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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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瑕疵物件被害者の会

 準備を整えていざ広間へ、そう思い突撃した私たちの眼前に広がっていたのは無人のフロア。

 ……おかしいわね、落ちた高さ的にここがエントランスだと思ったのだけど。


「誰もいない……」


「っすねぇ」


「ここ、最初の広間よね」


「見覚えがあるんで多分そうかと、ほらあっちに入口あるし」


「じゃあなんで無人……?」


 ゲーム的に言うならフラグの関連かしら。

 私達が逃げ出したからここから避難したとか、外で待ち構えているとか。


「んー、外にも誰もいないか」


 とか考えてたらゲリさんが無防備に外に出て様子を見てた……。

 中にいない、外にいない、下から来た私達……という事は。


「上かしら」


「まぁ順当に考えれば」


「どうする? 今のうちに逃げちゃう?」


「それでもいいと思うけど……戻ってきたときに警備が強化されてたりしたらと考えると今のうちに対処したいと思う俺がいるんだけど」


「そこは同感」


 内部に侵入できるタイミングって結構限られていると思うの。

 だからここで一気に攻め込みたいところなんだけど……。


「もういい時間なのよね」


「リアルだと午後11時くらいかなぁ……そろそろ寝支度しないと明日に響くよねぇ」


「どうする? 地下からやり直しも考慮してここでログアウトするのもありだと思うけれど」


「あー……あれ?」


 ゲリさんがふと漏らした声には疑問符が浮かんでいた。

 奇妙なものを見たというか、信じられないものを見たというような様子。


「どしたのゲリさん」


「いや、リスポン地点が地下一階になってて……俺達がいたのって地下二階っすよね」


 その言葉にメニューを開いてリスポン地点を確認すると確かに地下一階になっていた。

 これは……あの聖属性や銀床エリアを釜で移動しなくてもいいという事?

 それは大助かりだけど……。


「うーん、考えても仕方ないし今日はお開きにする?」


「そうね、ゲリさん次のログイン予定はいつ?」


「明日からデスマーチだから……七日後くらいかな」


「あ、それなら私もそのくらいにログインするわ。時間は今日と同じくらいでいい?」


 引っ越し作業をちょっと前倒しするか、VOTの搬送を遅らせるようにすれば7日後のログインは問題ないはず。

 あるとしたら部屋の引継ぎくらいだけど。


「俺としては助かるけどフィリアさんはいいの?」


「えぇ、こっちもちょっと立て込みそうだからちょうどいいわ」


「じゃあ七日後の夜に」


「はーい、じゃあね」


 そんな挨拶を交わしてログアウトした翌日。

 祥子さんに連絡を取って引っ越しや部屋の引継ぎの件を話してすぐにこちらに人をよこした。


「この子はうちの新人でね、斎藤九十九っていうの。仲良くしてあげてね」


 紹介された相手は女の子、小さくて可愛らしいという表現がぴったりな感じだったけれど逆に社会人らしさとか世間の荒波にもまれたとかそういう雰囲気はなさそう。

 いわゆるお嬢様といった感じの子だった。


「斎藤です、よろしくお願いします」


「刹那です、苗字を使う機会が少ないんでそのまま名前で呼んでください」


「はい、では失礼します」


 中に入るようにジェスチャーで促すと二人は部屋の中へ、あがろうとした。

 けれどその瞬間だった。

 バチンッという大きな音と共に斎藤さんの鞄に括りつけられていたお守りが吹き飛ぶようにして外に飛んで行った。


「……えぇ?」


 斎藤さんが困惑したように声を漏らすがゲリさんの物とは違って疑問符よりも恐怖の色が見える。

 いやぁ、この感じ久しぶりね。

 私が入居した時も似たような感じだったわ。


「お気になさらず、どうぞ中へ」


 斎藤さんがお守りを拾い上げるのを見届けてから再び中へ誘う。


「あの……お守りがすごく熱持ってるんですけど」


 カイロでも持っているかのような動作でお守りを手渡そうとしてくる斎藤さん。

 いいの? 手放しちゃって。


「うわ、本当に熱い」


 横から祥子さんがつついているのを見て私も触れてみるけれど持ち続けたら火傷しそうな温度になっていた。

 あらまぁ。


「ま、よくあることです」


「よくあるんですか⁉」


 実際よくある、そういうものだと慣れてもらうしかないけれどね。


「ちなみにぬいぐるみとか人形は持ってないですよね」


「主任からは持ってこいと言われたんですが……」


「祥子さん?」


 じとりと、祥子さんをにらみつけると両手を上げてにやにやといやらしい笑みを浮かべた。


「この部屋、瑕疵物件だという話は聞いていますか?」


「はい、だから私が呼ばれたというべきなんでしょうか……」


「だから、とは?」


「私の実家、神社なんです。国家事業の裏では結構神職とかの、まぁ言ってしまえば神様にお祈りするような立場の人間が結構かかわっているんです。私もそういう部署にいたんですが……」


