人間牧場
教えられた通り進んだ先にあった牧場、そこにいたのはちゃんとした豚だった。
ゴーストではない生身の、という意味ではまぁちゃんとしている。
強いて問題を挙げるならそうね……二足歩行で緑色の肌という点かしら。
「……オークね」
「おう、ようこそ海底牧場に! ラーメン屋から念話で聞いてるぜ!」
「あ、ども」
声をかけられたので返事をしてみるとそこにはゴーストの男性。
その手に持っているのは鞭である。
「うちの牧場を見たいなんて物好きだなぁ。とりあえず説明はいるかい? 乳搾り体験とかもあるぞ」
「へぇ、じゃあとりあえず見学コースで」
「あいよじゃあまず見ての通り豚だ。外じゃオークって言われてる種族だがこいつらは欲望のままに育てるといい肉になるんだ。逆に厳しく躾けると肉質が落ちて不味くなる」
「ほうほう、つまり自由奔放な放逐と」
「街を壊されたらたまらないから制限はあるがな。だがこいつらがストレスを感じることはねえだろうなぁ」
「なるほど、たしかに広いわね」
見渡す限りの平原、そこに掘っ立て小屋がいくつも並んでいる。
なんか……妙な臭いがするけどオークの体臭じゃない。
そしてゴーストの牧場主にはそもそも体臭が無い。
つまりそれ以外の匂いという事だ。
「次にあっちにいるのがミノタウロス」
指をさされた方向に視線を向けると金属製の柵で隔離された場所に二足歩行の牛がいた。
あぁ、うちの地下にもいるわあれ。
「あいつらは雄しかいないからメスを代用しなきゃいけないんだが……つってもこの牧場で飼ってるのは基本そうなんだがな」
おっと、急に空気が変わったぞ?
「あいつらはオークとは逆に躾けないと肉が硬くなる。筋肉をつけすぎてゴリゴリとした歯ごたえになっちまうんだ」
「私は硬いお肉も好きだけど?」
「だが美味い方がいいだろ? だからトレーニングの気配を感じたらこいつでシバく。んで、怠惰に過ごさせて動けなくなったら食う」
「なるほどね。丸々太らせてから美味しくいただくと」
「おう、この肉が絶品でなぁ……」
「ちなみに他には?」
「目を潰して尾の蛇を切り落としたコカトリスとか、羊毛を蓄えるタイプのバフォメットとかだな。こいつらの飼育もなかなか大変でなぁ。見ていくかい?」
「いいえ。それで、乳搾り体験があるって言ったけどミノタウロスは雄しかいないのよね。メスは?」
「それなら牛舎だ。あの建物だな」
近くにあった一番ボロボロの小屋を指さしたおじさん、どうやら中に入れという意味らしい。
ここで拒否するのもおかしいので促されるままに入ってみると、そこには正気を疑うような光景が広がっていた。
「…………酷いことをするわね」
耳の長い、おそらくはエルフ。
背が低くずんぐりむっくりな体型のドワーフ。
そして彼ら牧場主と変わりない見た目の人間の女性たちが縛り付けられ、妙な機械に繋がれていた。
「あんたもその仲間になるんだがな!」
ゴンッと背後からの衝撃、後頭部を殴られたのだろう。
痛くはないけど、光景も含めて物凄くイラっとした。
「幽霊風情が!」
パンッと手を合わせ、お婆ちゃん直伝のお経を唱える。
本来こういうのって宗派に合わせる必要があるんだけどね、キリスト教なら聖書の引用だったり神道だったら祝詞だったり。
だが伊皿木家はその辺適当に綯い交ぜにして宗派関係なく通用する特別なお経を生み出したのだ。
なおその生まれをお婆ちゃんに聞いたところ、永久姉並の力を持っていたけど縁ちゃん並に面倒くさがりだったご先祖様が経典とかそういうの覚えるの面倒になってそれっぽいのを作ったという。
怠惰の才能ある人だったんでしょうね……。
「「「「「ぎゃああああああああああああああああああ」」」」」
海底都市のあちこちから聞こえる悲鳴、それはこの街の崩壊を意味していた。
端的に言うなら住民全滅である。
そして……。
「シテ……コロ……シテ……」
か細く呟く女性たちの声を聴き、同じ女としてどうにもしてやれない悔しさを胸に全身の血液を心臓に集める。
そして血液をエネルギーに変換し、解き放った。
自爆、範囲こそ絞ったが海底都市は跡形もなく消滅するだろう。
同時に海は突発的な津波や渦潮に巻き込まれることになるだろうけど知ったことではない。
「……英雄大陸がだめだったら早々に滅ぼす方向で決めよ」
そう呟きながら、爆発で押しのけられた水が戻ってくるのを眺めた。
あ、あの魚美味しそう。
なぜバレた




