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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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刀君、散る

お願い死なないで刀君。

あなたが負けたら兄妹はどうなっちゃうの!?

今回、刀君散る。


しばらく隔日更新で行きます!

 辰兄さんに連行された雄太君に合掌しながら二回戦の準備をする刀君。

 その手に持つのは家宝の刀、備前長船重右衛門……のレプリカ。

 村正なら何本もあるけど、このレベルの刀はさすがにね……国宝扱いされてなければ大体の刀は買えるくらい稼いでいるけど、統合した事で完全にロストテクノロジーになっちゃったから。

 再現はできるけど、鉄にオリハルコンとか混ざるようになっちゃったからできないのよね。

 まぁ日本の刀匠とドワーフが手を組んで大体の物質を切ってしまうやばい刀作り上げて、公安で買い取ることになったけど。

 今も私の影の中に入ってる。

 それを取り出して、刀君に投げ渡す。


「……どういうつもりだ、刹姉」


「どうもこうも、さっきの見てたでしょ。辰兄さんだから勝てた試合、あとは縁ちゃんくらいだろうけど、なりふり構ってられる場合じゃないわ」


「俺が負けると?」


「今まで通りの戦い方なら確実に」


 断言すると刀君の額に青筋が浮かんだ。

 奥さんの橋姫さんはどうでもいいみたいで、ニコニコしながらこっちを見てる。

 手に藁人形持ってるのがちょっと怖いけど……。


「チッ……いいよ、やってやるよ」


 そういって刀君は代わりにレプリカの刀を橋姫さんに渡していた。

 あ、藁人形投げ捨てた。


「でも、殺しても構わないんだろ?」


「相手は木皿儀、そのくらいの気概で行きなさい」


「それもそうだな」


 そう言ってドームのど真ん中に向かって歩いていく刀君。

 木皿儀側から出てきたのは……背の低い女の子だった。

 んー、目算で148㎝くらいかな?

 縁ちゃんよりちょっと大きいくらい。

 で、スリーサイズは……ポンチョ被ってるからわかりにくいけど、少なくともBカップくらいかしらね。

 縁ちゃんはCに近いB、だけどあの子はど真ん中のB……ふっ、勝った。


「刹姉、余計な事を考えるのは命取り」


「アッハイ」


 背後から強烈な殺気を浴びて萎縮する。

 うん、縁ちゃん発育に関してはあまり気にしないけど比較されるのは嫌いだから。

 指針が本人の中にあるからこそ、他者の物差しで測られるというのが大嫌いなのだ。


「で、せっちゃんから見てどうなの。あの子」


「正直未知数ですが、勘では暗殺特化型かと」


「特化ってことは戦闘は不得手ってことかしら」


「だと思うんですが、そんなのがこんな場に出てくるとも思えませんから……たぶん使えるモノは何でも使うタイプの人間です」


「なるほど、限りなくせっちゃんに近い人間と。あとは性根の部分がまともなのを祈るしかないわね……」


「どういう意味ですか?」


「そのままの意味よ」


 そう言っている間に対戦者の二人が顔を合わせた。


「伊皿木家当主、伊皿木刀祢。当主と言っても押し付けられただけだがな」


 刀君はあれでも結構礼儀正しい。

 そんでもって押しに弱いし、おだてられるとある程度までは調子に乗る。

 行き過ぎると怒るけど。


「俺は木皿儀円香。雄太の従姉妹にあたるんだが……あれが伊皿木の戦い方か? 正直俺達より悪辣じゃねえの」


 俺っ娘だぁ!

