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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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自由の代償

 ログインして目に映ったのは牢屋の数々。

 えーと、確か先週ログインした時は地下一階がリスポン地点になっていたのよね。

 だからここを上に上がるとエントランス、塔を入ってすぐのエリアになっていたはず。

 それで私がいるのは牢屋の一室と……とりあえず鉄柵に触れてみるけれど問題なし。

 チリチリとした感覚もないから銀や聖属性は使われていないのでしょう。

 ならいけるかなーと思って力を籠めると徐々に鉄柵がゆがみ始めて、最後にはぐんにゃりとまがってしまった。

 私が余裕で通り抜けられるサイズの穴が開いたからそこから外に出て、ゲリさんが来るまでの暇つぶしとして牢屋をあちこち探索している。


 前回はそのまま通り過ぎちゃったからね。

 そして気が付いた、私のいた牢屋……施錠されてなかったわ。

 他の牢屋はほとんど施錠されているのに、私のいたところだけ。

 これはやらかしたかもしれない……証拠隠滅をはかるためにも曲がった鉄柵をどうにかしようとして、ボキンという絶望的な音を聞いた。

 まだだ! まだ終わらんよ!

 折れた鉄柵を何度も踏んだり叩いたりして引き延ばす!

 それを無理やり牢屋の柵に結び付けて穴をふさぐ!

 あとは狐火で溶接して完成だ!

 アートみたいになってしまったけど……牢屋としては機能しているはず。


 ま、まぁもとより私の細腕で曲げられる檻に意味はないでしょう。

 それより、やっぱり上も下も静かね。

 ちょっと覗いてみましょう……。

 まず下に一歩足を踏み出そうとしたらチリチリとした感覚が襲ってきたので飛びのく。

 腕、異常なし、服の下、異常なし、頭部、異常なし、足、異常あり……靴を脱いで足の裏を見たら火傷のようになってたわ。

 うーん、普通の銀じゃこうはならないし……もしかしてミスリルとか言う鉱物のせいなのかしら。

 銀よりも高い聖属性を持っているなら近づくだけでダメージ受けるのも当然、即死するほどではないけれどというのがポイントね。

 踏んだら即死、これは耐性を付けたところで変わらないでしょう。

 俗にいう銀の上位互換というところかしら。

 でも事前に察知できるという部分が下位互換になっているのかもしれないけれど……いえ、そうね。


 こうやって閉じ込めるならそれはむしろいい方向に働くわ。

 少なくとも私なら「この先に進むにはこれをどうにかするか、自身を守る方法を探さなければいけない」とわかる。

 私がそうなら他の人もある程度は察知できるはず。

 つまりここで選択肢を迫られるわけね。

 あきらめるか、対処法を探すか、手札を一枚切るかという。

 まず対処法は牢屋の内側にあるわけがないので却下。

 手札があれば使うのもやぶさかではないけれど、それが切り札ならあとは死を待つばかりになってしまう。

 邪悪結界みたいに時間制限があればちょっと探索して逃げ帰るというのもありだけど、見つかったら後がない。


 どうあれ捕まって危険因子として処分されるわよね。

 まぁ私はかまわず使ったけど。

 だってリスポンできるから。

 ゾンビアタックなんてこのゲームの登竜門だからね、必須技能よ。

 というわけで下に向かうのはあきらめて今度は上、エントランスをちらりと見てみる。

 階段にへばりつく形で、鼻より上をそーっと上げていって目だけを動かして探るけれど……人影はなし。

 代わりに黄色い巨体が……あれ? これ見覚えあるぞ?


「ゲリさん?」


「あ、フィリアさんこんばんは」


「やっぱりゲリさんだったんだ、そんな姿でどうしたの?」


「それがねぇ……」


 そう言って困ったように上り階段らしきものを見つめるゲリさん。

 何の変哲もないそれに近づいてみると壁の一部が変形して銃が突き出され、弾丸の雨を降らせてきた。

 当たればいいという感じの弾幕、銀の弾丸かしら。

 とりあえず躱して、よけきれない何発かはこの前貰った手甲を使って叩き落す。

 数秒続いた掃射が終わると同時に銃は再び壁に戻っていった。


「……フィリアさん、相変わらずの化け物っぷりだねぇ」


「え? この身体のポテンシャルならあのくらいできると思うんだけど」


「できるできないじゃなくて、普通はやらないから。誰だって銃弾とんでくるのは怖いよ……」


「それにしてもこれ……」


 叩き落した銃弾に抜いた髪の毛を近づけると、触れた瞬間に煙を上げて髪の毛が蒸発してしまった。

 うん、やっぱり銀の弾丸だったのね。


「俺子竜化の状態だと防御力がガタ落ちするんだ。でもこの姿であれば鱗はドラゴンの物だから銀の弾丸くらいなら受けても貫けないから肉体にダメージはない。けど肉体の方はゾンビとかスライムとかもりもりでデメリット持っているから子竜化中に一発でも鱗抜かれると……ね」


