修行会だよ、こいつ頭おかしい!
「ていやぁ!」
「おっと」
アリヤの攻撃を半身で避ける。
彼女の剣の腕はなかなかのもの、だけどあくまでなかなか止まりである。
うん、本当にそこそこ強いだけの子なのよ。
「ならこれで!」
右肩に剣を乗せるような構えをしてその場で振り下ろす。
私に届く距離ではないのに振った剣、その一撃が私の胴体を袈裟懸けに切り裂いた。
あの封印されていた剣は「切った」という事象を生じさせるとんでもない武器だった。
その代わりに他者の血を吸わせ続けなければ正気を失う魔剣、なのでたまに私の血を吸わせている。
「んー、浅いよ?」
「まだ目算がうまくいかなくて……」
「ほら、心臓を貫くつもりで」
「いや、死にますよね」
「まだそんなこと言ってるの?」
既に何度も見せているのに未だにアリヤは人を傷つける事を恐れているように見える。
なんというか……敵に対しては問題ないし、人外相手だったらまったく手加減しないんだが仲間とか人間相手だとどうにも剣筋が鈍るのよね。
「では……」
今度は刺突の構え、そこから突き出された一撃は私の肺を穿った。
うん、ずれてる。
「そこじゃなくてもッと右、相手が人間だろうと仲間だろうと切れるようにしないと」
「いや、仲間を斬るのはどうかと……」
「でも必要な事よ? 例えば私が裏切ったらどうなる?」
「それは……」
「私だけじゃない、今後同行者が増えるかもしれない。だけど仲間だから、仲間だったから、人間だからという理由で切れないのなら死ぬのはあなた。あるいは無辜の民よ」
「くっ……」
「というわけでもう一回」
両手を広げて攻撃を受け止める構えに入る。
そろそろあれも克服したいなと思ってたのよね。
「ならば遠慮なく行きます」
お、アリヤの眼が変わった。
迷いを飲み込んで切る事だけを考えた眼だ。
これならば今度は外さないだろう。
「はぁっ!」
迷いのない斬撃、それは遠慮なく私の首を狙い、そのまま跳ね飛ばす事ができるものだった。
だが……。
「あまい!」
その事象を改変する。
明鏡止水による合一、世界と同一化することで決定しているそれを覆した。
かなり神経使うけど出来ないことはない、けどアリヤの剣がブレブレで狙いが読めなかったからこそ使えない手段でもあった。
「え? たしかに切ったはずなのに……」
「できる相手がいるかはわからないけど、こういうインチキしてくる相手も想定するべきだからね。悪魔王とかになるとやってくるかもしれないから」
「……何をしたんですか?」
「切ったという結果だけを残すなら切られなかったという結果を上書きしたの。ちょっとした能力の応用ね」
「……………………一言だけ言わせてください」
「どうぞ?」
「そんなのほいほいできる相手がいてたまるか!」
「でも想定はしておかないと。ちなみに対処法は上書きが間に合わない速度で切るか、あるいは上書きされないような強力な一撃を見舞うか。直接ぶった切りながら事象改変するというのもありよ」
あとは手数で押しきるなんてものありだけど、彼女の場合はそういうやり方よりも丁寧にやらせた方がうまくいくと思う。
多分乱撃とかさせたら無関係な相手切りつける事になると思うから。
「はい、というわけで切ったという事象を絶対に確定させられるまで練習!」
「あーもう! やってやらぁ!」
こうして再開された特訓だけど、アリヤの剣はそこそこの腕から達人一歩手前くらいまで成長した。
その代わりにメンタルが大変な事になってしまったけどね……。
「ふ、ふふ、ふふふ……切れない相手はいない、死なない相手がいるだけ……ふふふ」
「じゃあ次は殺したという事象を確定させましょうか」
「さすがにそれはできません!」
「いや、私殺しても死ななそうって言われてるから大丈夫よ?」
「……どうして否定できないんでしょう」
「日頃の行いかしらね。やっぱり私みたいないい人はなかなか死なないものなのよ」
「いい人? そんな人どこにいるんです? 少なくとも私の見ているのは冷血で極悪非道で常識をゴミ屑としか思っていないような人間かも怪しい女しかいませんが」
「あ、女としては認識されてたんだ」
一緒にお風呂に入りたがらなかったり、着替えも別々だったりと異性として見られていたのかと思ってた。
「それで、殺害という事象の確定以外はなにかすることありますか?」
「んー、最低限の実力は身についたし武器の扱いも十分。だから明日には出発するから挨拶回りと準備しておいて」
「だから話が急すぎるんですよこの極悪非道女!」