 右見てよし、左見てよし、下と後ろと上を見ても問題なし。

 よしっ、辰兄さんはあの雄太君にご執心みたいだ。

 戻ってくる前にこの試合を終わらせてほしいと切に願おう。


「あれは一族の汚点だから一緒にすんな」


「それはすまなかったな。だが八つ当たりはさせてもらうぞ?」


「上等」


 刀君が居合の構えで柄に手を当てる。

 一方の円香ちゃんはポンチョの中に両手を隠したままだ。


 誰かが唾をのむ音がすると同時にビーという試合開始の合図。

 瞬間、円香ちゃんの首を狙った一閃が繰り出される。

 けれど空振り、瞬歩って言うんだっけ、あの技術だけで超高速移動する技。

 それを使って円香ちゃんは刀君の背後に移動していた。


「遅いな」


 そんな言葉と同時にナイフが刀君の背中に迫るが、その姿がブレたと同時に円香ちゃんの眼前に現れる。


「そっちこそ」


 そこからは目で追うのが面倒な試合になった。

 カメラも追いきれてないのだが、たまにどこかしらでぶつかり合っている様子が見られる。

 ……正直、刀の良し悪し関係ない試合だったわ。


 刀君はゲームで言うところの戦士、あるいは侍。

 武器一辺倒で、攻撃力と防御力、そんで機動力に優れているが魔法系の技は一切使えない。

 対する円香ちゃんは盗賊とか武闘家の、機動力とクリティカルな一撃を狙いつつ手数で攻める戦法。

 これは攻撃力とか防御力じゃ刀君に軍配が上がるが、スピードと手数では円香ちゃんが勝るのだ。

 つまり最終的に物を言うのはレベル、ステータスといった本人の自力。

 見たところ互角の勝負になっているけれど、不気味なのは彼女がまだ本気を出していないように見える事。

 それは刀君も同じなんだけど、あの子の場合本気を出したら観客とかも巻き込むから出せないというべきか……。

 そのパワーで武器を振るえば衝撃波だけで数百m内の建造物に大きな被害を出す。

 似た者同士であればいいんだけど……。


「埒が明かねえな。そろそろ本気を出すぜ? ついてこられるかよ、兄ちゃん」


 やっぱり、本気を出していなかっただけか……。


「はっ余裕だガサツ女!」


「これでもお嬢様学校育ちでなぁ。本性はガサツだが猫も被れるんだよ。試しに妹キャラでも演じてやろうか? お兄ちゃん?」


「やめろぉ! ぞわっとした! お前の演技と妻の殺意にぞわっとした!」


「ほほう、弱点は奥さんか……あ、やっべー。よけそこなったー」


 そう言って円香ちゃんは刀君の一撃を紙一重で躱しつつ、その衣類を切り裂かせた。

 あともうちょっと上だったらおっぱいがもろ見えになっていたであろう場所、ポンチョを脱ぎ捨てた彼女だがズシャリと音がする。

 相当な数の武器を仕込んでいたみたい。

 ……けどそれより問題なのは背後でぶつぶつと呪いの言葉を吐き続ける橋姫さんだ。

 仮に勝ったとしても刀君は今日死ぬかもしれない。

 せめて腹上死であることを祈ろう。


「きゃあ」


 わざとらしい悲鳴を上げる円香ちゃん、でもその演技だけでも十分致命傷になるんだよなぁ……。


「なにがきゃあだ! お前わざと切らせただろ!」


「こんなか弱い女の子にそんなのできるわけないじゃないですか……」


 そっと顔を背けている。

 ついでにさっきまでの会話は選手に比較的近い場所にいてようやく聞き取れるかどうかだったが、今ははっきりと聞こえるように喋っている。

 つまり刀君は罠に引っかかったのだ。

 あの子猪武者だからなぁ……罠には弱いんだよね。


「刀祢様ぁ? 浮気ですかぁ? 浮気ですねぇ? あなたが誰の夫なのかしっかり教えてさしあげなければいけませんねぇ」


 おぉ、橋姫さん乱入!


「た、助けてください! 試合にかこつけて服を脱がされたんです! さっきのあの子のように!」


 円香ちゃんの言葉にぐりんと橋姫さんが刀君を見る。

 最初は刀君とヘイトを押し付け合っていたようだが、ここにきて一発逆転の一手を打たれた。

 が、その原因は元をただすと辰兄さんに行きつくのはさすがというかなんというか……。

 さっきのゲームの例えで言うなら辰兄さんはヘイトを全面的に受け持つタンクだ。

 ひたすら硬い、攻撃手段もダメージより相手を引き付ける技ばかり、そしてたまにヘイトを他人に譲渡する。

 今回は運悪く刀君がその被害にあったようだ。


 が、円香ちゃんに上着を着せながら耳元で橋姫さんがぼそりと何かを言ったのを見逃さなかった。

 ……えーと、なになに?


