誰でもそうなる
一通りの案内を済ませて我が家に帰る。
もちろん円香ちゃんも一緒だ。
宿の用意はあると言っていたが、今は監視下にあるという意味も込めてこちらにお招きした。
ホテル代は私が立て替えておいたし、公安も経費で落ちると言っていたので安心である。
「さて、じゃあ改めてこれからの事だけど」
「はい」
「暫くはここを拠点にしてもらう予定だけど大丈夫? 一通り必要そうなものは武器も兵器も含めてあるけど」
「いや兵器って……」
「地下に馬鹿でかい空間があってね、まぁうちの子……私と末妹の縁ちゃんの力を受け継いで生まれた家の守り神みたいな子なんだけど、その子が好奇心旺盛で地下を拡張して色々な設備を作ったのよ。その際に巨大人型兵器とかも作ったの」
「……それ使ったら誰が殺しに来たか一目でわかりますね」
「あと衛星砲もあるよ。えーと、テレビのリモコンの隣に置いてあるアレが発射スイッチ。電気の照明リモコンに偽装してあるの。廃棄コロニーを勝手に回収して作ったらしいわ」
「勝手にそんな事していいんですかね……というか明らかに間違えて押しますよね!」
「大丈夫。最近は間違えなくなったから」
「以前は間違えてたんですか!?」
「被害を受けたという苦情は一件も来てません」
「でしょうね! 国ごと吹っ飛んでますよねそれ!」
まぁ実際のところ何回か押し間違えたけど、本当に発射されたのは数回だから……。
方々に喧嘩を売る国家とか、コロニーを地球に叩きつけてやろうぜと言ってた勢力の集まりが作った国とか、とりあえず危険思想なところしか銃口は向けていない。
まぁそういった国家が次々消滅して、そのたびに謎の光が見えるという事で神の裁きが云々と新しい宗教が生まれたけどヨシッ。
「あ、防衛面に関しても万全だから。国家規模で攻め込まれなければだいたい何とかなるわ。仮にその規模で来ても対処はできるから」
「えと……例えるならどれくらいの防衛能力ですか?」
「んー、五稜郭とかペンタゴンくらい? 忍び込むのは無理だと思う。流石にコロニーレーザーを何発も打ち込まれたら危ないけど地下シェルターなら安全だから。あそこなら放射能で改造した巨大とかげがビーム吐いても問題なかったし」
「……改めて、今の長老共は馬鹿なことしたなと思います。うちの爺が後釜を譲ったのが間違いでしたね」
「おじいさん?」
「えぇ、私の実の祖父ですが結構なやり手でして。あぁ、暗殺者としても教育者としても指導者としてもという意味で」
「ほほう、それは随分なひとみたいね」
「問題は享楽主義者で権力を好まない質なので、木皿儀家のトップに立ったはいいものの仕事に忙殺されるのは適わないとさっさと引退してしまったんですよ。結果その後釜についたやつらが暴走して今回の一件に……いえ、私達もいけるだろうと思っていたんですが、ここまで規格外とは思わず……」
「まぁ責任者は責任を取るためにいるともいうし、下の甘言にそそのかされたとしても罰を受けるのはその人達でしょうね」
「煮るなり焼くなり好きにしてやってください」
「いらない、美味しくなさそうだし」
流石に人間を食べた事は……ゲームでしかないけれど、老人にせよ中年にせよ美味しくなさそうなのは間違いない。
地下で飼っているミノタウロスの方が百倍は美味しいだろう。
最近は遺伝子改良で肉を食べていると思えるような、それこそ霜降りのようなとろける食感じゃないのに脂の甘味とうま味が凝縮されたような品種が産まれてきている。
これがまた美味しいのなんの……祥子さんですら絶賛するくらいで、国家首脳会議でもメインディッシュになったくらいである。
そろそろ外部の牧場に委託してもいいかなという話にもなっているが、原種はうちで確保しておく方針だ。
日本人はサシの入った肉を好む傾向にあるからか、どうにも霜降りに拘るのよね。
私はギシギシと音を立てるような硬いお肉が好きなんだけど……。
だからこそ高いお店で食べる奇麗な盛り付けのステーキよりも街でふらりと入れるようなやっすいステーキ屋さんで出てくる「肉です」って感じのステーキの方が好きだった。
「あぁ、でもいい考えが浮かんだわ」
「なんか、嫌な予感が……」
「ふっふっふっ、その感覚は大切よ? なにせあの場で縁ちゃんに睨まれる前に逃げだせたくらいの危機察知能力があるんだからこれからも磨いていくといいわ」
「今も逃げたいです」
「木皿儀円香さん! 今回の長老達は全員引退してもらって貴女に長となってもらいます!」
「……やっぱりそういう話でしたかぁ」
諦めにも似た表情で天井を見上げる円香ちゃん。
まな板の上の鯉みたいな表情ね……別の意味で美味しそう。




