいいの?」
「券売機のある駅で特定の順番でボタンを押してから電車に乗れば着きます」
「今時券売機って……よほどの田舎じゃないと無いわよね」
「そうですね、ここからだと一番近い駅でも2時間は覚悟するべきかと」
「じゃあタクシー使いましょう」
円香ちゃんが不思議そうに顔をかしげる。
気持ちはわかる。
電車で二時間、車の方が近いパターンもあるが路線図を見れば明らかに遠回りで高額になってしまう。
が、今回のタクシーは別だ。
ピーと指笛を吹いて待つこと30秒。
「お呼びですかフィリアさん!」
ゲリさん到来。
ゲーム時代飛行系モンスターで統一してタクシー業にいそしんでいた彼は、その仲間と共に国ぐるみでタクシー業を始めた。
世界一フットワークの軽い王様として記録に残り、そして最も速いタクシーとしても有名だ。
「ど、ドラゴン!?」
「そう、タクシーにして運転手にして王様のゲリさん」
「ローゲリウスです。……まぁ本名は別にあるんですが、国じゃそれで通してるんでよろしくおなしゃすお嬢さん」
「あ、はい……言ったらなんですが、酷いあだ名ですね」
「あの人にネーミングセンスを求めるだけ無駄だぜい? というか倫理観が終わってるから……人肉煮込んだスープ飲ませてから本当に飲んでしまったのかい? って聞いて、捨てたり落としたりした奴ら片っ端から殺していったような人だよ。ゲーム内でだけど」
「あー、まぁやりかねないっちゃやりかねない……」
「他にも自爆してゲームのサーバー落としたりしたから……結構とんでもない事やってたし、ネットに記録残ってるから探してみるといいですぜ。とりあえず敵対はNG」
「それ、もうちょい早く言ってほしかったです……」
なんか意気投合しているけど……ひとの悪口で盛り上がるのはよくないわよね。
そう言いながら2人の肩を掴むとガタガタと震えはじめた。
「あ、ゲリさん。タクシー代だけど円がいい? ドルがいい?」
「く、クレカでも電子マネーでもいいですよ」
「そう? じゃあクレカでお願い。上に提出するのに一番楽なの。あ、領収書は伊皿木刹那でよろしく」
「は、はい」
「じゃあ目的地だけど……どこがいい、円香ちゃん」
「あ、えっと……じゃあ御調駅で……あそこが一番近いですから」
えーと御調……あ、あった。
奥多摩の更に先か……秘境もいいところね。
というかほぼ山の中だわこれ。
「方角は……あっちか。じゃあゲリさん、あっちに向かってしばらくお願い。適宜方向修正入れるから耳は傾けておいてね」
「了解っす!」
「それと私達はいざとなったら自力で飛べるからいいけど、円香ちゃんはレッドデータブック登録されてるほとんど人間ってタイプだから気を付けてね。飛べないし、高高度から落ちたら死ぬから……死ぬわよね?」
「流石に雲の高さから落ちたら死にますね」
のようである。
ゲリさんも珍しそうに眺めているが、あなたの国にも一応普通の人間いるわよね……。
国内でもフットワーク軽いから見慣れてると思うけど、日本人でほとんど人間って言うのは珍しいのかな?
「そんじゃあ安全運転で行きます。ただどうしても揺れる事があるんでフィリアさんが押さえててくれると助かりますね」
「そこは任せて。妙な事口走らない限り2人の安全は保障するわ」
胸を張ってそう答えるとぶるりと身震いした2人。
まぁ要するに……さっきみたいに陰口とか悪口で盛り上がったらわかってるわよねという脅しである。
本気で殺すつもりは無いけど、墜落くらいは覚悟してもらう事になる。
ついでに円香ちゃんと一緒に落ちるとなったらバスター決めるくらいのつもりでいるし、ゲリさん使ってドライバーするつもりでもいる。
「じゃ、そういうわけでよろしく!」
「は、はい!」
無事退院!
みんなエナドリの摂取しすぎと、不摂生と、熱中症には気をつけましょう!




