トリプルアクセル(300回くらいの回転)
さぁ、ご飯の時間だ! と思ったところで問題が一個湧いて出てきた。
ステータス画面の消し方がわからない……。
ちょっと亡骸からお財布拝借した時に一緒に動いたステータス画面のせいで街が半分くらい崩壊しているし……これご飯食べられるのかな。
「待てお前! いや振り返るな、ステータスを閉じて両手を上げてゆっくりこっちを振り向け」
お、助け舟到来?
「ステータスの消し方、急募」
「あ? そんなん念じるだけだろうが。ステータス画面消えろって」
教えてくれるんだ、本当に親切な世界だなここ。
でも一つ言いたい。
なんでゲームだった化けオンよりもゲームを基にした世界の方がチュートリアル充実しているんだろう。
「消えろ消えろ……あ、消えた」
「よし、両手を上げてゆっくりこっちを向け!」
「はいはーい」
その言葉に従って両手を上げ、ステータス画面をもう一度呼び出してから勢いよくトリプルアクセルを決めて振り向いた。
「……あれ?」
眼前に広がっていたのは更地だった。
国なんてなかったかのように、何もかもが消え去った大地がそこにあった。
……いや、ちょっとした冗談のつもりだったのよ。
さっきの魔力量であれだけ大きな画面が出てきたのだから加減を覚えなきゃって思ったの。
それで小さくしようとさっきの半分くらいの魔力でステータス画面呼び出したら一回り小さいサイズが出てきて、国を薙ぎ払った。
えー、話は逸れるが何事もバランスというものがある。
無茶苦茶パワーがあるけど全力を出したら壊れるというのはよく聞く話。
それはパワーに対して防御力が足りていないという事であって、防御力を高めたら自壊することはほぼなくなる。
それは物品にも言える事で、私達が使いやすい道具というのは得てして頑丈なのだ。
人間をはるかに超えた戦闘能力を持っている彼らも同様、現在の日本が魔境となったことで家のリフォームが増えているのも同じ理由。
ちょっとしたことで壊れるのは危ないのだ。
だから頑丈な家に建て替えたりして、安全性を保つ。
つまりは自分の攻撃力で壊せない家を用意するのが普通であり、そしてそんな家を簡単に薙ぎ払える物体というのはそこに住む人たちにとって凶器以外の何物でもないのである。
まぁ、何が言いたいかというとだ。
家くらいなら簡単に切断できるステータス画面を振り回したらそこに住んでる人たちも軒並み壊滅するよねって話。
「やっちまったぜ!」
高速すぎてゆっくり振り返ったように見えるトリプルアクセルのせいで人も、建物も、食材も全てがミンチになってしまったようだ。
私としたことがご飯を無駄にするなんて……切腹してお詫びするしかないわ。
「ふんっ!」
手刀一閃、お腹を切り開いて……どうしよう。
この程度で死ぬこともないけど血を流し続けるのはちょっと鬱陶しい。
とりあえず内臓をしまって、傷口ふさいで、これでお詫び完了としておこう。
「んー、目印が何もなくなったからどこに行けばいいかわからなくなっちゃった……森があっちで太陽があそこ、という事はこっちが北かな?」
天体観測技術とかそういうのがどれだけ役に立つかわからない。
けどまぁ、物理法則は半分くらいは同じみたいだからいいでしょ。
とりあえず今はどこかご飯が食べられる場所を探そう。
食料が豊富な場所……それはつまり森の中でしょう。
というわけで森に突撃して、近くにいた狼や猿を乱獲。
「猿の脳みそ生きたまま、昔どこかで食べたけどワイルドな味よねぇ……」
変異したであろう猿のモンスターを捕まえて脳みそを啜る。
んー、醤油が欲しいな。
そういえば一時期ジビエの生食はダメだって記事が出回ってた気がする。
推奨する記事が出て、それに対して死ぬぞという意見が方々から出てきた奴。
私の所にも取材が来たし、こっちから取材にもいった。
結果的に普通の人が真似したら死ぬという結論だったけど、試しに生食してみてくださいって言われた時はさすがに笑ったわね。
美味しかったけど、その後の検査で「あなたの身体は普通じゃないから無駄な検査でしたね」って笑われたのは納得がいかなかったっけ。
怒りそのままに熊狩りの取材に同行して10頭くらい狩ったのもいい思い出だわ……猟銃を使わない素手での戦いだから法的にセーフなはずだけど、なぜか祥子さんに滅茶苦茶怒られたんだっけ。
熊と言えばモモは元気にしてるかなぁ……。
この前ドラゴンと戯れてたけど。
最近じゃ周囲の人達に受け入れられて害獣駆除のお手伝いしてくれるいい子って扱いになって、街中を自由に闊歩できるようになったのよね。
おかげで私とのコミュニケーションは不足する一方……こんな仕事速く終わらせて帰りたいなぁ。