「ようするに、あの銃って結構威力があるということなの?」


「威力だけならね。でも貫通性能は低いよ、銀の弾丸だし」


 たしかに……銀くらい柔らかいとそうなるわよね。


「セレブな事ね、銀の弾丸をこんなにばらまくなんて」


「銀は意外と安いよ?」


「ゲーム内では高級品じゃない」


 そんなことを話しながら、子竜化してもらったゲリさんと階下に降りる。

 子竜化していないとゲリさんは活動時間の関係で死亡してデスペナを受けてしまうことになるから。


「うわ、何この謎オブジェ」


「タイトル、人のしがらみ、あるいは自由の代償」


「……牢屋ぶっ壊したんだ」


「まぁ成り行きで」


「閉じ込められていると思って扉を調べなかったんですねわかります」


「君のような勘のいいドラゴンは好きだよ」


 話が早くて助かるわ。


「それで、あそこをどうやって突破するかなんだけどさ」


「普通にさっきみたいに避けて殴ってでいいんじゃない? ゲリさんは私の背中に張り付いてればいいと思うけど」


「寄生プレイとか、キャリーって言わない?」


「この程度なら協力プレイの範囲でしょ。ちなみに外の様子とかわからない?」


「掲示板では大賑わい、かいつまんで教えると検証班が塔の中を目指して突撃したらゴーレムに潰されたりしたらしいから増援は無理。俺達が逃げるのも難しいかもだけど俺達なら飛んで逃げられなくもない」


「それは最終手段ね、入るのが大変なんだから出るのもね……それにどうせなら中で大暴れするのも面白そうじゃない?」


「そこは同意、俺達だけのダンジョンアタックというのも面白そうだからやってみる?」


「そうね、それで他には何かある?」


「一部の人間プレイヤーが塔の守り手として侵入に成功、彼らは定期的な銀の供給。それと働きに応じてミスリルの譲渡を条件にここで働いてるよ」


「ゲームの中で労働って……ご苦労な事ね」


 まぁあまり人のこと言えないけれど。

 うん、これある意味私にとっては労働なのよね。

 趣味と実益兼ねてるけど。


「あとは白旗に注意」


「白旗? 降参の意味じゃないの?」


「徹底抗戦の意味なんだってよ。最後の一人になるまで戦い続けるという意味で、白旗もって塔に近づいたらそれだけの覚悟を認めて全力で相手しようとか言われてでかいゴーレムが出てきたらしい。当然ミスリル使ってて、現在最強の化け物プレイヤーたちが束になっても勝てなかった……というかダメージすらまともに与えられなかったらしい」


「はぁ、いい人たちだと思ったけど。ここの運営はそういうところで意地悪ね」


「お知り合いで?」


「ちょっとお仕事の関係だからお口チャック」


 私が口外できる情報は限られている。

 というかほぼ皆無といってもいい。

 今のは口が滑ったというべきなんだけど、本当は運営とつながりがあるというのも知られるだけでよろしくない。


「そのゴーレムだけど、塔の中に出てくると思う?」


「出てくるねぇ、というか塔の中から発進したみたい。カタパルト使って」


「形状は?」


「豚みたいな鼻をしてて、全身が赤い。目が一つ光ってて、トゲのついた肩パットと盾に使うのかなという感じのものがついてる。マシンガン装備してて、斧も持ってた」


「殺意の塊ね……それと出くわしたら逃げる事にしましょう」


「同感、あのサイズのマシンガンで撃たれたらさすがに俺の鱗も貫かれる」


 話を詳しく聞いてみると子竜化を解除したゲリさんよりも大きくて、なおかつゲリさんと同じサイズのマシンガンと斧を持っているらしい。

 それは無理ね、私もまともに相手できる気がしないわ。


「あともう一つ重要な情報があるんだけど、聞きたい?」


「なにかしら」


「他国に情報を流した人たちがいるんだけど……あ、プレイヤーね。まず情報を流すまでに信頼を得る必要があって今日になってようやく第一陣が話ができたらしい。そこから調査に短くてリアル時間で2週間。派兵まで考えると1月くらいかかりそうって話になってるぽい」


「援軍を期待するなら1か月かかるのね……さすがにそれは待ってられないわ。私のリアルの友人が乗り込んできたら怒られそうだし」


「リアフレ?」


「えぇ、多分このゲームの常識がひっくり返るようなことする人たちだから。そんな人たちが私が手をこまねいていると知ったら嬉々として乗り込んできて即座に殲滅、そのまま私をあざ笑ったりお説教したりというコースになるわ」


「……フィリアさん相手にそんなことできる人いるんだな」


「えーとノルウェー最強のプロゲーマーと、インドのお坊さん、中国のフードファイターよ。ほかにもアメリカ在住の友人とかも乗り込んでくる予定らしいわ」


「俺でも知ってるやばい人たちだ……ちなみにアメリカの人もプロゲーマー?」


「ではないはず。なんか会社を運営しているけど、以前贈り物をしようとしたら普段は実家にいるとかで、その実家の住所聞いたら太平洋のど真ん中だったのよ。不思議な人よね」


「……そっすね」


「あとはインド最強のプロゲーマーも来るわよ、さっき話したのとは別の」


「最強っていうと、司馬っていう正体不明の?」


「そうそう、司馬さん。昨日電話で来月頭には乗り込むと言ってたわ。みんな時期合わせるならその頃じゃないかしら」


「どんな人脈してるの……?」


「こういう仕事しているといろんな出会いがあるのよ」


 ここで出会いと別れが~とか言えたらミステリアスな感じでかっこよかったかもしれないけど、別れなんてなかったから何とも言えないわ。

 まぁ、とりあえずあの人たちが来る前にサクッとこの塔をクリアしちゃいましょう。

 ちなみに司馬さんがなぜ日本名を使っているのかは不明、よくいるイケメンのお兄さんだったんだけど日本人ではなかったから。

 いわくゲーム内で本名に近いの使おうとしたらこれがぴったりだったとか。

 不思議な人よね。

太平洋のど真ん中:南緯47度9分、西経126度43分

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― 新着の感想 ―
インドの呪殺師はシヴァさんでしたか…… ……え?アメリカの人大丈夫? ゲームログインした瞬間SAN値直葬しない?
こ、来ないで……`(一般プレイヤー目線) ほんとにどうなってらっしゃるの????
ルルイエ……
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