この親にしてこの子在り
「せっちゃん? 正座」
「はい……」
帝王切開ならぬ暴君切開の後公安内部の病棟に運ばれた祥子さん。
しばらくして目が覚めた彼女が最初に目にしたのは、産まれたばかりの我が子と花札で遊んでいる私の姿だったわけだ。
「とりあえず説明してくれる?」
「はい……」
それから滾々と事態の説明をした私だが、その最中祥子さんの表情がどんどん険しいものになっていった。
最後の方なんか目はおろか顔すらまともに見られない。
言い知れぬ恐怖で背筋が凍るかと思うほどの威圧感を放っていた。
惚れた弱みも含めて私は祥子さんに勝てない。
というか、ぶっちゃけ惚れた弱み抜きにしても勝てない。
私に対するメタキャラみたいなものなのよあの人!
カードゲームとか格闘ゲームで言うところの相性最悪な相手。
対私専用みたいな存在だからこそ、仮に全力でやり合ったとしても勝てないの。
「話はよーく分かったわ」
「ひっ……」
ドスの利いた声に思わず悲鳴が漏れる。
「ほうれんそう、前に重要性教えたわよね?」
「は、はい!」
「ならなんでそんな重要事項が私の所に来てないのかしら?」
「て、手違いとか、どこかでストップかかってたとか……事故、じゃないですかね?」
私は公安には連絡を入れたはずだ!
うん、私が記憶を改竄していなければした、間違いなく!
そりゃ自分の脳みそこねくり回して記憶を書き換えるくらいはできるし、その記憶自体を消す事もできる。
けど痕跡がない以上その可能性は限りなく低い!
というか携帯端末にその記録が残っている!
「私に、直接、連絡しなさいって言ってるの!」
「ごめんなさい!」
土下座、強化ラミネート加工の床を突き抜けて階下の人達と目が合うまで頭をめり込ませた渾身の土下座である。
一瞬驚かれたけど、私の顔見てみんな何事もなかったかのように仕事を再開した辺り訓練されてるわね。
「まぁいいわ。とりあえず床の修繕費と今回かかった経費は全部せっちゃんのお給料から天引きします。異論は?」
「ありません!」
「よろしい。それでそこの、私の子よね?」
「うむ、乱暴な出産になって申し訳ないわが母よ」
「ちょっとこっちへ」
祥子さんに促されたので私が彼を運ぶ。
仮名天使君としておこう。
立派な男の子だ。
妙な性癖の持ち主という事を除けばイケメンになりそうな顔立ちである。
「天使因子ねぇ……えい」
「いたっ!」
突然天使君の羽を毟った祥子さん。
そのままじっと羽を見つめながら分析を始める。
もともとこの人は研究者気質だからね、気になることがあると調べずにはいられない所があるのよ。
「ふむふむ……羽の質感は私のと変わらないわね。見たところそれなりの力はあるけど、魔法系統のもの……輪っかの方は物理的な干渉力が強いけど本質は魔法的……あ、切れ味いいわね、日本刀並に切れる」
「なにをする母上!」
「人の腹ぶち破って出てこようとしたんだから羽の一枚や二枚くらいいいじゃない。それにしても厄介ね……いえ、子供達に悩まされるのは今更なんだけど、正直この子は別格だわ。今までの子達が一会ちゃんや縁ちゃんくらいだとすればこの子はせっちゃんレベルね」
「あの、私の株低くないですか?」
「辰男さんの次か同じくらいの底辺よ」
なっ! 私が辰兄さんと同レベル!?
……今世紀一番凹んだかもしれない。
「まぁどうにかできる範疇でしょう。とりあえず名前を考えなきゃだけど……せっちゃん、何かある?」
「……心の中では天使君と呼んでました」
「相変わらずのゴミネーミングセンスで安心したわ。とりあえずそうね、その姿だし……熾君でどうかしら」
「その心は?」
「天使の最上級格、熾天使から」
「よい名だ。我はこれより熾と名乗ろうぞ!」
大丈夫かなこの子……刹子ちゃんとか黒助君とか頼光君よりも厄介なのはすでに分かっているけど、今後が不安だわ。
親としても人としても。
「祥子さん、保育士の給与増額案ですが」
「えぇ、ここを出たらすぐに可決させるわ。とりあえず現状の倍にはしたいわね。そのためにも財政をやりくりするから少し仕事に集中するからしばらく厄介ごとお願いするわよ?」
「えぇ、可愛い奥さんと不肖の息子のためなら」
「……なにやらいきなり貶されたのだが?」
いきなりじゃないでしょうに……まったく、産まれて早々親からお小遣い巻き上げようと花札持ち掛けてくるとかどんな赤子よ。
そのお金で風属性のお風呂に行きたいとか、赤ちゃんの考える事じゃないわ。
おっぱいならお母さんのをねだりなさい!
そして私も祥子さんのおっぱいをねだるから!




