当然の結果
あと数百mで上陸、というところで顔に何かが当たった。
同時に鼓膜を揺らす破砕音、耳がキーンってなった。
「なにごと?」
ちょっと驚いて目を凝らす。
よーく見ると陸上からこちらに向けられるリング状の物体……ああ、銃口だわあれ。
その先端が跳ねたと思ったらまた額にコツン、それからドカーン。
炸裂系の弾を撃たれたらしい。
んー、以前なら多少のダメージを受けてひっくり返ったりしたかもしれない。
そのついでに足を止めて海に沈んでたかもしれないけど、正直永久姉にぬいぐるみ投げつけられたくらいの痛みしかない。
爆発音にはちょっと驚いたけどね。
まぁその後永久姉は一会ちゃんと縁ちゃんに木に吊るされてた、偶然その場に居合わせた辰兄さん諸共。
ともあれあっちは敵対しているのがわかったので両手を上げてその場で足踏み。
銃口を向けられつつ、発砲してこないのを見るあたりなかなかいいスコープを使っているらしい。
とか思ってたら再び耳をつんざくような破砕音の後に額にごつんと何かが当たった。
くるくると回転しながら落ちてくるそれをキャッチすると貫通力を高めるためか、流線形になっている砲弾だった。
なるほどなるほど、敵意じゃなくて殺意だったか。
だったら遠慮は必要ない。
そのまま全力で接近して、跳躍して上陸する。
「どうも、こんにちは」
気軽に挨拶をすると返事の代わりに大量の銃弾、そして魔法と続いて最後に剣が服を切り裂いた。
……いや、切り裂いたというか小さな穴をあけたという方が適切かしら。
流石にチクチクして気分はよくないけどね。
「あー、敵意とか無いんでこれ下げてもらっても?」
ひょいっとつまんだ剣を押し返して、ついでに煤を掃う。
爆発する弾丸は面白いけどあれじゃゲリさんの鱗一枚割れるかどうかよ。
「おのれ化け物!」
指揮官らしきおじさんが叫ぶ。
赤い軍服……見た目はちょうどくるみ割り人形に似ている。
「失礼な、先祖返りしているとはいえれっきとした人間ですよ」
「水面を走る人間がいてたまるか!」
「たぶんだけどあなた達も能力値上げたらできるんじゃないかな……」
いや、本当に推測だけどね。
私はステータスという枷をぶち壊したし、そもそも外の世界から来ているからこっちの法則と同じなのかも不明なのよ。
まぁ少なくともステータス半壊状態でも走れたから問題ないと思うけど。
「ならばステータスを見せてみろ!」
「出るのかなぁ……」
少し疑問に思いステータス画面を呼び出してみる。
が、やはりというべきかなんというべきか。
出てきたのは真っ黒な穴だった。
うーん、穴が出てくるだけでも意外というべきなのかしら。
これがあるという事はまだ枷に囚われていると考えてもいいかもしれないけど……判断材料が足りないわね。
「なんだこれは……」
「画面叩き割ったらこうなりました。なかから骸骨とかぞろぞろ出てきたので鬱陶しかったです」
「……普通の人間にそんな事が出来てたまるか!」
「じゃあ化け物ならできるんですか? 例えば悪魔王とか、彼らなら叩き割れる? だとしたらそんな相手と敵対するつもりで? こちらは敵意は無いと言ってますし、その証明に反撃してませんよ」
つらつらと質問をぶつける事で判断力を奪う。
ジャーナリストとしてマスゴミ呼ばわりされていた先輩から教わった手法だ。
相手に考える時間を与えず、畳み掛ける事で失言を引き出す、なお無茶苦茶嫌われるので普段は絶対にやらないが服が破れたのはちょっとイラっとしたので意趣返しにね。
「む、ぐ……」
「悪魔王の一角知ってますけど、皆さんが持っている玩具じゃ撃退もできないと思いますよ。むしろ怒らせる……のも難しいかな。面白がって蹂躙して奪っていくとかになるかも」
「あ、悪魔王と面識があるだと!?」
「いえ、この世界の奴らは知りません。私のいた世界の……まぁそう言って差し支えないかな。ベルゼブブとかとはそれなりに仲良くやってますよ」
「は?」
「申し遅れました。地球混成世界出身の伊皿木刹那と申します。ものすごく簡単に言うなら異世界人ですね」
私の言葉にくるみ割り人形指揮官は言葉を失ったかのようにパクパクと口を開閉するばかりだった。
うーん、もうちょっと他にリアクション無いのかしらね。




