本当にあった怖い伊皿木辰男
辰兄さんの試合が始まった。
相手は……木皿儀雄太君17歳。
ナイフと毒をメインに使うみたいだけど、他にも隠し玉はあるだろう。
木皿儀家というのはそういう人達の集まりなのだ。
切り札はここぞという時に使うけど、見せ札は何百と用意しているっていう。
しかもその切り札は一枚だけじゃないよって言うのが本当にタチ悪い。
「せっちゃんはどう見る?」
「辰兄さんなら大丈夫だと思いますが、相手の貞操が心配です」
「……やっぱり?」
祥子さんも同じ考えのようだ。
あの人太陽のど真ん中見てきてって任務普通にこなしたから、死にはしないだろう。
死んでほしいけど。
「お?」
試合開始の合図と共に雄太君が辰兄さんの首を落とした。
このまま一分動けなければ辰兄さんの負けなんだけど……。
「うわ、首が生えたわよ?」
「胴体もはえましたね……辰兄さんが二人とかどんな地獄」
生き別れした首と動体からそれぞれ足りない部位が生えてくる。
なお当然だが首からはえてきた胴体は全裸であり、お茶の間に中継されているのでテレビ局の人達には頑張ってもらうしかない。
とりあえず何かしらの看板とかで局部を隠してもらおう。
「あ、でもあの子も強いわね」
祥子さんの言う通り、雄太君は優秀だった。
落ち着いた様子で毒の霧を使って撹乱しつつ、ナイフで直に体内に毒を送り込んでいる。
それだけでなく、地面に手をついて何かを召喚したように見えるが……あれはスライム?
いろんな世界が統合された際に得た力かしら。
だとして、あのスライムはどの世界のだろう。
某RPGで雑魚と認識されるようになったが、物理攻撃が効かないとか、相手を包み込んで消化するとか、そういう強いスライムが闊歩している世界もあった。
まぁこんな場面で召喚したのだから弱いということはないはずだけど……あ、全裸の方の辰兄さんがとかされた。
骨も残さずに一瞬で……あれは強敵だわ。
細胞の欠片でも残っていればいいんだけど、無からの復活は時間がかかる。
私でも5分は欲しいところ。
生存力に特化した辰兄さんでも1分以内というのは厳しいだろう。
「いやはや、まいったね。若い子ってのは成長著しい。適応力が高いんだろうね」
そんな辰兄さんの暢気な声が響く。
「そういうあんたは随分と弱いな。それでも伊皿木か?」
「僕は博愛主義者でね。戦いとかそういう物騒なのは妹や弟の方が得意なんだ」
飄々と会話をしているが、徐々に辰兄さんの動きが鈍っている。
多分毒の影響を受けているのだろう。
どんな毒かわからないけど、神経系のものかな?
一般人なら一滴体内に入っただけで死ぬような類だと思うけど……。
「あ、しまった」
そんな攻防は長くは続かなかった。
考えなくてもわかるけど、戦闘が苦手で後手に回り続けた辰兄さん。
毒を受けて、初手で首も落とされて、再生に無駄な力を使っているから不利になるのも当然。
「これで終わりだよ。死んじゃいな!」
雄太君がそう叫んでスライムが辰兄さんに覆いかぶさる。
服を溶かし、皮を、肉を、そして内臓を溶かしていく。
R指定がR18Gになったわね……でも。
「いやぁ、これからがお愉しみだろう?」
逆再生のように内臓も肉も皮も復活して、全裸の辰兄さんがスライムを押しのけるようにして出てきた。
あの程度で死ぬなら苦労は無いのよ……。
「馬鹿な!」
「いい機会だから教えておこうか。僕たち兄妹は何かしらに秀でているんだけど、僕の場合は適応力。君の毒にも、このスライム君にも適応したよ。太陽やブラックホール、冥王星の環境に比べたら大したことはなかったね」
辰兄さんがあちこちでお嫁さんを作り、そして宇宙に住む非人型生命体やフラスコなどの無機物まで妊娠させた原因がこれである。
適応力、相手に合わせて自らの肉体を作り変えてしまうのだ。
特に毒物や呪いなんかは私以上に効かない。
逆に言えばそんな辰兄さんを少しの間だけでも鈍らせた雄太君の毒が凄いのだが、適応される前にもっと大量の毒をぶち込んでからスライムで消化させるべきだった。
勝利を焦ったのが敗因だろう。
「さて、せっかくだから今適応した力を発揮してみようか」
そう言って辰兄さんが地面に手をかざすと小さなスライムが生まれた。
召喚ではない、文字通り生み出したのだ。
「そんな小さい奴に何ができる!」
「君を倒す事さ」
そう言って辰兄さんはポーズを決めた。
股間丸出しでポージングきめるのやめぇや。
汚いものが見えてるし、お茶の間大混乱だろうに。
「舐めやがって!」
あー、雄太君熱くなっちゃダメだぞ。
スライムを切り裂いたように見えた一撃だけど、その一瞬で彼のナイフが溶かされた。
そのまま身体に張り付いて、そして溶かし始めた。
……衣類だけを。
「ふっ、僕特製の服だけ溶かすスライムだ。武器や毒物も分解できる優れものだよ」
「祥子さん。アレ後でぶち殺すとして、あのスライムは医療機関でめっちゃ役立つんじゃないですかね」
「そうね。デトックスとかにも使えそうだし研究してもいいかも。本体ぶちのめしてから」
意見が一致する。
武器、つまりは鉄とかの金属なんかも、毒物も、衣類も溶かすとなれば医療機関では重宝されるだろう。
少量飲ませるだけでも胃腸を奇麗に掃除してくれるだろうし、必要に応じて血管内に入ってもらって毒物だけ除去してもらえるかもしれない。
無論それをお願いして、聞いてくれるだけの知性があればだけど。
まぁ少なくとも救急隊なんかは欲しがりそうだなぁ。
「さて、では君を新しい世界へ招待しようか」
スライムに拘束され身動きが取れない雄太君。
……あのスライム硬化もできるんだ、便利だな。
使い道が多い。
一方の雄太君が召喚したスライムだけど、辰兄さんを飲み込んでは消化できないことを不思議そうにぷるぷる震えている。
その中で消化されかけている本人は身もだえして「スライムプレイというのもいい物だ」とか言っているけど……やっぱり殺そう。
「や、やめろ! くるな!」
「なぁに、天井の染みを数えている間に終わるさ。さぁ、僕に全てをゆだねるといい」
「こ、降参だ! 降参するから誰か助けて!」
ビーという音と共にモニターに「伊皿木辰男WIN」と表示される。
だが誰も近寄ろうとしない。
私達は恥ずかしくて顔を伏せているし、木皿儀家の皆さんはあきれ半分恐れ半分と言った様子で辰兄さんの行動を見守っていた。
そしてそのままスライム諸共バックヤードに連れていかれる雄太君の悲鳴だけが響き渡る。
「や、やめ! 助けて! 誰か! 円香姉ちゃん! 結城兄ちゃん! やだやだやだ! アッー!」
南無……。




