配信だよ、全員集合!
「はーい、今日はバーチャルの姿じゃなくて実写だよー」
通信関係完全回復をお祝いしてナイ神父の事務所ライバー全面解禁となった今日、せっかくだからアウトゾーンを責めてみました配信です。
調べたところバーチャルのアバターを持っている状態で自身の姿をさらすのはよくないという風潮があったらしい。
中にはリアルの姿とバーチャルの姿を同時に使い分ける人とかもいたらしいけどね。
というわけで、私はあえてリアルの姿をさらしたのである、全世界配信で、なんなら異世界にも。
『きたまってない」
『リアルの姿とか今更』
『国会見てたぞ?』
『有名人らしいから見に来た』
『お、そうか初見もいるんか』
『心を強く持つんだぞ……』
「今日はお料理配信です。統合前って言えばわかるかな、世界がこんな風になる前に地下に監禁してた暗殺者さん達と一緒にご飯作っていくよー」
『待って情報量が多い』
『今こいつ監禁って言ったぞ』
『暗殺者……はまぁ送り込まれてもしゃーなし』
『世界をしっちゃかめっちゃかにした女』
『総理大臣を性的に食った暴食』
『それは色欲では?』
「はいはい細かい事はどうでもいいの」
『世界とか総理大臣を細かい扱いしたぞこいつ』
『やっぱり殺した方がよくないか?』
『やれるなら、やってみせろよ、無能神』
んー、なんかいつにもましてコメント欄が荒れてる気がする。
まぁいいか、どうやっても荒れるんだし。
「とりあえず最近はやりのパスタでも作ろうか。マリッサさん、お肉をフードプロセッサーでミンチにして」
「ん……でかくないか?」
「みんなで食べるならこんなもんでしょ」
今日のために業務用の買ったんだからね、ナイ神父のお金で。
経費で落ちるか聞いておいてよかったわ、ちゃんと落ちるって言ってたからね、数百万円だけど問題なし!
「次にそっちの暗殺者さん達が地下で育てたトマト、ヘタを取ったものを用意してあります」
ばばーんと用意された木桶。
その中にいっぱいに詰まっている真っ赤なトマト。
試しに一個食べてみたけどおいしかったわ……フルーツ顔負けの甘味だった。
ただ主張が強すぎるからお肉もそれに負けない物を用意しないといけなかったのよね。
だからゲリさんの尻尾千切ってきた。
あのお肉ならトマト相手でもパンチのきいた味が出るはずだから。
「では、皆さんどうぞ!」
「「「うっす」」」
暗殺者さん達に合図を出すと手のひらでトマトを叩き潰し始めた。
うん、ミートソースにするからしっかり潰してねってお願いしたのよ。
実がしっかりしているから少し手間かなと思ったけど大丈夫そう。
「あとはパスタを茹でて」
寸胴鍋で市販のパスタを茹でまくる。
控えめに30㎏くらいかな。
『え……?』
『これ何人前?』
『うまそうな果物だけど……え?』
『初見さんや、これこの人一人相手でも足りないからな』
『果物つーか野菜な、酸味と甘みのある奴、こっち来たら食ってみな』
「あー、そうだね。その辺説明しないとか」
初見さんは私のこと知らない人もいるだろうし、トマトを見るのも初めてって人もいると思うからね。
「改めてイート・野球・フィリアこと伊皿木刹那です。今日はミートソースパスタを作っていくつもりです。トマトって言うこの野菜と、お肉をミンチにしてから炒めたソースの料理。パスタっていうのは……平たく言うと小麦粉の麵」
コメント欄であれあこれやと盛り上がっている。
麺じゃねえという声もあれば、麵でいいんじゃないかなという声もある。
他にも日本やこっち側の世界への旅行に関する注意事項なども並んでいる。
ふむふむ、みんな勤勉ね。
「で、今回はミートソースなんだけどトマトがすっごい美味しいのよ。けど並大抵のお肉だと味が負けちゃうからとっておきのを持ってきたの」
『嫌な予感しかしない』
『そっちの世界でよく聞く食べるために育てた動物?』
『あー、まだ家畜の概念が農作業で使う動物で止まってるところもあるのか』
『たぶんそんな程度じゃないはず、というかこの人にとってはA5和牛すら並で済ませそう』
「とっておき、その名もドラゴンの尻尾です!」
『ほらやっぱりぃ……』
『え……ドラゴンって国家間が戦争辞めて対処にあたるレベルの怪物じゃ……』
『地球基準だと初心者脱出レベルの相手』
『日本基準だと初心者御用達レベリング生物』
『某国基準では王様やってる元人間』
「その某国の王様ことローゲリウスさん、通称ゲリさんの尻尾だよ。引きちぎってきた」
『やめてさしあげろ』
『不敬!』
『基準がわからん!』
『いやでも美味そうな肉だな……』
『ドラゴンの肉とか王族が3世代に1度食えるかどうかなんですが……』
「えー、美味しいのになぁ。今度送ってあげようか、ゲリさんの肉」
『その呼び名で食欲失せる』
『他国の王様の肉を切り売りする女』
『諦めろ、元からぶっ飛んでる』
酷い言われようである。
が、どうやらトマトはしっかり潰れたらしい。
尻尾もミンチになったし、これを中華鍋で炒めながら味付けをしていく。
固形コンソメは偉大な発明よね……。
そして鍋を動かしながらパスタを投入、一緒に茹で汁も入るようにしてね。
「はい、完成! トマトソースパスタ、今回はそうね……暗殺者のパスタの完成よ!」
特にひねりの無い名前だけどこのくらい簡単な方がいいでしょ。
異世界の人も、地球に統合された世界の人も見ているんだから。
『アサシンズパスタか……水と火が必要な時点で暗殺者向きじゃないな』
『いや、たぶんそういうこと考えてないぞこの人』
『そうか! トマトとやらの果汁とひき肉を対象に見立てたのか!』
『なんだこの全肯定マシーン』
『だがまだ足りないな、骨をどう表現するつもりだ?』
「はい、みんなこれ。フォークとタバスコと粉チーズ」
『骨をチーズに見立てたのか!』
『なんだこいつ頭おかしいぞ』
『奇特な奴もいるんだな……』
『変態はひかれあう』
『まぁそれはさておき普通に美味そうだな』
「では、いただきまーす!」
くるくると巻いたパスタをぱくりッ!
酸味の奥からお肉の味がジュワッときて、更にはトマトと脂の甘味が混ざりパスタがそれをまとめる。
つまりとても美味しい!
「はぁ……さいっこう!」
暗殺者さん達も美味しそうにパクパクと食べている。
マリッサさんは既におかわりの姿勢だ。
やっぱり30㎏じゃ足りないわよね……。
「うん、とってもおいしいけど量が少ないわね。もういっちょゲリさんの尻尾千切ってこようかしら……エリクサーならいくらかあったから10回くらいなら平気でしょ」
『やめてやれマジで』
『あのー、ローゲリウス王ですが先ほど予定ができたと旅立ちました』
『危機察知能力たけえなあのとかげ』
『エリクサーって……うちの国宝なんだが』
『そんなもん気にしはじめたら終わらんからあきらめろ』
コメント欄もがやがやと楽しそうである。
うん、今日の配信は大成功ね!
この後日本への旅行客が滅茶苦茶増え、異世界人や統合された世界の人達にとって日本料理は「ミートソースパスタ」という共通認識が生まれた。
あと一部界隈の暗殺者達は仕事前のゲン担ぎとしてミートソースパスタを食べるようになった。




