ステータスだよ刹那さん
化けオンを基にした異世界に下り立った私が最初に見たのは、ペナルティエリアと呼ばれた森の中だった。
まぁファンタジーらしくお約束って感じもするけれど……異世界エレベーターの座標ここになってるのよね。
間違って人が入り込んだりしないといいけど、認証キーが無いと動かないからいいか。
「確かこっちよね」
うろ覚えの記憶を引っ張り出して町があった方向に足を進める。
懐かしい、と言えばまぁ懐かしいんでしょう。
けどいうほど感慨深いものでもない。
なにせあの時は吸血鬼のデメリットでなかなか森から出られず、ドライアドの特性で滅茶苦茶ブーイングくらいながら日傘作ってたから。
だから正直に言うと懐かしさよりも先に鬱陶しさが来る。
が、そんなのはお構いなしに森の外に出ると見慣れた平原と、妙に立派なお城のある街が見えてきた。
……おかしいな、あんな感じの町じゃなかったと思うんだけど。
とりあえず街に入ろうと近づいて、そこに立っている門番に呼び止められた。
「まちな嬢ちゃん、あんた人間か?」
「えぇ、一応」
「そうか、悪い事は言わないからこの街には入らない方がいい」
そう言われて首をかしげる。
なぜ人間は入らない方がいいのだろうか。
「あんたこの国にいて今まで無事だったのが奇跡だと思いな。ここじゃ人間なんざ奴隷未満の消耗品扱いだ。あんたみたいなのはいいエサになっちまうだろうさ」
「えっと、つまり化け物が支配していて人間は家畜みたいな物ってこと?」
「化け物なんて言うな。純血主義者に聞かれたら面倒だぞ? イモータルって呼んでおけ」
「はぁ……」
「まぁ家畜ってのは言い得て妙だな。こき使って使い物にならなくなったら食われる。そういう国なのさ」
「ならあなたは? 見た目は人間っぽいけど」
私の質問に門番は袖をまくってみせた。
そこには鱗と動物らしき体毛が。
なるほど、キメラか。
「俺はイモータルの血をいくらかひいてる。だが純度が低いから差別されてきた。それでも純粋な人間よりはましな待遇だったがね」
「ほほう」
「閑職に回されて給料ピンハネされても生きていけるんだ。飯にも困らない、何が入っているかわからないって点を除けばな。安い店なら娼館だって行けるんだから現状は困っていないんだ。だからあんたみたいなのは……」
「いいカモってことね。それでどうするの? 捕まえる? それともさっきみたいな親切心だして……いえ、違うわね。泳がせて狩る?」
「はっ、ばれてたか。ボーナスになるかと思ったんだがなぁ」
この人は善意で声をかけてきたわけじゃない。
もちろん仕事というのもあるけれど、私を使って上の人達を遊ばせようと考えていたのだろう。
まぁ親切心が皆無だったわけじゃないでしょうけどね。
そうでなければ最初に人間かどうかなんて確認しないでしょう。
「それを知られちゃ逃がすわけにはいかなくなった。どうぞくそったれな王都へ、あんたの来訪を歓迎するよ、いろんな意味でな」
「それはどうも、後日ここが更地になったらあなたは大戦犯ね」
「でかい口をきく奴はよくいるが、半日と持たずに路地裏のごみになってるさ」
ヘラヘラと笑いながら見送られてしまった……。
うーん、セキュリティがガバガバ。
それだけ人間じゃないという事に自信があるのかな。
たしかに化けオン時代でも銀装備=弱点というわけじゃなかった。
けれど呼び方がイモータル、つまりは不死者っていうのが気になる。
そういう連中の弱点は銀だと相場が決まっているのに。
あと気になるのはこの街が発展している事。
時間の流れ的にはおかしくないかもしれないけど、そうなるだけの理由が無いと土地が発展することはない。
あんな大きなお城を立てられるだけの技術力があるというのは……うん、不思議だ。
「さて、と……とりあえず用立ててもらったお金で当座はしのげるけど……」
今回の目的は調査である。
なら一通り街を見て、そしてゲーム時代に重要だったポイントも見てこよう。
まず手始めに依頼書の張り出されていた掲示板だ!
……そう思っていたんだけどねぇ。
「また猿が我らの領地に踏み込んだか」
「今度は女か、楽しみ方が増えるな」
「どこから食おうか」
なんか高そうな服に身を包んだ人たちに囲まれてしまった。
1人は曲がった角を側頭部から生やしており、その人が親玉っぽい。
残りも門番と違って割と化け物らしい見た目している。
お偉いさんとのエンカウントかな?
