NINJA
遅れました!
永久姉が相手を倒すまでにおおよそ10分、祥子さんは相変わらず私の膝の上ですやすやだった。
うん可愛い。
「っと、こっちは映像で見るかな」
最近の動画は凄い物で私でも本気を出さないと紙芝居に見えない。
動体視力がよすぎて以前はずっと紙芝居見てる気分だったから……気を抜けば問題ないてわかったけど、今じゃ逆に本気で挑まなきゃいけない相手だったりする。
というわけで羽磨君の試合。
彼は目立たず、気配を消しながらというのがメインの木皿儀家のような暗殺者スタイルだ。
故にこの試合がどうなるか私にはわからないのだが……。
試合開始と共に羽磨君が動いた。
というよりも気配を消した。
動画越しでも集中しないとその姿を見失いそうになるほどの物だ。
「刹姉、羽磨が消えたんだけど?」
「まだその場にいるわ。気配を消しただけ」
一会ちゃんの疑問に返事をしつつ、私が画面に眼を戻すと羽磨君が消えていた。
「一会ちゃん、羽磨君が消えたんだけど?」
「敵の背後にいるわ。本気で気配察知しないと見つけられないとか、腕を上げたわね」
うーむ、やはり目の前で見るのとではだいぶ違うな。
しかしこれ、テレビ受けはしないでしょ……。
羽磨君の性格的に本気で挑むとは思うけど、それが目に見えないんじゃどうにもならない。
一方の相手も気配を消しながら、僅かな痕跡を辿って羽磨君と大立ち回りをしているように見えるけど……やっぱり目で追い続けるのは難しいわね。
「ん、んん……」
お? 祥子さんが起きた?
「おはようございます」
「おはよ……あれ? 試合は?」
「永久姉が終わって、今羽磨君が戦ってます」
「へぇ……あ、上手く後ろ取ったわね」
「え?」
「え?」
「見えてるんですか?」
「そりゃ見えるでしょ。目の前で気配消されたわけじゃないし」
いや、私にはさっぱり見えないんだけど……もしかしたら祥子さんはその辺も鋭くなっているのかもしれない。
完全に上を行かれてしまった……一応護衛という役職を貰っている私と一会ちゃんの立つ瀬がどんどんなくなっていく……。
脳裏で「日本を率いる総理大臣が国民総出より弱いと思ったかうつけめ」と言っている覇王祥子さんが目に浮かんでしまった……。
まぁどうあがいても縁ちゃんには勝てない……こともないわね、物で釣れば。
「どしたの?」
「いえ、なんでも……とりあえずこの試合見たら戻りますか?」
「そうね。とりあえずお茶でも飲みながらモニターで観戦しましょう」
言われるがままにテレビをつけて、羽磨君たちの試合を観戦する。
が、やはりというべきか、実況の人も何が何だかわからない様子。
今までもだいぶ困惑した実況だったけど、それに輪をかけてわかっていないようだ。
一進一退の試合、と言っても差し支えないんだろうけどねぇ。
羽磨君の悪い癖が出始めている。
「一会ちゃん、羽磨君に警告」
「了解」
メッセージを送ると共にモニターから微かに声が聞こえる。
一会ちゃんの物だ。
「羽磨! 遊んでると後で辰兄と刹姉送り付けるわよ!」
その言葉と同時に羽磨君の動きが鋭さを増し、敵を追い詰めていった。
……辰兄さんと同列に扱われるの、非常に遺憾なんだけどまぁいいわ。
獲物を前に舌なめずり、三流のすることだからね。
羽磨君は戦闘をメインとしないタイプだからこそ、そういう根底の心構えができていない。
なまじ大抵の相手に勝ててしまうからこその油断があるのだ。
それをどうにか矯正しないとなぁと思っていたけど、悪くない機会だったのかしらね。
「あ、フィニッシュはいるわね」
「え? あ」
祥子さんの言葉を聞いてモニターに目を移すと羽磨君が分身していた。
……やればできるじゃないの。
気配を消しながらの高速移動、そのさなかで一瞬気配を出しての疑似分身ともいうべき技。
私にはまねできない方法だ。
今度気配の消し方を教わるとして、羽磨君はそのまま全ての分身と共に相手を切り刻んだ。
死んではいない。
というよりもとより武器が文房具で、いざという時は手元にあった物で戦うから下手な武器よりもそれっぽい道具の方が強いのだ。
一番使い慣れているのははさみという事で、以前大きな戦闘用ハサミを送ったことがある。
今使ってないけどね……。
「必殺・六乗分殺」
呟いた羽磨君……久しぶりに声聞いた気がするわね。
ともあれこれで伊皿木家の勝ち越しは決まった。
問題は……この後木皿儀がどう動くかなのよねぇ。
キィエエエエシャベッタアァァアア




