刹那さんに染まりつつあるガール
そんな弟子たちとの和気あいあいとした歓談から一転、豪奢な部屋でカチコチになったリリエラと不満そうなアリヤ。
そして出されたお茶菓子を食べ続ける私という構図になった。
姉弟子アリヤの予想通りすぐに領主から徴集された、というかほぼ連行されたと言ってもいい。
しばらく待つように言われて待機しているが既に1時間くらいかかっているのだ。
その間ずっと緊張して真っ青になっているリリエラは小刻みに震えたり、大きなため息をついたりと落ち着かない様子。
一方のアリヤはと言えば剣を一時的とはいえ取り上げられたことでご立腹、立場的には領主相手なので致し方なし。
彼女も領主の娘だけど跡取りというわけではないからね、身分差があるからこその措置だけど愛用の武器が無いというのは落ち着かないらしい。
「二人とも、そんなに固くなってると後で疲れるわよ」
「お姉さま……ですが、その、この場所は悪魔除けの結界が……」
「あー、なんかあると思ったらそれか。でも今のリリエラなら問題ないでしょ」
「そうなんですけど、ちょっと落ち着かなくて……」
以前の、つまり私にドレイン仕掛ける前の彼女ならこの結界に触れた瞬間蒸発していただろう。
だが今ならこの程度そよ風に等しい。
まぁそよ風であろうとも全身に絶え間なく吹き付けてくるとなると鬱陶しくもなりそうだけど。
ただこれでわかったのは、人間もただ狩られるわけではなく悪魔への対抗手段を持っているという事。
アリヤが言っていた悪魔すらもいちころな毒というのも含めて防衛手段も用意されているようだ。
問題はその防衛手段があまりにも貧弱、悪魔を拒絶し弾き出すタイプの物だが馬車に魔改造した悪魔レベルでも突破できるだろう。
流石に無傷とはいかないだろうけれど、それでも侵入はできる。
もっと格上なら結界を破壊できるだろうし、更に上を見れば今のリリエラのごとく涼しい顔で結界をすり抜けられる。
なお彼女が結界に弾かれなかった理由は単純、人間に擬態しているからというものだ。
つまり悪魔としての能力をほとんど隠している今はパワフル女子なだけで、戦闘に必要な能力の大半を消失している状態。
ここに来る途中アリヤの助言を受け、即興で教えた方法だ。
割と器用なリリエラはそれをすぐに会得して、自身の能力をある程度抑え込めるようになった。
封印の応用なんだけどね、私が鬼の力に飲まれかけた時に使ってもらった魔法のものまね。
まぁいざとなったら私が結界を破壊するか、リリエラに好き勝手暴れさせればいいでしょ。
アリヤは……あの魔剣があれば並大抵の人間は雑魚同然だけど、素手だとちょっと強いレベルでしかない。
それこそ最下級の悪魔の首をねじ切るのが限度だろう。
「で、アリヤはもうちょっとこう、殺気を抑えられない?」
「すみません、落ち着かなくて」
「剣が無いのがそんなに不安?」
「いえ、不安というよりは不満です。アレを見た時の奴らの表情、それに結界の範囲に私兵の出動の遅さ等……」
「あぁ、その事ね」
アリヤが気にしているのは領主の娘という立場からの視点だろう。
聞いた話では衛兵なんかはゴブリンたちが押し寄せてすぐに駆け付けたらしいけれど、対してこの領地の私兵なんかは真っ先にこの領主邸に戻っていったらしい。
そういう契約と言われたらそれまでだけど、目の前で助けを求める人を足蹴にして逃げ出す奴までいたらしい。
あとはアリヤの剣を見た瞬間目の色を変えた人なんかもいたし、私達が可憐でか弱そうな女という事からかいやらしい視線を向けてくる相手もいた。
まぁ、ここの領主はろくでもない手合いなのはなんとなくわかった。
表の顔がどうあれ、本性というのは咄嗟の行動に出るものだ。
緊急時の備えはしてあります、私だけね、領地の人間は知りません、いざという時に防備を固めます、私だけねなんてやり方をしていればまぁ見えてくるわ。
「それよりも貴女が怒らない方が不思議です」
「なにに?」
「そのお菓子、薬入りですよね」
「そうね」
パクパクと食べているお菓子だけど痺れ薬から睡眠薬まで多種多様な代物が含まれている。
中には致死性の物もあるので二人には食べないように伝えているけど、この程度なら問題ない。
化学薬品とか廃棄燃料ガロン単位で飲んだ時に比べたら御馳走だ。
「食を冒涜する相手は許さない主義だと思ってました」
「食べられるからセーフ」
「……目の前に運動した直後で腹ペコな女の子が二人いますが?」
「あとで美味しいお肉でも食べに行きましょう」
「食べつくさないでくださいね? あとちゃんと加熱すること」
「わかった」
「あと街中でゴブリンつまみ食いするのもダメです」
「……わかった」
チッ、非常食になるかと思ったのに。
とかやってたらようやくドアがノックされた。
出番かしらね。
本日化けオン発売!
この話が投稿されている頃、私は本屋行脚の最中でしょうか……。
めっちゃ走り回って自著が並んでるのをこの目に焼き付けなければ!




