表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

530/618

魔境旅行は大変だ

 今、日本は未曾有の危機に瀕している。

 祥子さんもお手上げ、私達にできることもない、完全に詰みというやつだ。


「……旅行産業が死んだ」


「やっぱりですか」


 統合後、日本の外交パワーは青天井だった。

 端的に言うなら軍事力という観点と、私やゲリさんを使った外交によって。

 他にも化けオン運営という神になった人達やナイ神父なんかの神様が駐留していたことも起因して、日本という国は豊かになった。

 なったはいいんだけど、それは広い視点で見た場合。

 局所的に見るとやっぱり綻びはある。

 その代表が旅行産業だった。


「やっぱり日本だけレベル高すぎますかね」


「えぇそうね、雀感覚でドラゴンが飛んでいる国。鳩の代わりにグリフォンが飛んでいる。カラスの代わりにワイバーンがゴミ袋を漁っている。野良犬野良猫感覚でケルベロスが闊歩している。どれも他の国だと中級以上の人がチーム組んで相手にするレベルよ」


「らしいですね」


「それが! なんで日本は子供が玩具にするレベルなのよ!」


 とか言いつつも祥子さんも毎日お隣さんが飼っているケルベロスのポチと遊んでいるし、裏のウルタールちゃんという猫と戯れる事を心の安らぎにしているけどね。

 あとはクリスちゃんの連れてきた犬……という名目の不定形の何かと遊ぶことも多いし、地下で飼ってるモモともよくドッグランに行っている。

 まぁ原因はもともと化けオンが国内限定配信という事もあっていち早く統合が進んだ日本。

 それだけならばここまで大きな差は出なかっただろう。

 では何が問題かと言えば、ゲーム時代はマスクデータだったステータスである。


 運営に問い合わせたところ、その値は他のゲームのボスキャラから引用したという事でレベル1の化け物プレイヤーでもとんでもない数値になっていた。

 具体的に言うなら海外で主流だったゲームのエンドコンテンツでは4桁半ばのステータスが基本に対して、化けオンはレベル1でその段階にいたという事である。

 ゴブリンや、生身の人間ですらだ。


 もちろん全ての日本人が化けオンを遊んでいたわけでもなく、むしろかなりの少数精鋭だったのだがやはり因果。

 最初に統合されたという事で日本人全員が化けオン因子とでもいうべきものを体内に宿したのだ。

 どういうことかというとステータスの底上げがされた。

 現在日本最弱と呼ばれる人ですら北欧で一番強いと言われているチーム、というかギルドの入団試験を片手間にクリアできるといえばわかりやすいだろう。


 ただこれもからくりがあって、化けオン運営のおふざけと公安の真面目過ぎるお仕事が原因である。

 あと辰兄さん。


 以前エルフの国で果樹園を作ったが、その際に超成長する遺伝子を辰兄さんから見つけたという。

 その遺伝子を組み込んだ野菜や果物、果ては畜産物までもが普通に流通しており、その全てに【超成長】の因子が入っている。

 人口爆発による食糧難、またそこから来る暴動や各種トラブルの危険性を考えて早々に一般流通したのはいいが……治験では判明しなかったことがあったのだ。

 辰兄さんの【超成長因子】は経口摂取でも効力を発揮して、軽い運動でも旧オリンピック制覇できるようなパワーを手に入れる。

 その代わり寿命とかそういうのに問題があるかもという論文はあったんだけど、家畜も含めて丸ごと化け物になったからね。

 正直その辺はなんの問題もなかった。

 たしかに「旧人類ならその力に耐えられず老化という形で不調をきたしたかもしれない」という仮説はあったけど、現行の生物なら持ち前のパワーのおかげでデメリットは無い。

 いろんな方面から確認した事実だ。


 というかその論文自体がネガキャンだったと判明して、執筆者は国家内乱を企てた云々で既に逮捕されてる。

 他にも陰謀論者もいたんだけど、美味しいご飯を前にして我慢できるかと言われたらそうでもないのよね。

 あっさり手のひら返してこっち側に来た。

 中には日本を出る猛者もいたんだけど、その人はその人で海外で大活躍して結果的に日本の知名度を上げるのに貢献している。


 ナイ神父曰く、こうなった方が面白いよねとのことなのでなにかしでかしてたらしいけど、まぁ問題ないので放置していた。


 ただその結果、日本という魔境に旅行に来る人はいなくなったのである。


「……輸出関連は活発、国内から海外旅行にというのも活発、なんなら他国のSOSに応えるべく民間企業が乗り出すケースも多い」


「けど日本に来る人がいないから外貨が入ってこない。使い道もないから日本円の価値も下落、というか暴落。今は問題ないけどこのままだと貿易にも影響が出る。とことんピンチですね」


