暴食の面目躍如
祝:脱スランプ!
とりあえずこの港町をどうにかしてしまおう、そう考えたのは血管みたいなこれから良からぬ物を感じたからだった。
なんというべきか……明らかに悪いものだという感覚がビンビンなのである。
具体的な例を挙げるならナイ神父からもらった物品と同じ香りがする。
実際中身は毒の塊、ついでに呪いなんかも大量に含まれているし、怨念とかそういうのもすさまじい。
もしかしたらこの港町に近づく生物を片っ端から呪って捕食していたのかもしれない。
まぁ、私は毒も呪いも効きにくい体質だからね。
とりあえず処理するとして、どうしたものか……食べるか!
「では、いただきます」
血管の端をめりめりと地面から引きはがしてぱくり。
そのまま麺のように啜る。
ふむ、なかなか面白い食感……麺なんだけど、コリコリとした食感はフォーに近いのかな。
でもってその中にある液体が適度な苦みと辛みを与えてくれて汁なし担々麵みたいな味わいになっている。
しかし一本麺みたいでちょっと食べるのがつらい。
一度口を離したら中身がこぼれるからなぁ……一気に啜るか!
「ふー……ふっ!」
ずぞぞぞぞぞと、一息に全てを飲み干して街から血管はなくなった。
同時に気配のようなものは一切、文字通り木々以外何も存在しなくなった。
鳥も、虫も、人も、家畜も、魚もいない。
文字通り死んだ大地ともいえる。
ここを放置したらどうなるのか、森が飲み込んで埋もれるのか、あるいは死の大地が広がって森が侵食されるのか。
どちらになるかわからないけれど賭けをする気にはなれない。
かといってできる事は……あ、あれがあったか。
化けオン運営印、花粉量10000倍の杉の木。
魔力を吸って育つ木で、年中変わらず花粉を飛ばし続けるというある種のバイオ兵器である。
ついでに竹よりも駆除が難しいため、日本はもちろん諸外国でも栽培は禁止されている。
もともとは人口問題に対して木材の不足を懸念して作って、そこに悪意を混ぜた結果産まれたらしいけど……なんでまともなものが作れないのか、これがわからない。
「これでよしっ」
巨大な一本杉を植えて、後は放置してもいいだろう。
魔力を糧にするという事は、呪いだろうと関係なくほいほい食べてしまうという事である。
日本各地にある危険な心霊スポットには安全基準を満たしたバージョンが植えられて、日々悪霊退散に貢献してくれているのだ。
「さて、と……じゃあ次はこっちかな?」
化け物大陸の内情はおおよそ理解できた。
始まりの町があんな感じだったという事は人間は負けて、化け物が闊歩する大地になったとみるべきだ。
となると、砦イベントがあった土地の教会とかは最悪消滅している。
よくて敗残兵のたまり場だろう。
カジノに関してはわからないが、もしかしたらそっちにも生き残りはいるかもしれない。
けど確かめる必要性がないから放置。
白銀の塔は最初から無視するつもりでいた。
あそこはある種のディストピアであり、同時にユートピアでもある。
管理社会だったけど、人間がまともに生きられる空間だった。
聖剣とかゴーレムが残っているならば私が出向くことで好転することはなく、むしろ悪化させかねない。
ならば次に向かうのは海の向こう、英雄大陸だ。
あ、ドワーフの国に関してはゲーム時代を知らないからパスで。
「……冷たい」
ちゃぷっと海水に手を突っ込んでみるが、随分と冷たい水である。
船は見当たらず、体一つで海を渡るしかなさそうだが泳ぐ気にはなれない。
ならばやることは一つだ。
「んー、出産とかぬるい任務で身体がなまってるけど行けるかな……」
多少の不安を覚えながらも右足を水面に乗せ、沈む前に左足で踏みしめる。
それを交互に繰り返すことで海上を歩く。
「よしよし、これならいける」
難しい技術じゃないけど、どのくらい疲れるのかが気になっていた。
足踏みだけだがこれなら3日間くらいは続けられるだろう。
フルマラソンを4分で走り抜ける私の脚力なら今日中に英雄大陸に辿り着くことも可能かもしれない。
ならば、善は急げだ。
「位置について、よーい、ドンっ!」
掛け声と共に海に走り出した。
あぁ、潮風が気持ちいいなぁ……。
こいつを人間と言い張ってた奴がいるらしいですよ。
誰ですかね、そんなアホは。




