冤罪
呼ばれた先は謁見の間とでもいうべきような豪奢な部屋、そこに足を踏み入れた瞬間全身に悪寒が走った。
領主、そう呼ばれる男の視線が非常に……なんというか、辰兄さん的なものだったのだ。
隣でリリエラも身震いして、反対側ではアリヤが青筋を浮かべている。
……この子最近凶暴化してきているわね、あとで躾けておかないと。
「此度の一件ようやってくれた、褒美を与えようと思うのだがどうした? もっとちこうよれい」
「ふんっ!」
舌なめずりしながら手をわきわきさせる領主を見て咄嗟に正拳突き遠距離衝撃波を放ってしまった。
その一撃は領主の心臓を寸分たがわず撃ち抜き絶命させる。
……そういえば自分の意志で人を殺すの、初めてな気がする。
まぁ人以外の命は散々奪ってきたし、今まで食べた牛の総重量で言えば15世紀ごろの日本の人口に匹敵する重量だろうから初殺生というわけではないけど。
うーん、食べる以外で殺すというのはやはり気分のいいものではない。
思えばこっちに来てからそういう殺しばかりやってるし、アリヤが凶暴化しているのは私がそんな状態でピリピリしていたのもあるかもしれない。
うん、気を付けなきゃ。
「貴様!」
おっと、呆気に取られていた衛兵が動き始めた。
「待ちなさい」
軽い殺意を込めて周囲を威圧する。
死なない程度に加減しながら、けど体が重くなるくらいにね。
「これを見なさい」
ずぼっと領主の死体に手を突っ込んで中から取り出したように見せた物体、さっき作った悪魔馬車の欠片である。
パームって言うんだっけ、手品の手法で持っている物を隠す技術なんだけどそれの応用。
「そ、それは……」
「悪魔の身体、その一部ね……随分馴染んでいるわ」
嘘だけど、いや悪魔の身体というのは本当だけど馴染んでいるというのが嘘。
今明鏡止水で無理やり馴染ませたというべきか、領主の死体も悪魔の一部とみなされているらしくパーツを抜いた瞬間にボロボロと崩れていく。
演出としては完璧だけど、やはり無益な殺生という事で気分は悪い。
「いつからかわからないけれど、悪魔の一部になっていたみたい」
「そんな……嘘だ! そんなわけがない!」
「あら、でも見ての通り領主だった存在は悪魔同様ボロボロと崩れ去っていくけど?」
「だけど!」
「いい? このことを領民に知られてはダメ、領主は今回の悪魔襲撃を受けて自ら領邸を囮にして私兵を集め、そして悪魔の最期の一撃を受けてしまい命を落とした。そういう筋書きにしておくといいわ」
「……領主様は本当に悪魔だったのか?」
「目の前で起こった出来事が信じられないなら、それは何かが間違っているという事よ」
ちなみに今回は私の言動が全て間違っている。
嫌悪感だけで殺してしまうというのはさすがにやり過ぎだ。
深く反省しなければ。
「なぜ、気付いたんだ?」
「気配。うちのパーティメンバーのリリエラも悪魔だけど私達の味方でね、彼女と似た気配を纏っていたの」
そう告げた瞬間兵士たちが剣をリリエラに向ける。
本人も怯えているが、たぶんあの剣じゃ切れないわね。
「あー大丈夫、その子より私の方が強いし私に懐いているから。ちなみにあなた達よりもよっぽど強いからそんな玩具じゃ傷一つつかないわよ」
そう言った瞬間だった、リリエラの胸から見覚えのある刃先が飛び出した。
見れば腰からアリヤの剣……つまりは魔剣の鞘を下げたすんごい豪勢な鎧着てる人がそれを振り下ろしていた。
剣の先端は蜃気楼に飲まれたように消えており、リリエラを貫いている。
なるほど、あんなふうに消えるのか……アリヤがあの能力使うところ見た時もじっくりとというわけじゃなかったからなぁ。
「ケヒヒヒヒヒ」
「あー、飲まれてるわ」
「ちょっ、そんな事よりリリエラがっ」
アリヤが焦っているけど問題ない。
というか心配する必要性がまるでない。
何故なら……。
「あれ? えっと……痛くない? というかなんともない?」
はい、当の本人ぴんぴんしてます。
明鏡止水でリリエラを巻き込んで合一しているので、世界と私を纏めてぶった切れるくらいの威力出さないとノーダメージ。
ちなみに応用編では死にかけ位なら治癒できるし、死亡直後なら蘇生もできる。
領主にはしなかったけどね、拝み屋の家系として人の生き死にをどうにかするのはどうも……。
ついでに殺した責任はとるつもりというのが私の信条。
だから食べられる物は食べるし、ゲリさんやベルゼブブを半殺しにしたら死なない程度に食べるのだ。
……まぁ、今回は食べようが無かったので領民のためにという名目で口八丁で責任を取ったけどね。
「はい、というわけで没収」
多分えらい兵士さんなんだろうその人、剣を抜いてこっちに切りかかってきたけど額で受け止めてから剣を奪った。
精神に異常をきたしているようだけど……これなら何とかなるかな?
「えーと、ナイ神父から教わったあれは……こうだったかな?」
精神分析という技術らしいけれど、本来は相手を説得して落ち着かせたりする方法らしい。
だがそれよりももっと手軽に、そして簡単に行える方法を教わった。
曰く相手の精神を直接つかみ、そして正常で安定した状態に固めるとのことだ。
人間の精神や魂と言ったものはふわふわしていてうつろいやすい。
それをおにぎりのようにギュっと固めて、安定させるのだ。
力業ではあるが何かと便利と言っていた、主に洗脳とかそっち方面にらしいけど。
んー、まぁなんか思わぬほうに転んだけど気絶したお偉い兵士さん含めて上手く行く道筋が見えてきたわね。
領主:ただの欲深いだけの人間、刹那さんによって悪魔として吹聴されたが市民からは実はいい人だったという扱いになる。悪徳領主であり領民の安全は考えていないし初夜税なんかも取っていたので嫌われていたが吹聴された事実を含めてどこかの誰かさんが様々な証拠を用意したため美化300%の銅像が作られた。
お偉い兵士さん:アリヤの剣をねこばばしようとしてそのまま取り込まれた人。どこかの誰かさんの精神分析(物理)によって真面目で好青年と呼べる人物に変貌した。
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