「そうなのよ! ピンチなのよ! なのになんで暢気にカップラーメン作ってるの!?」


「いや、お腹すいたので。しかしどうしたもんですかねぇ、ドラゴンもワイバーンもケルベロスも、全部リポップするので絶滅させる方法もないですし」


「なによりステータス差の問題も大きいわよ……」


「ですねぇ」


 比較するならナイフを持ったチンピラと、マシンガンを持った子供くらいの差がある現状。

 日本人というか、統合時日本に住んでた人が子供側なんだけどね。

 一矢報いることはできるけど、そのための犠牲が多すぎてねぇ……。

 しかも無邪気にマシンガンぶっぱするから被害も酷い。


 そう言ったトラブルも増えて今じゃ日本国籍持ちは海外に行くにはビザが必要になってしまったのだ。

 一部企業はその辺免除されている節もあるけど、行動には制限がつくらしい。

 なので裏をかいて私は日本国籍を捨てた。

 正しく言うならフィリアの名前でアメリカ国籍を取得、伊皿木刹那とは別人という扱いになる。

 非合法だけど裏取引の結果である。

 その代償として私は「アメリカ、ならびに同盟国で対処不可能な存在が発生した場合に対処にあたる」という取引をしたのだった。

 まぁ、祥子さんルートでの取引なんだけどね。

 ちなみに日本とアメリカで対処不可能な事案が発生した場合は私が分身……というか分裂して両方対処するので問題ない。

 なんなら100か国同時発生でもパワーダウンすることなく分裂できる。

 黒助君が教えてくれたんだけど、千切った腕を再生させつつ、腕の方も再生させると私が増えるのよ!


 画期的な発見だと思ったけど……分裂した私が食べた物の味とかはわからないし、融合するたびにパワーアップしちゃうから持て余してるのよね、この能力。

 だから普段は式神か辰兄さんを置いている。


「旅行客がフル装備で来られたらいいんだけどねぇ……」


「逆に逃げる時邪魔になりません?」


「……確かに。あーもう! せっちゃん結界とかそういうのでどうにかならないの!?」


「え、結界でいいんですか? それならなんとでもなりますよ?」


「え?」


「え?」


 結界くらいなら私でもどうにかできる。

 街中にいるようなのだったら片手間の結界でも十分だし、それなりに頑張った物なら一般人の暴力行為相手でもなんともならない。

 本気なら……まぁ並大抵の相手ならなんとでもなるでしょ。

 軍隊とか警察相手には厳しいかな、数の暴力で押し切られる可能性の方が高い。

 でもちょうどいいかなとも思うけどね。


「あ、でも永久姉の方がそういうの上手いですよ。あと縁ちゃんなら私でも一苦労な結界作れますし、羽磨君や刀君ならちょうどいい塩梅のができるかな」


「一会さんや辰男さんは?」


「あの二人はその辺不向きなんで」


「……伊皿木家の厄介になるのはどうかと思うけど頼めるかしら」


「じゃあ一般旅行客は私が分裂して対処しますか。税関でやればいいですよね、ハイジャックとか密入国防止のために」


「そうね……そうしましょう」


「で、VIPの来日の際は永久姉か縁ちゃんが対処する感じで。私達が動けない時は羽磨君か刀君を」


「えぇ、明日にでも公表して試してもらいましょう」


 こうして急遽決まった結界だが、アメリカ大統領で実践して問題ないと認識された。

 逃げようとしたのを捕まえたけど、顔真っ青だったわね。

 風邪でもひいてたのかしら……。

 まぁ問題なかったので順調に旅行客は増えた。


 ついでにレベリングしたいという申し出があったので刀君主導でやることになったけど、1回目以降どの国もお願いしてこなくなった。

 ドラゴンの巣に放り込まれたとか何とかで心が折れたらしい。


 あとゲリさんの国でも同じ方針で旅行客を増やすことになったらしく、そっちも私が協力した。

 エルフの国はまだ立ち入り制限が厳しいけど、そっちにも私の分裂体を置くことで徐々に対処できるようにしていく方針で話が進んでいる。

 コロニーはさすがに知らないけど、そっちも融和政策を進めていくらしい。


「……というか、もっと早く結界の話教えてほしかったんだけど」


「いや、あれ結構面倒なんで」


「でも手間はかからないでしょ?」


「まぁ、1000人くらいなら1分で終わりますね」


「……今夜は覚悟しなさいよ?」


「ヒエッ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アッー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