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なんやかんやで喜怒哀楽の激しい木皿儀円香ちゃんとのお話し合いは終了した。
そんなに表情豊かで大丈夫なのか聞いたところ、暗殺者としてオーバーリアクションするように訓練してきたらしい。
もちろん無表情も貫けるが、交渉の場ではその方が通りがいいとかなんとか。
うん、足の先から脳みそまで暗殺というものに浸っていると思ったし、戦闘民族だわこの子。
実際刀君の本領をほとんど発揮させず、盤外戦術みたいなもので勝利してたし……侮れないわね。
一方他の方々と言えば、医療班と辰兄さんにドナドナされていった。
主に私の対戦相手だった結城さん?
あの人と雄太君は辰兄さんの魔の手に落ちたという事で無事お別れできたのである。
そして伊皿木家はというと、その足で仕事に向かったのだった。
円香ちゃんを連れて。
「ここが公安っすか。今まで何度か潜入しようとしたけど無理だったんですよ」
「サラッと凄い事してるわね……ここのセキュリティは万全だから潜入出来たら死んでたわよ?」
主に縁ちゃんパワーで。
あの子は今じゃここの守護神としてあがめられている存在でもある。
研究者さんがほぼ旦那さん状態で、よく寝てる縁ちゃんをお姫様抱っこで運んでいる光景が見られるのだが、ひとたび侵入者の気配を察知すると飛び起きて現場に急行するのだ。
普段の愛らしさと、いざという時の頼もしさ、そのギャップが男女問わず職員さんを癒しているらしい。
どうにも公安内でのアンタッチャブルな存在としても扱われているらしく、百合の間に挟まるような禁忌として遠巻きに眺めるのが一般的だとか。
まともに話しかけられるのは私と一会ちゃん、そして祥子さんを除けば旦那さんっぽい状態の研究員さんと、仲間意識を持たれた天照様ことテンショーさんくらいだ。
ちなみにナイ神父が来た場合どんな理由であってもぶん殴っていい事になっているので、たまに血の海が出来上がるが研究員さん達はその血液を一滴残らず採取しているのでたくましい。
たくましいのだが……その血液を辰兄さんの精液と混合して謎物質を生成するのやめてほしい。
この前知らない子に「はじめましておば様」と言われてびっくりした。
いや、甥っ子姪っ子は結構な数いるのだが、公安内にいる知らない子に言われて本気で驚いた。
「あ、今は権限貸し出してるから大丈夫だけど正式な職員になったら色々検査もさせてもらうと思うからよろしくね?」
「検査……ですか?」
「まぁ簡単な血液検査とDNA登録、それから網膜スキャンに音声認証と指紋認証、それから生体データだから大掛かりな身体検査みたいなものよ」
「……注射嫌いなんですよね」
「暗殺者なのに?」
「暗殺者でも注射は嫌いです! こう、腕をズバッと切って血を採取する形じゃダメですかね」
「それはちょっと……空気に触れてない血液を採取するのが主目的と言ってたから。でもその方法でも欲しいデータが出てきたらやってもらうかもしれないけれど、私以外にそんなこと言う人いないと思うわ」
なぜか公安では私の扱いが適当なのだ。
血液検査しますね、はい、ここにエンコ置いていってくださいね、以上。
と言った感じで毎回検査が終わるのでスパッと指を斬り落として再生して帰るのがいつもの光景だったりする。
「他にはどんなことを?」
「ここは半分が研究機関で、残り半分は大掛かりな市役所と思ってもらえばいいわ。端的に言えば日本にいる人全員のデータが集まってて、やりようによってはその全員の行動を監視できるようになってるの。逆にそこまでやっても見つけ出せなかった木皿儀家がどうなってるのか不思議なくらいだったわ」
「あぁ、俺等は普段彼岸とこちら側の境界線にある場所を根城にしているんで。たまに迷い込んでくる奴らもいるんですが……あの場所からの脱出は一般人には無理っすね」
「そんな場所があったんだ……あ、いや、似たような場所は知ってるけどアレは完全にこっち側に存在しているから似て非なるものなのかな?」
私が以前住んでいた悪霊のたまり場になったアパート、そりゃもう悪霊が出るわ出るわで家賃逆に貰いたいくらいの場所だった。
あれをもっと酷くした場所で、霊界に近いところにおいて普段は存在を察知させなければいいという事なのだろう。
それなら今の私でも用意できそうだ。
というかマキナちゃんが似たようなもの作るだろう。
「こっち側にもそういうのあるんすね。今度案内してもらえますか?」
「いいけど……霊的に対処できないと死ぬわよ?」
「あー、おばけ系ですか……俺おばけも苦手で……」
……この子、脳筋かと思ったけど案外かわいいところあるかも。
とか考えると祥子さんによる拳が飛んでくるから自重しておきましょう。
流石に未成年相手はマズいわ……。




