襲撃、あったよ!
「さて、勝ちも確定しましたし戻りますか」
「いいの? 何かわけあってここにいたんでしょ?」
「えぇ、また暗殺されそうになったら不味いので裏方にいたんですが、次は縁ちゃんの出番ですから。うちの最強戦力を潜り抜けてこられるとは思えませんしあっちの方が安全です」
永久姉や羽磨君じゃ正面突破とかされそうになった時に対処が難しいからね。
私も抜かれたから、まともに暗殺する気がある相手なら縁ちゃんくらいの強さがないと厳しい。
そして私が隣に控えていて、辰兄さんという盾があって、刀君と一会ちゃんという矛がある。
羽磨君もどこで習ったのか解毒などに関する……まぁ木皿儀方面の知識があるみたいなのでスタンドの方が安全だったりするのだ。
正直この控室は守りに向いてないけれど、それでもここにいたのは永久姉の試合を見せたら全てがおじゃんになりそうだったから……。
羽磨君の時はまだ祥子さんがおねむだったのもあって、すぐに戻ると不意を突かれそうだなと思った次第。
というわけで縁ちゃんの試合を見に行くことになったのだが……。
「伊皿木刹那、ならびに伊皿木祥子だな。ここで死んでもらう」
「テンプレかな?」
スタンドまでの道中、見知らぬ人たちに通路をふさがれた。
戻ろうにもご丁寧に挟み込まれてしまったため、逃げ場がない。
やろうと思えば全員ふっ飛ばせるんだけど、衝撃で建物倒壊とかしたら……流石に東京ドームを壊すのはね。
そろそろ2桁回超えて崩落させてるせいであちこちから目をつけられてる。
毎回壊すたびにその時のお偉いさんに土下座しに行ってたから……。
「無益なことはやめない?」
「無益かどうかを決めるのはお前じゃない」
ごもっとも。
お仕事をこなしているだけだからね、この人達。
「じゃあ手早く終わらせるとしますか」
「え?」
祥子さんが物騒なこと言い始めた……と思いきや、背中に生えてる天使の羽を硬化させて手裏剣のように飛ばした。
破裂音の直後に正面にいた全員が倒れ伏している。
音速を超えた攻撃……しかもこれ、毒のおまけまでついている?
いよいよ人間辞めてきたなぁこの人。
いや、まぁ統合の際に天使化したからとっくにやめてるんだけど、戦闘力が並外れている。
ここは負けてられないわね。
右腕を斬り落として、そこから私が食べたことのある存在を全て混ぜたキメラを作る。
なんかね、やってみようと思ったら出来て、いまはマキナちゃんの実験材料の一つになっているんだけど、化けオンで食べたものも反映されるらしい。
おかげでゲリさんとかのドラゴンが多分に混ざってるのでそこそこ強い。
並大抵の相手なら余裕で戦えるし、空中戦できるし、いざとなったらこっちのコントロールで自爆させられる。
そしてその血液は私の物なので飛び散った際には大地を汚染するのだ。
……BC兵器扱いされて特定の場合を除いて使用を禁止されてるけど、今回はいいよね?
「れっつごー」
「ぎゃおー」
気の抜けた鳴き声だなぁ。
とか思っていたら後方にいた人たちが遠慮なくキメラにナイフやら刀やらを突き立てた。
一部は鱗に弾かれたんだけど、偶然刺さったそれらは溶かされて食われていく。
私の下位互換だから武器で相手しようとすると普通に溶かされるのよね。
火炎放射器とかの方が効くんだけど、木皿儀家はそういうものをあまり使わないって聞くから。
爆弾は……微妙なところ。
爆炎自体は効くと思うけど、それだってすぐに修復するだろうから。
「じゃ、任せたわ」
「ぐぎゃっ」
キメラ君は頷いて先を促したので、それに従い私達は祥子さんの毒で倒れた人たちを乗り越えてスタンドに戻った。
「あ、刹姉。戻ってきたの?」
「えぇ、途中襲われたけど控室よりこっちの方が安全だろうからね」
「それはそうで……まって、襲われた?」
「半分は祥子さんが瞬殺、残りは私の腕から作ったキメラが対応中」
「殺してないわよ?」
祥子さんの弁明、しかし誰も取り合わない。
この人、やる時はやるから日頃の行いが物を言う。
「キメラ作ったの?」
「今回は必要だと思ったし、祥子さんにも止められなかったから」
「なら……まぁいいか。あれなら後始末もしてくれるでしょうし」
「戻ってきたら右腕に戻せばいいからね」
一応このまま右腕を再生することもできるが、切り離したぶんカロリーも消費するのでやってない。
戻ってきた時に吸収すれば回復するのだ。
「で、縁ちゃんだけど……」
「張り切ってるわよ。スタンドの真ん中でおにぎり食べてる」
「うわっ、本気ね……」
縁ちゃんがご飯を食べるというのはそれだけ力を使おうという意気込みなのだ。
つまりカロリー分は殺される。
「まぁ祥子姉が襲われたからね。本気にもなるでしょ」
「……ルール違反になっても一応勝ちだから、大丈夫よね?」
「……観客、全力で守りましょう」
「辰兄さんを盾にしておけば大丈夫そうだけど……不安ね」
「えぇ、本気のあの子は何をするかわからないから……」
不安だ……。




