食レポだよ、全員集合
首にあたった剣はその衝撃を一点に集中させていた。
私の皮膚、肉、骨を断ち切らんとする箇所だけに必要な力が必要なだけ加わっていたのだ。
だがそれは私の首と、彼女の剣の強度比べでもある。
つまるところ硬い方が勝ち、脆い方が犠牲となるのだ。
結果……。
「私の剣が……」
半ばで折れた剣を見つめ呆然とする姿は剣士でも、領主の娘でもなく歳相応に玩具が壊れた子供のようにも見えた。
対する私はと言えば特にすることはない。
くるくると落ちてくる剣先を掴み、一つあくびをした。
「相手の力量をわきまえないとそうなるし、技術もあるけれど武器が粗悪。ついでに言うなら褒めた技量の部分も独学みたいだからか粗が多い。力は足りていないから技と武器で補わなければいずれ死ぬわね」
「……この、化け物め!」
「言うのが20年ほど遅いわよ」
手にしたままの剣を口に運ぶ。
アリヤさんだったかしら、彼女の目が見開かれる。
普段なら私も口にしない……というか、正しくは嚥下しない物体。
鉄の剣を歯で挟み込み、そのまま咀嚼する。
合成繊維の歯ブラシとかだとすぐにダメになるし、全然磨けないから鋼鉄製のブラシを使っているけれど食べるのはちょっとね……喉に刺さるとチクチクするから。
ただ、剣なら板みたいなものだし大丈夫でしょう。
ともあれ、久しぶりに口にした鉄板の味は可もなく不可もなく。
爽やかな香りがする油分はオリーブオイルに近いもの、恐らくは手入れのために使っていたであろう油か。
続けてくるのは石の香り、これは砥石だろう。
微かな水の香りは清流を彷彿とさせるもの、遠目ではあるが割と近場に見えた小高い山からの湧き水だろうか。
そして血肉の味、今まで切り捨てた敵のものだろう。
わかる範囲ではまず動物、山に入るという事はそこに住む動物との戦いでもある。
微かに残る炭の香りから察するに食料にしたのだろうか。
他には人間、なじみ深い味だからこそ、僅かであろうと気付けた。
恐らく1000の敵と戦い、その中で人間は数人と言ったところ。
シリアルキラーとかそういう類では無くて安心した。
いや、だからこそいきなりぶった切られそうになったのが不服だけどね?
あとは……なんだこれ?
強いて言うならベルゼブブの足に近い味……でもうま味が足りない……それにゲーム時代の味よりも統合後に毟って食べた時の味に近い……悪魔の味?
それ以外はよくわからないけどたぶん化け物、ゴブリンとかそういうの。
流石にここまでブレンドされてるとこれ以上を残り香から相手を判別するのは無理だわ。
相当な修羅場を潜り抜けてきたと見えるけれど……うん、凄いわね。
なまくらと評価したが、粗悪な鉄を使っているわけではない。
ただ単純に鍛冶師の腕がそこまででもなかった……いや、鍛鉄は問題がない。
だとすれば剣を作り慣れていなかったとみるべきだろう。
剣の形をした、しかし実戦に耐えられるかと言われれば微妙な物体というべきだ。
少なくとも私なら秒で折ってしまう。
そんな代物で、何度も刃を研ぎ獲物を斬り、手入れを怠らず、常に最高の切れ味を維持していたアリヤには敬意を表する。
とはいえ、鉄としてはそんなに美味しい物じゃない。
なんというか歯応えが……剣に適してない。
強いて言うなら槍……いや、銛?
剣の腹ともいうべき部分は脆い、普通の剣でもそうだし数打ちの刀なら素手でも叩き折れる。
けどこれはもっと脆い。
刀とかのしっとりとした羊羹のような舌触りではない。
かといって西洋剣のざらりとしたお煎餅みたいな硬さもない。
強いて言うならビスケットか、サクサクとしていて脆い。
だけど剣先とかはバリッバリと硬い食感だ。
んー、味の調和というのは食感もあるのだけど、例えば親子丼みたいに卵ふわふわお肉しっとりご飯ホクホクみたいな?
だけどこれは、その調和が見た目と合っていない。
「この剣、随分と使い込んでたのね」
「……実家の保管庫にあった物だ。一人前と認められた時にそこから拝借した」
「そう、悪いことしたわね」
「いや、私の実力不足だ。あなたが気に病むことではない……というか食べたのか?」
「食べたけど……あまり美味しくなかった。あと剣としては粗悪だった」
「……本当に人間なのか?」
「鬼の血は混ざってるけど人間。それなりに物を見る目はあるから実戦向きなもの探して、調整した方がいいかもね。明日……じゃ間に合わないか、明後日出発にしましょう。それまでに貴方の剣を新調しないと」
「見立ててくれるのか……? 貴方を嫌いと言って切りかかった私の獲物を……?」
「私を斬りたいなら聖剣か、同等の魔剣、あるいは神殺しの剣でも持ってきなさい」
まぁ切られても繋がるから問題ないんだけどね。
痛いから切られたくはないけど!
あとこの子素直でチョロかわいいわね……いざとなったら助けてあげる優先候補にしておこ。
……なんで剣の食レポしてるんだこいつ?




