ラーメンとそのお礼
パンチのきいた豚骨、濃厚すぎるスープは舌を通り抜け脳天を直撃するようなうま味へと変換される。
同時悪臭と紙一重の香りは鼻腔の奥から胃の奥を刺激し、共に煮込まれた各種具材の僅かな味わいを余韻に去っていく。
つるりとした細い麵はするすると喉を通り抜け、噛むとプチプチ心地よい。
濃厚なのにいくらでも食べられる!
「替え玉!」
「あいよ」
出てきた替え玉をスープに投入して、今度は薬味を入れる。
紅ショウガ、さわやかな辛みが心地よい!
ニンニク、パンチがヘビーボクサー級を通り越して化け物級だ!
高菜、紅ショウガと合わさることで鮮烈な辛みになるがこってりさっぱり両方を同時に味わえる!
なんてこと……今まで食べた中で最強のラーメンだわ。
「どうしたらここまで美味しくできるの……」
「そいつは企業秘密だがね、姉さんいい喰いっぷりだ。牧場に行ってみるかい?」
「牧場?」
「あぁ、うちが仕入れているとこなんだがあそこの焼肉は絶品だぜ」
「行きます!」
まだ10杯くらいしか食べていないけど美味しさの余りどんどんお腹が減っていく。
これはもっと食べろというお告げに違いない。
ならば焼肉がっつりもいいだろう。
「じゃあ連絡しておくよ。あとはそうだな、今回はお代ある程度おまけして最初の一杯分だけでいいぜ」
「え? いいの?」
「だってあんた外の金しか持ってないだろ? 俺等そんなに外貨使わねえ生活してるからな。うちに食いに来る奴らも現物持ってくることが多いし」
「あ、だったらこれとかどうかしら」
鞄から取り出したのはおやつに持たされたビーフジャーキー。
その量およそ5㎏。
「干物か?」
「お肉のね。ジャーキーって干物だっけ……」
燻製? 干物? どちらにせよ日持ちするし美味しいから気にしたことなかった。
たとえカビが生えても美味しく食べられるジャーキーは最高よね。
よく戦場取材の時にお世話になったわ。
「ふむ……なかなか美味いな。だがこの味、これなら今から行く牧場で食う肉の方が美味いぞ」
「これよりも美味しいの……それは楽しみね」
「あぁ、だがこれもいいものだ。酒の肴にぴったりだな。こんなにいいのかい?」
「美味しいラーメンの代金には足りないけど、せめてもの気持ちにね」
「そうか。なら俺はこいつを食ってもっと美味い物を作らなきゃなあ」
「その時はぜひ呼んでちょうだい。舌には自信があるのよ」
「はははっ、あの喰いっぷりみりゃわかるよ。あんたは神に祝福された舌の持ち主だ。さもなくば大罪の悪魔に愛されてるかな?」
その言葉にハッとする。
やべっ、私調査に来てたんだ……。
「大罪の悪魔、ベルゼブブとかどうなってるのかしら」
「んー、奴さんならうちの常連だが最近見かけねえな。よく飯食いに来るんだが」
「え?」
「いや、暴食の眷属もそうだがあいつらは話通じるからな。嫉妬とか強欲はまるでだめだが」
「いや、ここ来るの? ベルゼブブ」
「おう、ほれそこにサインがある」
壁に貼られた色紙には確かにベルゼブブと書かれている。
……いや、ツーショット写真まで貼ってあるわ。
えぇ?
「うちのラーメンを随分気に入ってくれてなぁ。牧場で焼肉を食いながらビールを飲んで、うちで締めるのがお決まりらしいんだよ」
……満喫してるわね。
「ちなみに節制とかそういうのは?」
「んなもん、1000年前に滅ぼされただろうが」
あ、滅んでた。
という事は……うん、この世界人間の生き残りは貴重なのかな。
天使系も大体負けたか引きこもっているとみるべきかも。
となると危険度が増したとみるのが正しい状況で……でもこのラーメンとかは残したいから一部地球に移住してもらって滅ぼした方がいいよなぁ。
でもこの世界の神様意外と話通じるから上手くすれば他の手段も……あーもう!
面倒くさい!
そういうのは偉い人が考える事!
祥子さんに丸投げしよう!
「とりあえず今渡せるのはお金とそのジャーキーだけだけど、また話聞きに来るかもしれないから」
「おう、そん時はまた何か美味い物でも持ってきてくれ。サービスするぜ」
「ありがとね!」
気前のいいおっちゃんに見送られながらお店を出て、紹介された牧場に向かって歩く。
海底都市は生活感があるが、やはり歩いているのはゴーストばかりみたいだ。
これ、家畜もゴーストだったりしないよね……?




