回復? パワーアップだよ
ピシッと、以前ぶち抜いた穴から広がるようにしてステータス画面に亀裂が走った。
一瞬の静寂、そしてすぐに崩壊は訪れる。
ぱらりと破片が落ちた。
あとはもう決壊するダムのごとく、ステータス画面だった物はバラバラと崩れ落ち、後には虚無が残った。
何も残らなかったのではない。
虚無としか形容できない、黒助君と決着をつけたこの世全ての闇を凝縮したような空間である。
ゲームの世界と、おおよその戦争が膠着状態に陥ったことで貧困や格差問題は残ったままだが概ね平和と言える地球ですら世界を破壊しうるほどの闇。
だがそれを超えるほどの濃厚で、重く、見ているだけでも眩暈がするようなそれは存在そのものが悪……いや、そもそも善悪での形容ができない、あらゆる世界で最もどす黒い闇ともいうべき存在だ。
例えるなら……邪神、と言ったところかしら。
本人に害意はなく、どころか自我があるのかさえも不明。
地球ではある種の災害として認識されつつある昨今だけど、うっかりで世界を崩壊させかねない存在が闊歩しているというのは恐怖の対象である。
それに近しい、しかし決定的に違うのは意志の有無であり、邪神はその場のノリと勢い、つまりは感情に任せて世界を滅ぼそうとするのに対して眼前の虚無は事象として世界が滅ぶ要因である。
……ぶっちゃけ、放置して世界を切り離せば地球には一切の影響なくエネルギーの供給源、つまるところ生命体の負の感情が無くなるから時間はかかるけど消滅すると思われる。
あくまでも思われる、なので祥子さんに聞くまでもなく「消してきなさい」と言われるだろうけどねぇ……。
なにかの手違いで供給源得たら再活動して地球に火の粉が降りかかることもある。
私が通ってきた道がある以上パスもあるし、化けオンを基にしているという意味では繋がりも強い。
そもそもそのつながりの強さを危険視されたから私が派遣されたのだから。
「うーん……」
しかし問題もある。
本調子ならまだしも、枷が解けていないのだ。
ステータス画面を物理的に破壊するだけじゃ意味がないみたいだ。
まぁその程度の枷なら制約として意味が無いからね。
「こうしたらどうなるかな……」
虚無に手を突っ込んでみる。
そこから捕食を試みたところ、膨大なエネルギーと怨嗟の塊ともいうべき何かが入り込んできた。
同時にずるりと、額から角が飛び出すのを感じ取る。
……何億何兆をも超える規模の負の感情の塊。
それも遊び半分の拷問の末とかそういうのばかりだからだいぶ気分が悪い。
が、耐えられないほどでもないのでそのまま顔もつっこんでまとめて吸い尽くす。
「けぷっ」
げっぷが出てしまった……。
味は苦い、匂いは臭い、そして五月蠅い。
過去、これ以上の不味さは存在しなかったかもしれない……あ、いや、南極で食べたスライムみたいなのはもっとマズかったか。
あれは本当に……形容しがたい味だったわね。
「ん、ん-!」
軽く伸びをしてみるとだいぶ身体が楽になった。
力も元通りに……ん?
「せいっ!」
まだ残っている虚無に対して拳を突き出す。
同時に骸骨が出てきて、拳にあたり木っ端みじんになった。
いや、パワーアップしてるわこれ。
今までよりも体が軽いし、それに拳の速度も威力も上がっている。
パンチ一発でナイ神父の頭を月までふっ飛ばせそう。
ただ……。
「わらわらと……」
虚無から出てくるのはぼろきれを纏った骸骨。
そういえば以前ステータス画面割った時も同じような事あったわね。
まぁ、運動としてはちょうどいい。
無数に存在するのではと思える骸骨たちと戯れるべく、という建前の下リハビリを兼ねた運動と食事のために虚無に完全に身を投げた。
戻ってこられる保証はないけど……まぁ転移系の術を使えば問題ないでしょ。
降り立ったステージでは私を囲うように、それこそ上下前後左右関係なくこちらに敵意を持った骸骨という名の現象がいた。
いうなればそう、虚無からあふれた力の具現化ともいうべきもの。
私がその一部を食べたことでこちらに敵意を持ったのだろう。
「かかってきなさい、遊んであげるから」
さぁ、ショータイムよ。
ご報告:家族が体調を崩ししばらく介護生活をおくっております。
結果的に私も疲労がたまっているため遅刻などが増えるかもしれません。
極力頑張るけどね! いろんな意味で頑張るけどね! 焼肉食べたい!