「祥子さんに引き抜かれたと?」


「はい……でもこれは私の手に余ると思うんですけど……」


 早くも泣きそうな斎藤さん、それを見て祥子さんは少し険しい顔をしている。

 この人がこういう表情する時ってろくなことないんだよなぁ……。

 とか考えていたら突然お守りが炎上した。

 斎藤さんが何かに驚いてお守りを放り投げるのと同時に発火、床に落ちる前に灰となってしまった。


「ごめんなさい! 私には無理です!」


 そう言って逃げていった斎藤さんを誰が責められようか……祥子さんなら普通に責めそうね。

 そんなこんなで1日目の引っ越し作業は私と祥子さんで荷物をまとめるだけに終わった。

 翌日、今度はお坊さんと別の女性を連れてきた祥子さん。

 挨拶もそこそこに部屋に招き入れると同時にパーンッという乾いた音。


「拙僧の数珠が……申し訳ありませんがこの部屋は拙僧では無理です」


 お坊さんの数珠がはじけ飛んでいた。

 紐が切れたわけではなく、数珠の珠だけが破裂して紐だけ残っていたのだ。

 そのせいでお坊さんの腕は無数の切り傷が……痛そうね。

 ちなみに同伴していた女性はその光景を見て気絶した。

 祥子さんの顔がますます険しくなりながらも、その日も二人で荷物をまとめる。

 なにげに祥子さん、この部屋に普通に出入りできるし異常起きていないわね。

 この人本当に一般人なのかしら?


 さらに翌日、伝手で知り合った拝み屋さん……端的に言うならお祓いとかを神社やお寺に所属せずに引き受ける人のことなんだけれど凄腕だと言って連れてこようとした人は玄関にたどり着く前に逃げ出したらしい。

 連れてきた女性は……玄関のドア開けた瞬間に顔を青くして口を押えて走っていき、嘔吐していた。

 追いかけて話を聞いてみたところ「死ぬかと思うほどの、あるいは人が何人も腐っているんじゃないかというほどの腐臭がした」とのこと。

 仕方なく女性をタクシーで帰らせて、やはり女二人で荷物をまとめる。


 四日目、霊感があるからダメなんだと逆の発想で連れてきた女性。

 本人も「そういうの鈍いんで」と笑っていたけれど、部屋に招き入れてお茶を出したらテーブルがひっくり返り、新しくお湯を沸かそうとしたら水道から髪の毛が出続け、5階のこの部屋の窓を誰かが叩き、最後には床からの衝撃音と共に本人がひっくり返されたことでギブアップとなった。

 最期は泣きながら逃げていったわ……お子さんが社会人になったと笑顔で話していた感じのいいおば様だったのに……。

 髪の毛が出るくらい最初の頃はよくあったんだけど、久しぶりに見ると気持ち悪いわね。

 私が引っ越してきたときは……あぁ、髪の毛が出なくなるまで水を出しっぱなしにして忘れてたらシンクに髪の毛が山盛りになったんだったわ。

 あの時は水道代の方が怖かったわ。

 ついでにその髪の毛を燃えるゴミに出したら警察呼ばれた、国家権力の恐ろしさを垣間見たわね。


 という事で五日目。

 もはや職場で噂になっているとかで寄り付こうとする人がいないから男でもいいかというので承諾した。

 お坊さんとか拝み屋さんは部屋に人が入れるようにするための人員だったらしい。

 結論から言うとその人は全治一か月の怪我で入院することになって断念。


 六日目、なんかもう開き直った祥子さん本人がここの管理人をするという事になり引っ越し作業も大詰め。

 業者にお願いして荷物を運んでもらい、私は新居に来たのだった。

 新築で土地にいわくがあるとかそういうのも一切ない、いたって平凡な一軒家!

 いろいろあってマンションとかアパートよりもこちらの方がいいという結論になったらしく、新たに予算を申請した結果通ったとのことだった。

 ちなみにだが、七日目の朝祥子さんから「ラップ音がうるさいし、ポルターガイストが酷いしで寝不足」というクレームが届いたけど知らない。

 そのうちおさまると言ったら文句を言いながらも今後の方針について話してくれた。


 新居に用意されていた最新のVOTにデータを移して、夜にはログインできるようにしつつその話を聞くとやはり今まで通りにゲームをしてレポートを書いてくれという話だった。

 この家に関しては祥子さん名義となっているが実際は国営地であり、トラブルがあれば専門家が対処するとのこと。

 ものすごい短期間で建てた家だけど、最新技術を用いているとか何とかで不備はないらしい。

 その辺の実験も兼ねているから事故が起こったらごめんねと最後に言われたので、元の住所に子供用の着せ替え人形を送り付けておいた。

 まぁあまり大ごとにはならないでしょう、せいぜい夜中に踊りだすとかその程度だわ。

 祥子さんの精神のずぶとさは私以上だからね。

 この後化けオンの運営に挨拶して、夜はゲリさんと一緒に塔の探索をスタートね。

6日目夜

酒を飲んだ祥子さんに襲い掛かる数々の心霊現象、を無視して5合の酒を飲み干しながらFPSをプレイする祥子さん、にこれでもかと襲い掛かる心霊現象、をさらに無視していびきをかいて眠る祥子さん。

風呂場で見つけた血痕は洗い流し、水道から出てくる髪の毛はザルでキャッチして水をそのまま使う度胸、冷蔵庫に詰まってた謎の生物を引っ張り出して地面にたたきつけ、壁から出てきた手に煙草で根性焼きをかますパワープレイ。

という攻防があったりなかったり。


次回は運営と激突です。

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― 新着の感想 ―
新居に着いてくるタイプじゃなくて良かったといえばいいのか悪いといえばいいのか
[一言] ただの近未来じゃなくて超常現象あるタイプの世界なのかぁ…って軽く読み進めてたら、思ってる以上にハードめな心霊現象起きるの草。いや草生やしたら根っこ抜けて踊り出しそう。 化けオンのサーバーも…
[一言] 想像以上にガチのヤバめ物件だった……ここに住んでるのこの人だけじゃ……他の住民は全て怪奇現象、お隣さんは幽霊、そのとなりも幽霊……etosetora
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