ドラゴン
それからしばらくして領主邸を逃げるように後にした私達、次なる目的地を目指して街を出た。
……というのは建前、とりあえず厄介ごと起こしたからさっさと逃げようという事になったのである。
適当な方角に向けて悪魔馬車を走らせる。
残念ながら車輪の回転に合わせて悲鳴を上げるような機構までは組み込めず、そもそも素材が足りなかったので断念することになったが乗り心地は悪くない。
少なくとも前世紀の車よりは揺れないし、これなら生卵をお皿に乗っけて砂利道を走るテストも余裕でクリアできるだろう。
だというのに……。
「悪趣味極まれりという感じですね」
「なんか、遠い親戚みたいな存在を無理やり改造した馬車って気分良くないですね」
評判は散々だった。
威圧感抜群、戦闘能力そこそこ、自動運転で乗り心地は最高、広々とした内部では三人で寝っ転がっても全員が寝返り三回うてるくらいの広さがある。
何がそんなに気にくわないのか……せっかく電飾代わりのシャンデリアも悪魔の骨と内臓で用意したというのに。
「こんなに機能美にあふれているのに……」
「機能美以外死んでいるようなものじゃないですか」
最近アリヤが冷たい……いや、元から嫌われてた節あるし、それなりに冷たかったけどどんどん株価が暴落している気がする。
私、結構歩み寄ろうと頑張ってるつもりなんだけどな……。
せいぜい毎日修行でしごいているだけで。
死なないけど疲労感でまともに動けなくなる程度にしているのに。
「ま、まぁ快適ですし……居心地は悪いですけど」
リリエラのフォローが虚しい……。
最近日本では捕殺したドラゴンの骨とか使ったエコカーが人気だというのに、それと大差ないはずなんだけどな。
カラス感覚で飛んでるのはお話にならないが、ちょっと強いのだと並の護送車とか要人用車よりも頑丈でとてもエコだと人気を博している車の悪魔バージョンというだけでここまで批難されるとは思わなかった。
「地元じゃ結構普通なんだけどなぁ」
「だからあなたの故郷の魔境と同列視しないでください。ドラゴンを普通に食べるとか頭おかしい世界と同列扱いは気分が良くないので」
「だってあいつら小鳥感覚で飛んでるし、可食部多いから」
ドラゴンはとことん無駄がない生物である。
骨は頑丈だがしなやか、皮は高級蛇革にも勝り、肉は美味しい。
ついでに骨や角は出汁になるのだ。
まさに捨てるところ無し、絶滅するようなやわな生物でもない、いざとなればゲリさんという歩く素材がいるほどだ。
ちなみに彼の国では寿命を迎えたドラゴンは丁重に埋葬されるが、生きた証としてその肉体の一部を加工してお土産のキーホルダーなどにしていたりする。
無駄が無いのだ。
「こっちドラゴン少ないし、素材もそんなにいいもの無いしなぁ」
「いやいや、ドラゴンなんて一匹仕留めたら数世代遊んで暮らせますよ?」
「でも悪魔より弱いじゃない。雑魚でも数の暴力で倒せちゃうし」
そう、最大の問題は並大抵のドラゴンは弱い。
悪魔の男爵級程度でもダース単位で挑めば討伐できてしまう。
非常に繊細で、なおかつ数も多くないとなれば……ねぇ?
少なくとも日本のドラゴンは主婦でも倒せるが、それは一般市民がとんでもない戦闘力を持っているだけである。
そこら辺を飛んでいる害獣害鳥レベルの奴らでもこの世界、この辺りにいる奴に比べたら格が違うと言っていい。
最近は化け物や他ゲームのキャラクターになれなかったような一般人でもお手軽に倒せるスプレーなんかが用意されているくらいだ。
まぁ、取り扱いに注意点が多すぎるのも事実で、一般市民に使った場合即お縄である。
だが護身用グッズとしての売れ行きは好調らしい。
私も試供品を貰ったが飲んだら三日くらい腹痛が続いた。
今回用意された荷物にもいくつか入っているが、非常食かアリヤたちの護身用程度の意味しかないのだ。
「まぁそれなりの奴が出てきたら色々試してみましょう。アリヤでも楽々身を守りながら悪魔も侯爵くらいならどうにかできる威力あるから」
「せっかくですが遠慮します」
……残念、使い勝手は悪くないんだけどなぁ。
ワクワクチンチン5回目完了!
コミケは両日参加ですが二日目は店番してると思います。




