子供達よ、健やかであれ
朝日が眩しい冬本番、リリエラやアリヤもこっちになれてしばらくした頃の事。
「あ、お腹蹴った」
祥子さんと私の子供はすくすくと育っていた。
そこに耳を当てる兄や姉なんかも微笑ましいものだが、同時に色々と不安になってくるものである。
主にお仕事の面で、海外に行く場合などだ。
最近は私が直々にボディーガードをしているが、それでも不安の種は尽きることが無い。
今のところ週に一回レベルの襲撃があるかないかではあるが、事前に迎撃しているので問題は無いのだが……。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だって、心配し過ぎよ」
「だって今でも狙われてますし、明日からは異世界でのお仕事なんて……」
そう、祥子さんのお仕事はついに地球の外にまで進出することになった。
どころか世界の壁を越えての交流を深めるのである。
「今回はナコトさんの所だから大丈夫でしょ。あそこは治安はいいって聞くし」
「治安は良くても物騒な人ばっかりと聞きますよ」
「それはそうだけど、縁ちゃんも一緒よ? 早々大事にはならないでしょ?」
「ナイ神父みたいなのがいっぱいいるとも聞きますよ」
「……一会ちゃんもついてきてもらいましょう」
「それがいいです。そして私もついていきます。おはようから次のおはようまでみっちり守ってみせますからね!」
「気負い過ぎよ。もっとリラックスしないと。それより黒助君や頼光君なんかを放っておいていいの? 私は刹子ちゃんと時間作ってるけど」
「私も時間作って組手とかして遊んでますよ」
「遊び……なの?」
「えぇ、もともと戦うの好きな二人なので」
ちなみに普段は二人で決闘しているらしい。
今のところ黒助君が勝ち越しているけれど、それでも結構ギリギリな戦いが多いと聞く。
今後頼光君の成長次第ではどうなるかわからないとのことだ。
さらに言うならリリエラとアリヤはこちらの世界基準でそこそこ戦える程度の力は得た。
ただ、あくまでもそこそこなので弱いことに変わりはない。
なので二人に預けて地下で滅茶苦茶厳しい訓練を受けている。
死なないギリギリまで痛めつけて温泉にぶん投げるという生活が続いているようだ。
「あの子達、どこまで強くなるのかしらね」
「まぁ最高峰を目指すとは言ってましたけど、黒助君は相変わらず手加減が下手くそ。頼光君は力に振り回されてる感じですね。ただ一撃の威力だけなら頼光君は私を超えました」
この前鉄の塊をパンチで貫通させたから。
私はどう頑張っても粉々に砕くことしかできない。
貫通させようと思ったら貫き手かビームくらいじゃないといけないのだ。
もっと修行頑張れば私にもできそうではあるけど……正直好みじゃない。
「そのうち全部抜かされちゃうんじゃない?」
「ビームの威力なら私の方が上ですし、自爆の範囲も私の方が広くクリーンですから」
頼光君がビームを撃つとちょっとまぶしい程度にしかならない。
ドラゴンも倒せない威力なので攻撃力に極振りしたパラメーターなのだろう。
特殊攻撃とか魔法というジャンルにはパラメーターが割り振られていないタイプだ。
刀君タイプで、結構仲良く一緒に喧嘩している。
あまりやり過ぎると奥さんが止めに入るのが恒例行事になっているけどね。
「黒助君はどうなの?」
「んー、バランスはいいんですよ。ビームも物理攻撃も魔法も。ただそれを全力でぶっ放す事しかできないから無駄が多いし威力も拡散しちゃうんですよね」
制御方面に問題のある黒助君。
今は一会ちゃんに力の使い方を教わっているところだ。
「それより……刹子ちゃんの方なんとかした方がいいと思うんですが」
「……わかってるわ」
「あのファムファタル、どうにかしないとそのうち国を傾けますよ?」
「そうなのよねぇ……」
祥子さんのお腹から産まれた刹子ちゃん、母親似でとても可愛らしい。
そして人外に好かれるという特殊な能力まで引き継いでおり、幼稚園児にして既にモデルの仕事を始めているのだ。
最近はテレビ関係のオファーも来ているのだが、ドラマで子役を演じた時はロリコンに目覚めた人がいたらしい。
何が恐ろしいってそれを自覚して、幼稚園を牛耳っているのである。
辰兄さんと合わせてはいけないタイプの魔性の女としてすくすく成長している彼女は芸事にも達者だ。
武芸百般、楽器はなんでも演奏出来てプロレベル、ゲームなんかもそつなくこなし、スポーツもかなりの成績を収めている。
実のところ我が家の最強格である。
問題があるとすれば外面がよすぎるという事。
別に内弁慶というわけではなく、むしろ家でもいい子なんだけど外に出た瞬間人タラシになるのだ。
結果的にファンからもご近所さんからも評判のいい子なんだけど、そこに私譲りの戦闘力があるので恐ろしいことこの上ない。
実は黒助君も頼光君も負け越しているほどのお姉ちゃんなのである。
「もう少し、自重というものを教えた方がいいですよね……」
「そうね……」
なんかちょっと、こうして親になって初めてお母さんの気持ちがわかった気がした。




