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再開

 ……そう思っていた時期が私にもありました。

 えーとね、ドライアドって樹木の精霊じゃない?

 その……ね、私が草を摘んだり木を折ったりすると苦情が入るんですよ。

 誰からって?

 植物から。

 それもただの苦情じゃない、人殺しだの化け物だの、罵倒が方々からすっ飛んでくるの。


「……はぁ」


 おかげで傘を作るのにも一苦労だった。

 最終的にお前ら全員食ってやろうかと脅したら静かになったけど、これから行く先々でこんなことしなきゃいけないのか……。

 キャラクリミスったかな、でもまだチュートリアル終わっていないのに決めつけるのも早計だしなぁ……。

 もうちょいやってみようかな。

 とぼとぼと傘を持ちながら森を抜けるべく歩みを進める。


「ぐるぅるるるるるるる……」


「あ、狼だ」


 しばらく進むと狼が出てきた。

 んー感覚的にはさっき死んだ場所より少し進んだくらいかな。

 傘を壊されるのも嫌なのでインベントリにしまってから構える。

 今度は首を落とさないようにしないとなぁ……。


「がうっ!」


 飛びかかってきた狼をじっくり観察する。

 毛の色は灰色、牙が鋭くて大型犬並みの大きさ。

 スピードもあるしあの体格ならパワーも申し分ないはず。

 バニラ、と呼ばれる完全な人間状態で挑むと苦戦しそうな相手だけど……。


「ふっ」


 爪を立てて手刀を狼の腹に突き刺す。


「ぎゃうっ」


 そのまま地面にたたきつけて、内臓をかき回しながら心臓を探す。

 適当なゲームだと内臓までは再現されていないけれど、このゲームはしっかり再現されているらしい。

 うん、踊り食い用に人魚とかとってよかったわ。


「死者呪転!」


 狼の死亡を確認して光の粒子になっていくのを眺めながら叫ぶ。

 ネクロマンサーの魔法系スキル、死者呪転。

 自分の手で殺した相手を手ごまにするという技だ。

 何かが体の内から抜けるような感触がした気がする。

 ……いつまでも狼に腕突っ込んでるのもあれだし引き抜いたら腕が血でべったり汚れていた。

 ふむ。


「うぇ、なまぐさ!」


 興味本位でなめてみたらものすごい不味かった。

 具体的に言うとさっきの生肉のがまだましだったくらいに不味い。

 ただ飲めないほどじゃない。

 すっぽんや蛇の生血に比べたらひどい物だけど、なれると癖になる感じがある。


「ふーむ、吸血鬼だからかな。でも人狼だからある種の共食い? いやでもそれ言ったらドライアドなのに草木摘んでるしなぁ……」


 いろいろ呟きながら狼の様子を確認する。

 光は収まって数秒、どう動くかなと見ていたら元気そうに体を起こしておすわりの姿勢で待機を始めた。

 いい子だわぁ……。


「よし、今からお前の名前はりりだ!」


 せっかくなので命名、りり。

 昔うちで飼っていた犬の名前。

 あの子も随分長生きしたからなぁ、それにあやかってこの子も長生き……というのは変だけど長く一緒にいてほしいんだよね。

 そんな思いを込めて名付けた。


「それじゃ行こうか、りり」


「わんっ」


 ん? わんていった?

 狼の鳴き声ってわんなの?

 いやまぁなんでもいいけどさ、鳴き声なんて味に関係してこないから。

 ともかくまずは森を抜けてしまおう。

 そう考えて再び道を進み始めた。

 そして歩き続けること数分。

 ようやく森の出口が見えてきた。

 このまま出たら太陽光で死に戻りするから日傘を取り出して一歩外へ……。


「よしっ」


 急造したものだったけどどうにか日傘としての役目を果たしてくれたのか、スリップダメージを受けることなく森の外に出られた。

 そして眼前に広がる草原、その中央に大きな町が見えた。


「あれが始まりの町ね……あ、日傘は太陽光弱点だからです。こうやって手を出すとね」


 じゅっという音と共に右腕が蒸発した。

 うん、もうなんか弱点抱えすぎててどうでもよくなってきたけどこれプレイに支障あるんじゃないかな。

 3時間で昼と夜が入れ替わるらしいから夜は支障ないんだけどね。


「こんな風にダメージ受けます。というか蒸発ね、スリップダメージというか即死です」


 後で動画を投稿することを考えて説明。


「デメリットレベルっていうのがあるけど、最大まで上げるとここまでダメージ受けるのよねぇ。種族特性のおかげか頭が蒸発してもしばらくは生きていられるんだけれど、首の骨が折れるとかはダメみたい。アウトセーフのラインがよくわからないわ……」


 動画は後で見直すとしても、さっきの死に戻りは普通に頭が蒸発していたと思う。

 視界がなくなってたから頭頂部吹っ飛んだかな?


「ちなみにここまでに食べたのは狼の肉のみ。美味しくなかったけど調理したら変わるのかな、生産職でご飯作ってるプレイヤーさんいたら色々食べさせてもらおう」


 まぁあの味だからどうなるかな……。

 食べられないことはないくらいだと思うけど。


「じゃあ改めてしゅっぱーつ!」


 元気を出しながら草原を歩く。

 お、チュートリアルクエストの進行度が変わった。

 さっきまで森を抜けろという表記だったのが草原を進めに変わっている。

 という事はここで死んでも森の出口に戻されるのかな?

 だとしてもこんなところで死ぬなんてありえないけどね!

 だって見渡す限り草原にモンスターいないんだもん。

 その代わりプレイヤーらしき人はちょいちょい見かける。

 うーん、ここの草原は狩場なのかしらね。

 それでモンスターが湧く速度を討伐する速度が上回っていると……。

 だとしたらしばらくレベリングは難しそうね。

 そんなことを考えていた私は気付くことができなかった。

 すぐ近くでプレイヤーがウサギらしきモンスターと戦っていたこと。

 そのプレイヤーが魔法系種族であったこと。

 突進していったウサギに驚いてとっさに風の魔法を使ったこと。

 それによって弾き飛ばされたウサギが、私の真上に降ってきたことを。


「え……?」


 ようやく気が付いたのは日傘が無残な音を立てて潰れていったとき。

 直射日光が私の体を焼き、視界が暗転して森の出口でしばらく呆然として、いろいろ理解してからだった。

 ……傘、作り直さなきゃね。

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