「通してもらえるかしら」
「はっ、生意気な猿だ。所詮我らのおもちゃでしかない癖になぁ」
咄嗟に顔をそむける。
「どうした、臆したか?」
「いや、息が臭い」
「なに……?」
「口臭ケアしなさいよ、腹の底から腐ってるのかって臭いがするわ」
「この猿風情が……」
「その角も性根にそっくりでぐるんぐるんねじ曲がってるけど、はぎ取っても飾りにしかならなそうね」
「殺す」
純粋な殺気が向けられたが……そよ風かな?
怒りフルバーストモードの祥子さんに比べたら無風に等しいし、毎日宇宙から降り注ぐ殺意に比べたら生易しい。
なんなら地球の方がよっぽど魔境だ。
「猿風情に舐められたとあっては笑い草だ。貴様の首を掲げて街を練り歩くとしよう。やれ」
偉そうな人が命令すると同時に私を取り囲んでいた人達がピクリと動いた。
けどその一瞬で十分、彼らの心臓をつかみ取るくらいは朝飯前だ。
「どうしたお前ら、早くやってしまえ」
「死んでるわよ」
抱えた心臓を咀嚼しながら答えてあげる。
うーん、あまり美味しくない。
それに妙な石が心臓の中にあるみたいでゴリゴリと食感もよくない。
というか服が汚れたのが一番気になるわ。
「どういうことだ!」
「お、本性出たわね。さっきまでの静かなフリしたキャラよりもそういう感情的な方が好みよ」
「何をした!」
「なにって、心臓を掴んで引き抜いただけ」
残りの心臓を食べながら答える。
この石なにかしら本当に……。
「おのれ……よくも我が同胞を!」
「同胞云々は私の台詞じゃないかなぁ。同じ人間が酷い目にあっているって聞いたけど?」
「猿が群れたところで仲間意識など芽生えまい!」
「それはどうだか。ネズミだって話し合えば仲良くなれるかもしれないわよ?」
あ、でも千葉にあるランドのネズミは無理ね。
あれは大金つんでお話し合いができるかどうかだから。
仲良くなるために資産が必要という時点で私とは縁がない。
「死ねぇ!」
「あ、ごめんなんか聞き逃してた」
何か話していたらしいけど考え事してて聞こえてなかった。
無視されたことが原因か、怒りのままに槍で突き刺されそうになったけど指先でソフトタッチ、そっと受け止めた。
普通につかむと壊しちゃうのよねぇ、最近。
分裂して合体しての研究を手伝っていたらまた力加減できなくなっちゃって困ってたのよ。
その分頑丈になったけど、まだまだ中堅な私。
神様達には手が届かないわ……あの人たちはステータスの初期値も成長値も半端じゃないから。
あと縁ちゃんだけには何があっても勝てないし、辰兄さんは何しても殺せないのがね……。
みんな着々と成長しているから恐ろしいわ。
「で、なんだっけ」
「貴様! 本当に人間かと聞いた!」
「人間よ? まぁご先祖様に鬼がいたらしいけど」
「ふざけるな! 貴様のステータスはどうなっている!」
あ、そういえばステータスとかあったのか。
ゲーム系転移ノベルのテンプレだけどそういえば祥子さんがそんな事言ってたなぁ。
「どうやって見るのかしら」
「馬鹿にしているのか!」
「いや純粋な質問」
「魔力を込めてステータスと詠唱するだけだろうが!」
「御親切にどうも」
上から目線なだけで結構いい人かもしれない。
お礼は……現金でいいか。
「ステータス!」
全身の魔力を込めてステータス画面を呼び出す魔法を使ってみた。
その瞬間、目の前のお偉いさんの肉体が前後に割られたのだった。
いやお偉いさんだけでなく国そのものが真っ二つになった。
私が呼び出したステータス画面によって。
こう、ざっくりと国が切られた。
「……読みにくいわね」
ふと漏らした私の感想を聞く者はいなかった。
Q.世界崩壊因子持ってる世界も飲み込んで大丈夫?
A.大丈夫、毎分世界の危機に対処するナイ神父がいるから
Q.ボツ案とかそういうのまとめ?
A.大体あってる、もうちょい刹那さんが壊れてたらって内容
Q.分裂合体繰り返したらナイ神父に勝てる?
A.理論上は行けるが致命的すぎる弱点のせいでできない




