vs木皿儀家
さて、我が家がにぎやかになってきたところで大きな問題が発生した。
「えー、伊皿木家の分家についてどれくらい御存知でしょうか」
リビングに集めたみんな、一会ちゃんや縁ちゃんもいる。
「木皿儀家って言う名前くらいしか知らないわね。政府も暗殺者集団という事くらいしか確認できてないわ」
祥子さんはほとんど知らないと。
うずめさんやシエルさんも首を横に振る。
アリヤとリリエラは言うまでも無く首をかしげているし、妲己に至っては冷蔵庫からとってきた油揚げを咥えてのんびりしている。
「本気でやりあったらどっちかが死ぬって感じよね、あいつら」
「面倒くさい相手……」
一会ちゃんと縁ちゃんは面識があるからか、顔をしかめている。
まぁ私も同意見だ。
「さっきこんなのが届きました」
黒い便せんに赤い封蝋、木皿儀家がうちに何か話す事がある時に使うものだ。
大体ろくでもない内容だったりするのだが、たまに利害が一致するから無視するわけにもいかない。
思えばお父さんやお母さんもこの便箋を見るたびに顔をしかめていたなぁ……。
「……あの、話の腰を折るようで悪いけど木皿儀家ってそもそもなんなの? 以前聞いた話だと何世代も前に袂を別った親戚って話で、暗殺者集団だって聞いたけど」
「まぁ、大体あってます。問題があるとすればあの家はやりすぎるんです」
「やりすぎる?」
「例えばですよ? 標的がスカイツリーに観光に来ていたとします。普通の暗殺者ならどうしますか?」
「え? えーと、狙撃とか?」
「残念ながら無理です。それこそ漫画に出てくるようなスナイパーでない限りそのレベルの狙撃は不可能です」
「じゃあ近づいてピストルとか……」
「要人が基本ですから護衛がついてます。それを全て掻い潜ってというのは無理です」
「……ごめん、降参だわ」
祥子さんが両手を上げてからお茶を啜る。
「正解はスカイツリーが木っ端みじんになるレベルで爆破です」
ブッとお茶を噴き出した祥子さん。
咄嗟に口で受け止めようかと思ったけど家族の前なので自重しておいた。
「ちょっ、それって……」
「過去、通算17回スカイツリーが破壊されています。エッフェル塔が24回、パリの凱旋門が7回、東京タワーが102回ですね。そのうちの3割が木皿儀家の仕業です」
「……残り7割は?」
「伊皿木家です」
「……ごめん、どっちが質悪いのか考える時間が欲しいんだけど」
「うちも相応にやりすぎる事ありますが、それでも人的被害は0に抑えてますよ? ただ木皿儀家に関しては周囲の被害もお構いなしです。もちろん標的だけを殺すという暗殺者もいますが、大体は大雑把に爆破してきますね」
何人か知り合いがいるが、当時ですら堕ちた英雄ことシエルさんに匹敵するレベルの人もいた。
その子はまだ学生だったけど暗殺者としては超一流だろう。
それ以外は……まぁ一流と言っていいレベルだったと思う。
仕事を許可されるのはそのレベルからで、それに満たない者も相応にいたはず。
特に御老公と呼ばれる人に至っては当時の私じゃどうあがいても歯が立たなかっただろう。
なます切りにされて、三秒ルールで切られたところくっつけての応酬になっていたかもしれない。
「そんな相手からどんな内容の手紙が届いたの?」
「それがですね……」
便箋から取り出した手紙を読み上げる。
拝啓、伊皿木家の者達へ。
昨今仕事が増えて困っているのだが、そろそろ裏と表を入れ替えてもいい時期ではないだろうか。
数世代ぶりではあるが正式な交代をと思い連絡させてもらった。
伊皿木の血をひいていないもの、また幼子には手を出さない故安心されたし。
という内容だった。
「えっと……?」
「お嫁さんである祥子さんとか、縁ちゃんの旦那さんとか、刀君のお嫁さんとかうちの子達には手を出さないけど、大人組はぶっ殺すか、さもなくば再起不能になるまで痛めつけるからよろしくという内容です」
「ごめん、意味が分からない……」
「木皿儀家って分家って言うだけあって伊皿木家との結びつきも強いんですよ。そもそも伊皿木家自体が分家多いですし、ちょくちょく木皿儀と伊皿木の血は混ざってきました。時には伊皿木に木皿儀が嫁いでくることもありましたし、その逆も然りです」
「つまり……意外と親族間の仲は険悪じゃない?」
「半分正解です。険悪ではないんですが、双方が双方のストッパーの役目をしています。表舞台に立つか、裏稼業で生計を立てるかの違いで。過去何度か直接対決になりましたが、結局その立場は変わっていません」
「ふむふむ」
納得したようにお茶菓子に手を伸ばす祥子さん。
うずめさん達は我関せずと言った様子でテレビを見始めてしまった。
うん、まぁ手出ししてこない相手には無頓着なところあるからね……。
アリヤとリリエラは安全とわかった瞬間台所で夕飯の準備始めたよ。
「要するに、今回はどちらが本家としてふさわしいか勝負しようってことでしょ?」
「はい、一会ちゃんにお姉ちゃんポイント10点プレゼント」
「いらない」
お姉ちゃん、ちょっと悲しい……。
「というかそんなの縁が出向けば終わるんじゃ……」
「やだ」
ですよねー。
一会ちゃんの言葉に縁ちゃんが即拒否した。
私もそんな面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だと思うんだけど……。
「それがね、縁ちゃん。残念な事に今回私達兄妹全員がターゲットみたいなのよ。つまり嫌でも相手が襲ってくるの」
「……刹姉、ビームで全員消し飛ばせない?」
「どうだろう。今の木皿儀家がどうなってるかわからないからなぁ……」
「私たち全員を相手にってことは、それぞれの得意分野でってことよね。私や刀祢、永久姉はわかるけど……」
一会ちゃんが言いたいことはよくわかる。
正直わかりやすい戦闘スタイルというのはその三人。
伊皿木流格闘術の正統後継者である一会ちゃん。
パワー任せとはいえ物理最強の霊媒師である刀君。
呪術に関しては右に出るものがいない永久姉。
対して私はどんな戦いもできるが器用貧乏。
縁ちゃんは私の上位互換で全方面万能。
辰兄さんは死なない糞野郎。
羽磨君は影の薄い忍者みたいなポジション。
正直こちらの土俵で戦うと言ってもどうやって? という面子の方が多いのだ。
まぁ……羽磨君は案外木皿儀家と通じてても驚かないけど。
「その辺は実際にやり合ってみないとわからないから。とりあえず一会ちゃんはストリートファイトになりそうだったら周囲の人の避難を促してね?」
「わかった」
「それと標的ではないとはいえ祥子さん達も十分に注意を。もしかしたら今この瞬間も」
そこまで言いかけたところで爆発音が響き渡った。
マヨヒガちゃんが何か爆発物を迎撃した音だろう。
早速来たか……面倒だな。
新章、そして最終章としての物語に入ったところですが体調不良につき更新が途絶える事があるやもしれません。
ドクターストップかかったらTwitterと活動報告でお知らせします。
その際は少しお休みをいただくと思いますが、今回の木皿儀家との戦いを最後に本作品を完結とさせていただきたく思います。
なおその後木皿儀家を主体にした別のVRMMO作品を投稿したいと考えており、現在執筆中です。
……カフェインと煙草禁止はきついよぉ。




