天使因子って言いにくいね
「天使を黙らせる?」
「うむ、お主らがゲームと呼んでいたあれなんじゃがな。ある程度魔の者の動向が進むと天使という種族がしゃしゃり出てくるはずじゃったんじゃ」
「と、いうと?」
「わかりやすく言うならば無差別に敵対してくる神の使徒というやつじゃな。英雄とも敵対関係であり、人は神々によって支配されるべきという思想の危険な奴らじゃ」
「なるほどねぇ……でもどうして今更?」
「お主が先日こちらに連れてきた連中が原因で規定値を超えたようじゃ」
あー、リリエラ達か。
無駄な殺生が嫌いだからこそこっちに転移させてきたら別の敵が出てきた……という事でいいのかな?
「ちなみに特徴は? 天使って種族なら魔の者にもいたじゃない」
主に祥子さんとかは天使キャラでプレイしていた。
たしかNPCにも普通に話せる天使が出てきたわよね。
食べたけど。
「普段は人間と変わらん姿をしておる。しかし突然姿を変えて周囲の魔の者を殲滅しようと動くのじゃ」
「人間と変わらない?」
「うむ、しかし変化の後は化け物も身震いするようなおぞましい姿をしておる」
「おぞましい……目玉がいっぱいとか?」
昔の万博に出てきた謎のキャラみたいな。
「そういうのもおるのう。今のところはまだ大人しいようじゃが……こちらにもいたじゃろ、人間として魔の者や人外になれなかった存在が」
そういえば統合直後にそんな連中がいた気がする。
ナイ神父たちが洗脳してたけど。
「そやつらは天使の因子を持っていたが故に他のものになれなかったのじゃよ」
「ははぁ……そういうからくりがあったのね」
「その大半はこちらの神々によって意識を組み替えられたようじゃが、問題は危ない思想に触れず、あるいは毒されなかった者達じゃな」
「つまり今平穏に生活している人間がある日突然伴侶や友人を殺して回る存在になりえると?」
「うむ。悲しいかな、賢いが故に大惨事のきっかけとなりうる。賢者と呼ばれるものが時に大災害を引き起こす行為に似ておるな」
ダイナマイトと同じか。
賢い人ほど愚か者よりも事件を起こした時の反動が大きい。
そういえば昔テロに加担した人の幹部が超高学歴だという事件もあったわね。
「その手の事件は世界の垣根も超えるのね」
「うむ、儂等の世界じゃ賢者が世界を滅ぼしかけたことが何度かあった。いやはや、どの世も似たようなことがある物じゃな」
「ちなみにだけど、黙らせるというのは殺すという意味じゃないわよね」
「無論じゃ。儂とて無益な殺生は好まん。少々痛めつけて発露した天使の因子をそのままに、人としての精神を保たせることが目的じゃな」
「それってつまり……」
「簡単に言うならば人類滅亡じゃな。もはや純粋な人類というのはこの世界にはおらん。異世界からこちらに移住した存在が僅かに残るが、奴らとてこの世界にいた純粋な人類と比べると多少の違いがある故」
わぁ……それは大変な大事件だわ。
祥子さんに確認を取りたいけど、妊婦さんにいらぬ心労をかけるわけにはいかないのよね。
となると……。
「あー、もしもしテンショーさん? なんか近いうちに人類滅びるらしいからなんか問題起こったら対処よろしく」
パパっと日本の最高権力神に電話をかけてざっくり説明する。
通話口からは焦った声と説明を求めるような内容が聞こえるが無視して切る。
「発生する場所は?」
「よくぞ聞いてくれた。海外はあの英雄たちに任せる事になっておるので儂等の担当は日本国内だけじゃが、一番身近なところだとそこじゃ」
「そこ?」
視線を向けると頭を抱えて苦しそうにしている男性が一人。
それを遠巻きに見つめたり、救急車を呼ぼうと電話を取り出したり、インベントリから回復アイテムを取り出そうとしている人達がいる。
なんだかんだで統合後に人々は割と慈悲深くなったというか、わかりやすく協力するようになった。
好奇心は猫を殺すというが、刃傷沙汰も珍しくなくなった今日この頃では苦しんでいる人や倒れている人を前に写真を撮るような行為が減ったのである。
なにせ明日は我が身、そう思えば率先して救助に向かおうという人が増えたのだ。
まぁ武器やら魔法やらと危険なものが物凄い身近になったからね、対処法もみんな身をもって覚えたのだ。
「さて、では儂が縛るので死なない程度に痛めつけてやると良い」
「はいはい、結局実行は私なのね」
近づいて回復アイテムを使用している人を後方に投げ飛ばすと同時に腹部に触手が突き刺さる。
痛いけどこの程度なら問題ないのでそのまま吸収。
天使因子とやらを味わってみるが、なるほど……なかなか面白いモノだ。
どうやらこの因子は最初から人類に組み込まれていたもののようである。
私達伊皿木家や分家のキサラギ家みたいな人外の血を引く存在は別として、基本的な人間には備わっている機構のようだ。
とはいえ、統合時にその因子を上回る力で大半が消滅したようだ。
後で取り込んだの抽出して研究室にまわそう。
「はい、ステイ!」
パシンッと変異しつつある男性の頭部を軽くはたくと首が一回転して、そしてすぐに肉体の変異が止まった。
ついでに呼吸と心拍と脳波も停止したっぽいので化けオン運営特製スーパーエリクサーverTIを振りかけると咳き込んでから意識を取り戻したようである。
「大丈夫?」
「え、えぇ……いったい何が……」
「落ち着いて聞いてください。あなたは人間を辞めました」
そう言って鏡を見せる。
彼の背中には天使とはかけ離れた、まるで枝木のように伸びた羽のようなものが生えている。
そして頭部には天使の輪とは違う、なんというべきか……まるで血管を使って組み上げたような円形の物体が浮いていた。
「うわっ……」
「とりあえず意識に問題が無いようならこのまま公安に案内します。詳しい説明はそこで聞いてください」
「あの……俺これから空手のレッスンがあるんですが」
「今日は休め」
「あっはい」
「という事でこんな感じでいいの?」
「うむうむ、なかなか良い手際じゃったな。して、どうじゃった?天使の因子は」
「あまり美味しくなかった」
「……味の感想は聞いておらんよ」
なぜかあきれた様子の妲己に首をかしげるしかなかった私はおかしくないはず。
化けオンとは別のVRMMOを思いついたので執筆中、四月には公開したいです。
分家のキサラギ家メインの物語。
あとそろそろ確定申告と戦わないと……。




