ファーストコンタクト
「それで、同行は許可してもらえるか」
「構わないわよ。でも条件がある」
「聞こう」
「私の行動に口出ししないこと。この一つだけよ。もし破ったらその場に置き去りにする」
「……勝手についていく場合はどうなる」
「何かあっても手助けしない、目の前で死んでも放置するわね」
「そうか……言って聞かせるが、本人の性格が問題でな」
おっと? なにやら表情が曇ってるぞ領主さん。
「耳障りのいい言葉を選ぶならば正義感溢れる存在なのだ」
「悪く言うなら?」
「猪突猛進の正義馬鹿だ」
なるほど、正義という言葉を絶対だと信じているタイプかしらね。
強いて言うなら一会ちゃんに近いかもしれないけど、あの子は正義を建前として使うタイプだから……。
インターネットでよく見かける正義という武器を手に入れた瞬間強気になる人じゃなくて、常に正義を盾にして安全圏から爆撃スイッチ押すタイプ。
前者を鉄砲玉にして民衆をコントロールするフィクサーとでも呼ぶべき存在。
……こうしてみると全然違うか。
「その正義馬鹿の手綱は?」
「猪に手綱をつけられるか?」
「私は熊につけてる」
モモの散歩だけど最初はリードを使っていた。
エレベーター用鋼鉄ワイヤーだったけど、最近それを引きちぎるパワーを得て調子に乗ってたからぼっこぼこにして、でもいざという時抑えられないんじゃ意味がないから背中に乗るようにしたの。
いざとなったら蟹挟みで内臓締めあげてやれば一発で大人しくなるから。
流石にね、山神レベルになった熊相手だと化け物になった一般人程度じゃ危ないのよ。
大人なら何とか耐えられるけど、子供とかだと怪我する恐れがある。
死にはしないけど。
「……規格外だというのはわかったが、我々にそのような芸当は無理だ」
「んー、じゃあ条件を少し変更しても?」
「あぁ、今の条件では領地を出る前に置いて行かれそうだ」
「道中私が教育する。精神面も戦闘面も、あとはそうね……世渡りの方法とか」
「こちらにとっては願ってもない話だが、妙な事を吹き込まれても困るぞ?」
「そこは大丈夫。清濁併せ持つ性格になるだけだから」
具体的には結果のためなら手段を択ばないようになるだけ。
殴るにしても順序と手続きが必要だと教え込むだけだから。
「……妙な不安が残るが、それは人類にとって悪影響はないのだな」
「むしろ今後領主になる可能性があるなら必要な教育だと思う」
「ならばこちらは全面的に支持しよう」
「そ、じゃあ手始めに道中の食事に関してだけど」
「うむ、好きなだけとは言い難いがいくらかの保存食は用意しよう。少なくとも旅路で食事に困ることはない程度には」
「車でそれを運ぶとなると大型貨物車10台は必要になるわよ、私の場合」
「……は?」
「一日あたりの消費カロリーが100万、食事量は一食当たり2tからよ」
「……港が干上がってしまう」
「なので、荷物は最低限でいいわ。現地調達するし、最悪こっちは我慢できる。娘さんはどうか知らないけど」
「あれとて鍛えている。そこは問題ないだろう」
「じゃなくて、私のお腹の音に耐えられるかどうか」
最近朝朝朝昼昼昼晩晩晩夜と合計10食が基本だけど、夜食一回抜いたらお腹減りすぎて騒音問題になったのよね。
お腹がぎゅるるーって鳴って、その音でご近所さんの窓にひびが入ったりとかした。
以後、絶対に食事を抜くなって怒られた。
「よくわからんが、その程度は大丈夫だろう」
「そ、じゃあ後はそっちに任せるわ。出発はいつにする?」
「早い方がいいだろう。異世界の言葉で……善は急げ、だったか?」
「そうね、思い立ったが吉日なんて言葉もあるわ」
「我ら土地を守るべきものには向かない言葉だが、悪くないな」
そんな風に笑って部屋を出ていく領主さん、そして入れ替わりで先ほど絵で見た女性が入ってきた。
「部屋の外で聞かせていた。顔合わせとしてはちょうどいいだろう」
「趣味の悪い事で」
にやりと、してやったりというような表情を見せてくるのでこちらも嫌味で返す。
まぁこの程度はあいさつの範疇よね。
「アリヤだ」
「刹那よ」
「早速で悪いが、私はあなたが嫌いだ」
「そう、私はあなたみたいな跳ねっかえり結構好きよ? あ、でも私人妻だから妙な事は考えないでね?」
「妙な事というのは、こういうことか?」
音もなく抜かれた剣、狙いは首で寸止めなどの気配はなく必殺の一撃。
ちゃんと殺意も込められた、正真正銘私を殺そうとしている一撃である。
「なっ!」
「なまくらじゃ無理」
まぁ、腕がよくても武器がゴミだったから避ける必要も受け止める必要もなかったけどね。




