何度も倒した相手だからね
遅れました!
時間間違えてた!
黒い人型、それは世界の悪意の塊であると同時に余剰エネルギーである。
黒助君と戦った時は知らなかったが、後々教わった話ではそういう物らしい。
世界を作った時に余ったエネルギーと、行き場をなくしたエネルギーが合わさり悪意を持って行動するようになる。
そして放置すれば他の世界を侵食し、そして破滅へ導くという。
ちなみに黒助君が強かった理由は複数の世界からそんなのが流れ込んできていたからだそうだ。
それと神様の数が多かったから余剰エネルギーもたっぷりあった。
言い換えれば器が大きく、悪意を注がれてもなんとかなっていたらしい。
なおこれが限界を超えると終末戦争になるとかなんとか。
まぁ今はそれはどうでもいいとして……。
「先手必勝!」
全力全開のビームをぶち当ててから思いっきりぶん殴る。
まだ形を完全なものとしていないソレに当たった拳からはスライムでも殴ったような感触が伝わってきた。
とはいえダメージになっていないのではなく、何かがごっそりと削れたという確信があった。
「はぁ!」
「えい!」
私に続いてアリヤとリリエラも攻撃を加える。
しかし、そのどちらも威力が足りていないのかかすり傷程度のダメージにもなっていないようだ。
……連れてきたの失敗だったかしら。
「あ、まずい」
咄嗟にビームを板状に展開することで盾を作り出す。
何気に疲れる技だけどそんな事を言っている暇はない。
「きゃっ」
戦闘に不慣れなリリエラが悲鳴を上げるが、アリヤは集中してビームの先に目を向けている。
超新星爆発を思わせる強大なエネルギーの放出、それが私達を襲っていた。
「こんのぉ!」
放出が収まるまで待つか、一瞬そう考えたがその必要は無かったようだ。
アリヤが無言のまま空を切る一閃を放つと同時に放出が止み、そして悪意の塊は溶けるように地面に崩れ落ちた。
「核を切りました。これでしばらくは動けないでしょう……もっとも私もですけど」
汗を吹きだしながら話す姿は満身創痍と言った様子。
けどチャンスには違いない。
「えい!」
ビームの盾を解除すると同時にリリエラがスライム状になったソレに手を突っ込み、そして吸収を始めた。
なんという無茶を、と言いたいところだけど……。
「わぁ、これ美味しいです! でも多すぎて食べきれないかもしれません」
悪意の塊、そんな存在は割と身近にいる。
悪魔である彼女なんかはまさしくその権化ともいえる。
だからこそ、それをドレインしても肉体の崩壊などには繋がらなかったのだろう。
相性の問題、というやつだ。
「大食い対決よリリエラ!」
「あ、降参しますね」
なんでよ!
どっちが多くスライム状の悪意を取り込めるか勝負、と意気込んだ瞬間にパッとその場を離れてアリヤの近くに寄り添っていった。
まぁ……状況だけ見るなら彼女の防衛に移ってもらった方がありがたいのは事実だけど。
「はぁ、じゃあまぁ、いただきます」
大きく口をあけて明鏡止水を発動、合一で空間ごとスライムを食べ終えた私はため息をついてから2人の近くに歩を進めた。
「ありがとね、2人のおかげで楽に済んだわ」
「一人でも楽勝だったのでは? というよりも私達が足手まといに見えましたが」
「そうでもないわよ? アリヤがダメージ与えて、リリエラが削ってくれなければあと5分はかかってたから」
「……楽勝だったのは否定しないんですね」
「いや否定してるから」
「5分長引くだけを楽勝と言われましても……」
2人から抗議の声が上がるが、実際こっちの持てる全てを使って5分である。
体感で言うなら帰ってすぐに東京都内の飲食店全部はしごするくらいには疲れるし、お腹も減るのだ。
それを2人がいたから多摩地区の飲食店全部回る程度で済んだ。
まさに縁の下の力持ちだ。
「さて、帰りますか。というか二人にとっては新天地への旅立ちかしら」
「あー、世界が崩壊しちゃったんですよね。第二婦人として挨拶しなきゃいけないですし!」
「新天地……どのような強者がいるか気になります。魔境と聞いていますけど……」
あー、うん、帰ったら修羅場確定ね。




