妹強い……
縁ちゃんの試合が始まった。
そして終わった。
1秒にも満たない時間で、自信満々に出てきた女性。
今は全身の関節を外され球体になるように結ばれて泡を吹いている。
……やだ、うちの妹強すぎ。
おかげで試合開始のビーと終了のビーがほぼ同時に鳴り響いた。
「一会ちゃん、見えた?」
「見えるわけないでしょ……刹姉は?」
「かろうじて……指一本で全身の筋肉を弛緩させてから関節を外して結んでた……」
「凄いわねぇ。私程度じゃ無理ね、あれは」
祥子さんが何気なく呟く。
え? 見えたのあれ……。
「祥子さん見えてたんですか?」
「えぇ、割とくっきり。突いたのは……この辺かしら」
トスッと鳩尾のやや下を指で突かれる。
力のこもっていない一撃だというのに、身体に力が入らなくなった。
すぐに戻ったけど、一瞬とはいえ全身が弛緩してしまうというのは戦場では命とりだ。
それを見ただけで真似ただと……?
「便利ねぇ、これ。今度もっといろいろ教えてもらお」
「しょ、祥子さん? これ以上つよくなってどうするつもりで……? 既に人類最強レベルですよ?」
「でもせっちゃん抑え込むにはいろんな手段があった方がいいじゃない? 今のままでも勝てるけど、逃げに徹したせっちゃんを捕まえるのって結構大変だし」
……今後は変なことしないようにしよう。
そして縁ちゃんに賄賂を渡して……ダメだ、財力も権力も祥子さんの方が上だし、縁ちゃん自身私より祥子さんに懐いている。
「あれ?」
祥子さんの不思議そうな声に私も視線を戻す。
縁ちゃんがゆっくりと木皿儀家側に歩いていく。
あ、1人逃げた。
えーと……刀君の対戦相手だった円香ちゃんだっけ。
判断が早いわぁ。
それを合図にしたように縁ちゃんが木皿儀家の面々をドームの中央にぶん投げた。
一瞬の出来事、ダメージを与えないような軽い投げだが全員が呆気にとられたような表情をしている。
「祥姉を狙った罪、償わせてやる」
ぼそりと呟いた縁ちゃん。
一会ちゃんと顔を見合わせて頷く。
刀君の方を見れば……見なかったことにしよう。
橋姫さんが物凄い表情をしていた。
羽磨君は……いない。
置手紙で「仕事が残っているので帰ります」とだけ……。
辰兄さんは雄太君と戯れているが、まだR18じゃないから許そう。
盾にするのは確定しているが、着せ替え人形にされている雄太君のゴスロリ衣装が可愛いからよしとしておく。
あとはお父さんとお母さん、お爺ちゃんお婆ちゃん達だけど……にっこり微笑んで手を振られた。
兄妹で何とかしろってことね……仕方がない。
やりすぎるようだったら止めよう。
そう思った瞬間だった。
木皿儀省吾さん、一会ちゃんの対戦相手がフィニッシュに受けた技を縁ちゃんに繰り出した。
それを躱そうともしないで、そのまま受けるがびくともしない。
普通なら吐血して当然、死んでもおかしくない技だ。
なにせ頑丈さと再生力が取り柄の辰兄さんですら血を吐いたくらいの物を平然と受け止めた。
さっきくらった技をそのまま真似るというのも凄いが、それ以上に縁ちゃんという存在がバグだからなぁ……。
「ぬるい」
そう言って掌底を一発、省吾さんの腹に突き立てた。
威力は皆無、ただ触れただけに見えるそれだが顔面の穴という穴から血を流してその場に倒れ、痙攣する省吾さん。
……同じ浸透系の攻撃でもここまで威力に違いが出るか。
次に地面に唾を吐いた縁ちゃん。
お行儀が悪いと叱ろうかなと思ったが、毒沼が出現した。
そこから私の対戦相手を引っ張り出して、既に死にかけているその人の関節を全て外してから丁寧に折りたたんで毒沼の中へと押し込んだ。
……私の血で作った毒沼より強力なんだろうな、あれ。
そのまま残りの人達もそれぞれに合わせた方法、つまりはうちの面々がやった方法で御片づけをしていった。
「縁ちゃん、そのくらいで」
そして一通りお片付けが済んだところで祥子さんからストップが入った。
私も一会ちゃんも止めに行こうとしたが、動けなかったのだ。
ガチギレ縁ちゃんはアンタッチャブルだしね。
「祥姉、身体は大丈夫?」
「えぇ、おかげで元気よ。それより木皿儀家の皆さんをそろそろ解放してあげて? お話もあるし」
「わかった。……お前ら妙な真似をしたら死を懇願する人生をくれてやる」
……私の妹、怖すぎない?
そしてその手綱を握る祥子さんはもはや人類最強どころじゃなくない?
あ、毒沼に沈めたやつも引っ張り出した。
服が全部溶けて、白目剥いて泡吹いてる。
「さて、それじゃあ交渉といきましょうか」
祥子さん、それ交渉じゃない。
武力を持って脅迫してるだけや……。
新作公開やでー
今回はVtuberモノ




