止まらない電話
帰宅後、そろそろVOTの調整も終わったかと思ったけどそんなことはなかったので普通にお仕事。
ゲリさんとの約束の時間まではまだあるけど、それまでには終わりそうだから問題なし。
まずは化けオン運営の会社を見た感じのレポートかしらね。
正直書くことは本当にない、だってそれほど中を見ていないんだもん。
けど味覚エンジン担当の人に関しては結構かけるわね。
具体的に言うと原稿用紙500枚分くらいいける。
それから今日食べたシュールストレミング茶漬けのレポを書くべきよね、これはレポートじゃなくてブログ用に。
いやぁ……最高だったわ。
あ、そういえばお風呂に入れって言われてたしお湯張っておこう。
その間に軽く作業をしましょう。
うーん……まずはご飯!
ちょっと栄養が偏っているから野菜炒め中心ね。
もやしと千切ったキャベツとネギのシンプルなやつ。
これを3つのフライパンで炒める。
ソースで味付けしたもの、塩胡椒のみの味付けの物、そして濃縮出汁で味付けしたものの三つだ。
これだけでご飯10杯はいけるのよね。
出来上がりをお皿に移すことなくフライパンから直接いただく。
お行儀は悪いけれど、まだ荷ほどきが完全にすんでなくてね……愛用の丼と調理器具以外は寝具くらいしか開封していないのよ。
とりあえず5合用意した御飯だけど少し物足りないから、ソース味の野菜炒めを常備してあるコッペパンにはさんで食べる。
いやぁ、本当に美味しいわねこれ。
諸々がすんでお風呂に突入!
髪の毛がお湯に入らないようにタオルでくるんで、肩までじっくり。
いやぁ……足が伸ばせて音を気にしないでいいお風呂は最高ね。
今祥子さんが管理してる部屋のお風呂は狭いし、ドアの向こうからカリカリと音がしていたのが気になってしょうがなかったのよね。
天井裏でバタバタと運動会始めるのもいたし。
じっくり体を温めたら、シャワーを浴びて全身くまなく洗う。
……そういえばあのお風呂はシャンプーした後勝手にシャワーからお湯が出てきて洗い流してくれたりしたから便利ではあったわね。
幽霊も使いどころがあるわ。
とりあえずさっぱりしたところでお仕事の時間かしら、と思ったら鞄に入れていたスマホがけたたましい音を鳴り響かせた。
この着信音は……あぁ、北欧のフレイヤさんか。
「はいはい、刹那ですよ」
「あ、せっちゃん? わたしーフレイヤよ」
「知ってますよ。専用の着信音にしてあるので」
「あらそれは嬉しいわね。それでなんだけど……最近せっちゃんの部屋に誰か住んでる?」
「あぁ、前に話した知人が管理人になってますよ。私諸事情で出向しているような状態なので」
「そう……その人がどういう人か知らないけれど、せっちゃんほどの人はめったにいないから心配になっちゃってね。お守りをおくろうかと思ったんだけどどうかしら」
「あの鉄のお守りですか?」
「うーん、あれは認めた人にしか送っていないから。残念ながらその人は見定められてないし別ものね。瓶詰にした植物の葉っぱなんだけど、それが置いてあるだけでもだいぶ変わると思うわ」
「そういうことなら祥子さんも喜ぶと思いますよ。寝不足みたいだったので」
このフレイヤさん、本当に不思議な人でこの人がくれたお守りがあると大体のことがうまくいく。
ただ、その分命の危機に瀕することも増えた気がするのよね。
まぁ誤差だけど。
「祥子さんというのね。明日には前の住所に届くようにしておくから、新しい住所は把握しているからその関連は連絡不要よー」
「相変わらず、どこで知ったのやらですね。まぁありがとうございます」
「はいはーい、じゃーまたねー」
ふぅ、あの人は相変わらず元気だなぁ。
自由奔放というかなんというか、仕事には真面目に取り組んでいるらしいけれどそれ以外だとつかみどころがないというか。
まぁ面白い人だからいいんだけどね。
っと、また着信?
この音は……インドのガウタマさんかしら。
「はい、刹那です」
「やぁ久しいね。早速だけど君最近引っ越したのかな?」
「えぇ、出向扱いなんで前の家もそのままですが今は管理してくれてる人がいます」
「そうかそうか、どうりでね。君があの家を離れたとなると少し心配だから何か送ろうと思っていたのだが……」
「そういう事であれば北欧のフレイヤさんが葉っぱの瓶詰をくれるそうですよ。だから家の方は平気かと」
「ほう、あいつが……なら僕が心配することはないね。まぁどちらかというと君の心配をするべきだから君宛てにお守りを用意するよ。大切にしてくれ」
「いいんですか?」
「うん、まぁ大切にしないと不幸が降りかかる類だけど君なら大丈夫だろう。住所はわかっているから安心してくれたまえ」
「ありがとうございますガウタマさん」
「なに、君とは美味しいご飯を共にしたからね。このくらいお安い御用さ」
そう言って切られた通話、今日はやたらといろんな人が電話かけてくるわね。
インドのお守りか……ガウタマさんがくれるものは大体すごいから今回も期待していいかも。
でも言いつけを守って大切にしないとね。
インドかぁ、人を呪い殺すなら呼んでくれなんて言ってた人もいたけどあの人もガウタマさんを紹介しようとしたら本気で嫌がってたし、そういう界隈では有名な人なのかな。
……今度は誰かしら。
「にーはお、刹那」
「あ、その声はとーてつさん」
「相も変わらず間の抜けた呼び方をするなぁ、饕餮だと言っているのに」
「読みにくいし呼びにくいんですよ。だからとーてつさんでいいんです」
「はっはっはっ、まったく君は相変わらずだ。それよりガウタマから話を聞いてな」
この短時間で?
あの人も妙なネットワークを持っているから侮れないのよね。
多分フレイヤさんにも連絡行ってるはず。
「今度日本に行くことにしたんで、お前が以前住んでた部屋を3日ほど借りられないかと思ってな」
「え? いいですけど……私から話せば管理人してくれてる人も承諾するでしょうし」
「そうかそうか、最近はめっきり腹が減っててな。そう言ってもらえると助かるぜ」
「なら日本に来たときは美味しいご飯でも一緒に食べましょうか。あちこちの優待券もらったので」
「おう! そりゃいいな! パーっと食って飲んで楽しむとしよう! それにお前がやってるゲームにも興味があるしな」
「えーと、化け物になろうオンラインですか?」
「そうだ、それ! 聞くところによるとすっげぇ美味そうなものがいっぱいあるらしいじゃねえか! フレイヤやガウタマも乗り気でな、そのうち俺達も乗り込むと思うから待ってろよ!」
「ははっ、レベル上げて待ってますよ。皆さんにはどうあがいても勝てないので」
「その謙虚な姿勢嫌いじゃないぜ! ま、そういう事でまた今度な! 改めて日取り決めて連絡すっからよ!」
「はーい、できればお仕事に余裕ある時でお願いしますね」
「そりゃ風に聞いてくれ! じゃあな!」
ぷつっと切られる電話。
うーんみんな自由ね。
それよりもあのリアルチートな人たちがゲームに乗り込んでくるのかぁ……化けオン、荒れそうね。
なおこの後数時間、いろんな人から電話がかかってきてレポートどころではなかったのは余談。
ゲリさんとの約束の時間ギリギリになってようやくログインできたわ。
……今夜は忙しくなるわね。
彼らが乗り込んでくるのはもうしばらく後です。
これで一度リアル回が終了して、次回からゲームに戻ります。
……こいつ本当に人間か?