「次はありません……こわっ」


 どんな形であれ刀君とふれあいをしたのも、その目の前で肌を晒したのも許せなかったのだろう。

 結果的に目をつけられたようだ……可哀そうに、ぷるぷると小鹿のように震えてらっしゃる。


 そして遅れてビーという音声と共に「木皿儀円香WIN」の文字がディスプレイに表示された。

 まぁね、奥さんの乱入は反則ですし……。


「勝ち負けははっきりしたけど、本気で戦った場合どっちの方が強いと思う?」


 祥子さんが気にしているのはそっちだった。

 最近脳みそマッスルになってるんだよなぁ……。

 心霊番組は絶対に無理だけどプロレスとか嬉々として見てるし。


「互角ですよ。あの円香ちゃんって子は本気を出していなかったけど、あれだけ一撃必殺の攻撃を繰り出しておいて少しも殺意を表に出さず、私にも殺気を感じさせなかった」


 例えるならば空気だろうか。

 よくいう気配を消すという行為だが、これは空気が充満している場所で不自然に真空が維持されているに等しい。

 観測されればすぐに気付かれてしまうし、その手の専門家なら即座に気づく。

 だけどあの子は、私の明鏡止水と同じ要領で気配を完全に溶け込ませていた。

 それを刀君は野生の勘で追いかけていたけれど、向こうから攻撃してこなければ気付けなかっただろう。

 空気の微細な振動を感じ取っていたようなものだ。


「逆に刀君は本気を出せなかった。殺すならこういう面と向かった場所でしか勝ち目はないと言えます。周囲の被害を考えなければ相手を殺す事はできるけど負ける事になる」


「つまり……お互いが本気になったら街の一区画が消し飛ぶ?」


「ですね。でもそうなる前にあの子が勝つと思いますよ。刀君は鈍いですし、私達よりも毒に弱い。だから動きが鈍ったところをさっくりとやられるかと。あくまでも暗殺vs正面からぶちのめす試合になった場合ですが」


「ちなみに刀君と奥さんの試合、それとあの子と奥さんの場合は?」


「刀君は完全に尻に敷かれてますから負けますね。あの子も呪いには太刀打ちできるかどうかわかりませんが、霊能力という意味ではそこまで大した相手じゃないので遠距離で呪われたら死にます。さっきこっそり髪の毛回収してましたから」


 そう、橋姫さんは円香ちゃんの髪の毛をこっそり手に入れていた。

 なにかあったら……まぁ死ぬでしょうね。

 あの人の呪いは永久姉に匹敵するレベルだから。

 もしかしたら上を行っているかもしれないけど。


「じゃあ今伊皿木家のパワーバランスってどうなってるの?」


「下から順に羽磨君、一会ちゃん、辰兄さん、同率で永久姉と刀君、私、橋姫さんでしょうか。その頂点に君臨しているのが縁ちゃんです。私や永久姉なら橋姫さんの呪いを一時的に耐える事は出来ても返したり、無力化するのは難しいので先手を打たれたら負けます。逆にこちらから一撃必殺をぶち込めば勝てますが、永久姉はその手の技が無いですから。刀君が本気で相手をした場合も先手を打たれたら死にますからね。縁ちゃんはその辺一切効かないので橋姫さんに勝ち目はないです」


「……複雑なパワーバランスね」


「ちなみに辰兄さんが何度かお風呂覗こうとして橋姫さんの金縛りによって捕らえられてます。その後家族総出でぶん殴って、刀君の本気で半身消滅してましたから勝負となればぎりぎり刀君が上です」


 パワーだけなら誰よりも上、それが刀君。

 さっき辰兄さんが言っていた「秀でた力」で言うなら刀君の場合は「突貫力」だろうか。

 正直私も武術とか使わないと刀君の突撃を抑えるのは無理だ。

 それをのらりくらりとかわしながら、服だけ斬らせたあの子は相当な猛者だろう。


「じゃあせっちゃんなら?」


「はい?」


「せっちゃんと円香ちゃんの勝負ならどうなってた?」


「んー、私も本気出せませんから……でもまあルールの範囲内でも私も勝ちの目はありますよ? テレビで生中継されている以上使いたくないだけで」


 範囲を絞って自爆すれば観客に被害は出さず、相手だけを倒す事はできる。

 けどその場合服も吹き飛ぶから全裸になってしまうのだ。

 普通の勝負ならまだしも、テレビ中継されてる前で全裸はマズい。

 主に祥子さんの支持率に関わるからやりたくない。

 あと少し恥ずかしいというのもある。


「なるほどねぇ……負ける可能性は?」


「無いですね。泥仕合になるとは思いますけど、最悪の場合でも引き分けでしょう」


 ファンネルとか使えば手足を失っても戦えるし、そういう意味ではルール内で負けることはない。

 結局のところ、私達も木皿儀家もルールに守られているという所がある。

 それが無かったら凄惨な殺し合いになってただろうし……ね?

今回出てきた俺っ娘猫被りちゃんこと木皿儀円香ちゃん。

次回作のVRMMO作品の主人公です。

化け物になろうオンラインじゃないよ、別のVR。

ビーム吐かないし自爆しないし、それなりに人間の範疇だよ!(たぶん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >だけどあの子は、私の明鏡止水と同じ要領で気配を完全に溶け込ませていた。 >「せっちゃんと円香ちゃんの勝負ならどうなってた?」  色々言ってるけど、明鏡止水みたいなって言ってるんだ…
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