ネゴシエーション
「ともあれ調査の邪魔しなければ世界は安寧、人間と化け物で好きに殺し合ってくれていいわよ」
「……できればその殺し合いもなんとかしてほしいのだが」
無茶をおっしゃる。
私にそんな高度なネゴシエーションを期待されてもなぁ……。
辰兄さんとバトンタッチしていいなら何とかなるかもしれないけど、正直なところ世界を隔絶するという事は往来も不可能になるという事。
不法投棄していいならするけど、あの人なんだかんだで地球のネゴシエーターとして第一線で活躍してるし、その手腕も……方法に目を瞑ればかなりのものだったりする。
それを私の一存でどうこうは難しい。
「なんとかするというならそれこそどちらかを滅ぼすしかできないけど?」
「化け物共を滅ぼせるならば……」
「その手の発言をしたら私は双方滅ぼす」
「……なんでもない」
ちょっと威圧すると冷や汗を流しながら納得してくれた。
うん、最近なにかにつけてパワーアップしてたせいで威圧感だけでも周囲に被害が出るようになってきたのよ。
この前焼き肉屋でとーてつさんとフードファイトした時は威圧感で周囲にいた人が軒並み倒れてしまった。
テレビ企画だったんだけど、テレビ局の人達もバタバタと倒れてねぇ……結局お蔵入りになったらしい。
その威圧に、抑えていたとはいえ冷や汗で耐えられるというのは相当な修羅場をくぐってきたのだろう。
「しかし何をするかわからぬ相手を泳がせるのも許容できん」
「見張りをつけるくらいならいいけど……命の保証はないわよ?」
「と、言うと?」
「あそこの崖を見て」
ピッと指さした先にあるのは海岸線にある崖、サスペンスドラマとかで最後に犯人が飛び込むような断崖絶壁である。
座ったままグッと脚に力を込めて、数㎞離れた崖の上まで飛びのいた。
それからジャンプして元の位置に戻る。
「今の移動に耐えられる人じゃないとついてこられない、しがみついててもいいけどね」
「……車を出すからそれに乗っていってもらうことはできるか?」
「あ、車あるんだ。馬車じゃないわよね」
「魔導機械車だ。過去、異世界の文献から作り出した魔道具の一種だ」
「へぇ、過去にも異世界人が?」
「うむ、記録では7代前にこの大陸を統一した英雄が異世界人だという」
7代前……結構昔の話ね。
ただ世界間では時間の流れって無茶苦茶だからそこは気にするポイントじゃない。
私達が管理できている世界で異世界召喚系の行方不明者は全て確認しているが、統合後は一人も存在しない、というか全部私が連れ帰っている。
という事は統合前かな。
この世界も比較的新しいけど、やっぱり時間の流れってのは適当なものだからなぁ……。
あるいは地球側の人間のコピー。
文字通りのコピペで、精神面とかそういうのを丸っとコピーして作ったスワンプマンみたいなものがこの世界に用意されていたとか。
制約とか作ってるしやりかねないのよねぇ、この世界の神様。
「じゃあとりあえず車を一台、それと見張りは誰でもいいけどそれなりに強くないと死ぬというのは覚えておいてね」
「承知した。明朝までに用意するが、それでいいか」
「そんなにすぐ決めていいの?」
「これでも代官でな、それなりの人事権はある。方々への紹介状も用意しよう」
「随分と至れり尽くせりだけど、異世界人って下りから信じていいの? そういう騙りは結構あるんじゃない?」
「あぁ、そういう詐欺師は多い。だが詐欺だったとしてその実力、ヘタに敵に回すのは下策だろう」
なるほど、この人生きる事に関してはとても頭がいい。
生存を最優先とするならば他の事象は全て上に丸投げできるタイプの人だ。
本来苦労が絶えないはずの中間管理職なのに、上司に責任を押し付け部下を働かせることで上手く立ち回っている。
当然、自分が泥をかぶるふりなどもしてヘイトを向けられないように立ち回っている。
言葉の節々からそういった気配が感じられる。
この手の人はしぶといのよねぇ。
「ちなみにだけど、飛行機は無いの?」
「ある、というよりあったというか……作ってみたという記録があるというべきか……」
「歯切れが悪いわね」
「開発中でな、魔導車と同じ時期に作った骨董品があるが王都の博物館だ。しかも初代様以外が乗ろうとすると防犯システムが発動する。以後他の者が解析して作ったはいいが空中で爆散するのだ……原因は不明のままな」
「あー、だったら自力で飛んだ方が楽そうね」
「自力で飛べる人間とはいったい……ウゴゴ」
何やら唸っているけれど、まぁ明日まで休ませてもらおう。
とりあえずご飯の時間よ!




