お か え り
帰ってきました日本!
地球よ、私は帰ってきたー!
「おかえりなさい、せっちゃん」
ウィーンと音を立てて開いたエレベーターのドア、その前に仁王立ちしていた祥子さんを見てそっと閉じるボタンを押す。
「なに閉めようとしてるのかしら?」
だがガッと手を突っ込まれ、安全装置によりドアが開く。
突っ込まれた手はそのまま私の胸倉を掴み上げていた。
……うん、覚悟を決めましょう。
「た、ただいま、マイハニー!」
「おかえりなさい、ダーリン。で、他の女の匂いをまき散らしながらの凱旋だけどお話聞かせてもらえるかしら?」
あ、これガチギレモードだ。
阿修羅を凌駕し、仁王すら怯え、ナイ神父ですら真顔で土下座するレベルの怒り具合。
私如きが本気で逃げたとしても即座に掴まるのは目に見えている。
「えっとですね、こっちの子はアリヤ。私の弟子です」
「どうもアリヤさん、せっちゃんこと伊皿木刹那の妻の伊皿木祥子です」
「よろしくお願いします、奥方様。先に申しておきますがこの方を師として認めていますが、それ以上の関係は一切ありません。というか何度も殺されかけて恨み骨髄です」
「そう、なら私から何か言うこともないわね。ごめんなさいね、威嚇しちゃって」
「いえ、当然の判断かと。弟子という立場から見てもこの方は底抜けで間抜けです。何をやらかすか読めないうえに好き勝手暴れまわるので」
「理解者を得られてうれしいわ。誰か彼女の諸々の手続きと、それとお茶を用意してあげて。それで……」
リリエラをぎろりと睨んだ祥子さん。
その瞳からハイライトが消えていく。
「せっちゃんの魔力と匂いを漂わせているあなたは何者かしら?」
「ピッ……」
リリエラが謎の悲鳴を上げて硬直する。
わかるわぁ、あの目で見られると蛇に睨まれた蛙の気分が味わえるのよね。
あまり美味しくない気分が。
「え、えと、リリエラと申します! その、お姉さまには大変お世話になっておりまして……」
「お姉さま……?」
ぎろりと向けられた視線、私とリリエラを交互に見て、胸倉を掴む手に力が入った。
「ねぇ、せっちゃん? 私には嫌いなものが三つあるの」
「は、はひ」
「浮気と、嘘と、無能な人員よ」
「あと怖い物とピーマンですよね」
ゴッという鈍い音を立てて壁に押し付けられた。
……祥子さん、それあっちの世界の悪魔レベルなら死んでます。
「正直に白状してね? 浮気、した?」
「テンショーさんに誓ってしてません! 全て白状します! 何でもします!」
「そう、じゃあ教えてちょうだいな。なんであの子がせっちゃんの魔力を纏っているのかとか、それが体内にまで浸透しているのかとか、お姉さま呼びなのかとか」
あ、根本的な誤解そこからか……魔力を纏っているのは庇護下にあるという意味であり、体内に浸透しているのは有体に言って性行為があったと言っているようなものだ。
おかげで現在各国で浮気や不祥事、それを逆手に取った虚言などが全て暴かれてあちこちで裁判が起こっているとかなんとか。
「この子、悪魔でしてね。種族は色欲系統なんですよ」
「へぇー」
ギリギリと胸倉を締め上げられる。
いかん、話す順番を間違えた。
「で、出会いがしらはすっごい弱かったんですけどね。向こうで悪魔を探そうという話になった時この子が人間の街で正体隠して働いてるのを見かけて、帰り際に声をかけました」
「ナンパしたんだ……」
く、首が締まる!
いかん、どんどん妙な誤解を!
「その際に悪魔であることを指摘したら胸元に飛び込んできぐぇ……」
「胸元にねぇ」
「ど、ドレインという技を使われて魔力とかの一部を奪われた結果で……色欲の悪魔の習性で自分に力を与えた同性をお姉さまと呼び師として仰ぐのが通例だとか……ゲホゲホッ」
一連の事情を話したところでどうにか手を放してくれた祥子さん。
なおこちらは一瞬三途の川の向こうで鬼が手を振ってるのが見えた。
「今の話は本当かしら? リリエラさん?」
「ははははははははい! お姉さまの事は尊敬しておりますれば! 叶うなら第二婦人にと! ピェッ」
よ、余計な事を!
「第二婦人ねぇ……詳しく聴く必要がありそうねぇ……誰か彼女にも手続きを、それとお茶と自白剤。せっちゃんはこのまま持って帰るからあとの仕事は任せたわ」
「総理、任せると言っても仕事を代わりに進める事はできません」
「えぇ、だから明日の私に任せるの。今日は魔力回復も楽でしょうしね……ふふっ」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「だあーめ」
あ、今日は搾り尽くされるな。
そう思いながら街中を引きずられて帰る事になった。
……翌日、とりあえずの誤解を解くことができたものの関東地区のお店はしごしなければいけないほど搾り取られたのは言うまでもない。
なお、祥子さんはツヤツヤとした表情で出勤していき、妙に元気なアリヤとぐったりしたリリエラはうちに住むことになった。
後日談と、短編いくつか書いたら完結にしようかと思います。
あるいは気が変わって完結にしないで、ちまちま小話書いていくか……。
その時は新作も出したいと思います。




