意外と苦戦?
虚無から出てきた骸骨集団、最初に手合わせした時も思ったが脆い割には耐える。
例えるなら……そう、ゲーム的な話だけど防御力は低いくせにHPが無茶苦茶高い敵だ。
それが数えきれない物量で私に襲い掛かってくる。
力が戻った、というかむしろ増した今であってもこの骸骨を一撃粉砕するには相応に力を込めなければならない。
もしかしたらさっき出てきたのは先兵か斥候であって、本命の戦力は別物なのかもしれないが……。
その結果として足場にしていた無人島が徐々に崩壊し始めたのだ。
どんどん不安定になっていく足場、対して相手はどういう原理か浮遊しているためそんなものはお構いなしである。
「……このままだとじり貧かしらね」
努めて冷静に状況を確認していく。
このままのペースで戦えば骸骨の殲滅よりも先に足場を失う。
無人島が崩壊して、海上での戦闘となるだろう。
いざとなったら海中に逃げるべきか、いや、おそらくこの骸骨たちは水中だろうが追いかけてくるはず。
なら発生源の虚無、元ステータス画面をどうにかしたらどうかとも思ったがこちらの操作を受け付けなくなっている。
恐らく破壊した際に私のコントロールを離れたのだろう。
現状、足場は崩壊の一途。
逃げ場はなく、徐々に不利になっていく。
何かどんでん返しが必要だが自爆したとして足場が消えるのは変わらず、同時に骸骨を何体か削ることはできるかもしれないけれど虚無まで対処が回らない。
発生源を潰すことができない以上、こいつらは延々とわき続けると仮定しておこう。
なら逆転の発想だ。
「さぁ! ついてきなさい!」
眼前の骸骨のみに集中し、多少のダメージは無視して突き進む。
拳を繰り出し、蹴りで粉砕し、ビームで焼き払い、近くにいたやつの頭蓋骨を咀嚼する。
……相変わらず美味しいんだけど、もう一味足りないのよね。
まぁそれはともかくとして服がボロボロになったけど目的の場所にはたどり着けた。
破壊したステータス画面、その奥に広がる虚無空間。
戦っている間に少し離されてしまったけれど、ようやく戻ってこられた。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「はぁ!」
出力を絞った自爆、島と共に骸骨たちが光に飲まれるのを確認する間もなくその中に飛び込んだ。
上下も左右もわからない謎空間、重力は感じるが足を向けた方向に対してである。
くるくると回転したら自分がどの方向を向いているかわからなくなるだろう。
そんな事を思いながら存在しない足場を踏みしめる。
落ちていく感覚はないが、わずかに光が注がれている入り口は遠い。
たった数歩だというのに気が付けば数㎞は離れているように見える。
空間が歪んでいるとしか思えないが、鼻を頼りにソレを探す。
道中は先ほどまでと打って変わって、そして私の予想を覆してとても静かだった。
まるで廃墟のような、痕跡以外は残っていない、人の気配もない、だが確かに人ならざる者が住み着いているような、そんな空間で歩くこと数分。
もはや入り口は極小の点となっていたがかろうじて見失うことなくそこに辿り着いた。
「……なかなかかっこいいわね、前衛芸術みたいで」
無数の人間をこねくり回して粘土細工のようにくっつけて固めたような球体。
こちらに手を伸ばし、苦悶の表情を浮かべる顔面からは怨嗟の声がメロディーのように響く。
これがこの空間の核だろう。
「今、楽にしてあげる」
パンッと手を叩いて祈りの言葉を紡ぐ。
そこに込めたのは感謝と謝罪と、そして哀悼の意。
「いただきます」
ガコンッと顎を外して球体に口をつける。
……一応、顔の出てない部分を狙ってだけどね。
そしてそのまま一息に、咀嚼することなく飲み込んだ。
同時にお腹の中からはあらゆる負の感情が、骨伝導のように響いてくる。
まるでこの世全ての悪感情を詰め込んだような、とても不愉快なものだったが気にしている暇はない。
核を失った空間がどうなるか、過去いくつかの世界を滅ぼさなければいけなくなったことがある。
その際に世界の核を破壊したが、それは崩壊の合図だ。
家の支柱、あるいは土台を破壊するに等しい行為である。
すぐさま壊れてもおかしくないし、徐々に崩れていくことだってある。
今回は運よく後者のようだが、前者だったら少し危なかったかもしれない。
そう思うほどにこの空間はおかしいのだ。
全力で走り、出口を目指すが足場はどんどん不安定になっていく。
それだけじゃない。
空間のあちこちに亀裂が走り、あらゆる方向から先ほどの骸骨が現れこちらを攻撃してきた。
まるで核を決して外に出さないガーディアン、先程までのが侵入を防ぐ門番だとしたらこいつらは追跡者とでも呼ぶべきだろうか。
あともう少し、ほんの少しで外に出られる。
そんな慢心がよくなかったのだろう。
右足に激痛が走り、バランスを崩して倒れそうになる。
見れば骸骨の持っている大鎌が私の足を斬り飛ばしていた。
だが止まるつもりはない。
「せいやぁ!」
残った左足で、既に崩れそうになっている足場を強く踏みしめると同時に斬り落とされた右足を爆発させ推進力にして出口に頭から突っ込む。
その先は消滅した島、つまりは海上だが受け身とかとる暇もなく水面に叩きつけられ、大きな水柱を上げて着水した。
だらだらと流れる血を血流操作で止めつつ、大きく息を吐いて虚無の入り口を見る。
諦める気はないのだろう。
徐々に小さくなっていくそこからは無数の、それこそ世界を埋め尽くさんとするほどの骸骨が出てきた。
もうひと頑張りするしかないみたいね……とりあえず着水の衝撃で浮いてきたお魚食べて回復しなきゃ。




