出産だよ刹那さん
「はいせっちゃん、ひっひっふー」
「ひぃっ、ひぃっ、ぎゃあああああああああ!」
私、伊皿木刹那は現在出産の真っただ中である。
先月祥子さんが子供を産んで、刹子と名付けたのだがその時以上に難産となってしまった私。
既に36時間が過ぎようとしていた。
祥子さんとの初めてのときも相当痛かったが、これはその比じゃない。
様々な痛みが入り混じり、私を殺そうとしているのかと思うほどである。
おぉ神よ、なぜ女に生理痛を与えた!
そんでもって出産がこんなにつらいのはなんでだ!
もっと楽でもよかっただろ!
とりあえず後で代表してナイ神父ぶん殴る!
「せっちゃん、手が出てきたわよ!」
「ど、どこからっ、ですか!」
「お腹突き破って出てきた!」
言われて視線を落とすと確かにお腹から小さな手が生えている。
……あ、なんか普通の出産と違うわこれ。
帝王切開とか外から開くのは聞くけど、内側から突き破ってくるのはフレイヤさんが大好きな糞映画くらいでしょ。
そう考えると痛みが引いて落ち着いてきた。
上半身を起こして、ぐーぱーと握ったり開いたりするその手に指を差し出してみる。
すると何かを見つけたように、私の指を掴み凄まじい力で握りつぶそうとしてきた。
いや、まぁなかなかのパワーだけどね?
せいぜい10t程度の握力じゃ私の骨はつぶせないわよ。
毎日たっぷりカルシウムとってるからね!
「よっこいせ」
ずるずるとそのまま釣り上げた我が子、内臓から肉からと大量の血が溢れて助産室のベッドを溶かしていく。
「おぎゃあ」
「いや、わざとらしいぞ我が子よ」
「ちっ」
「産まれた直後に舌打ちとか器用だな。ほれなんか喋ってみなさいな」
産んだ……というか釣り上げた我が子のほっぺをつつきながら冗談をかまして見せる。
いわゆる産声というのはあげてないに等しいけど普通に呼吸はしているし、問題はなさそう。
背中に生えてる黒い翼が気になる所だけれど、まぁ大したことないわね!
私の体液でぐっしょりなのもあって文字通り「烏の濡れ羽色」といったところ。
そんな事を考えていたらギンッと目を見開いて宙に浮かび上がった。
翼も動かしていないのになかなか器用ね……。
「名付けよ、母よ」
「あー、この子もいきなり喋るんだ……」
祥子さんが遠い目をしている。
刹子ちゃん、祥子さんが普通に産んだ女の子も生れてすぐに喋ったのよね。
内容が内容だけに頭冷やせと麦茶ぶっかけたけど。
「名付けよ、母よ」
「頼み方というのがあるんじゃないかしら? 我が子よ」
「名付けよ」
見開いた眼、そこから発せられる威圧感が凄まじい。
が、まだまだ未熟。
「お願いしますは?」
「……」
「へい、かもん、ぷりーず」
「…………」
長い沈黙の後我が子が祥子さんを見る。
困ったような視線であり、そこに敵愾心などは見られない。
何かするようなら遠慮なく、最低限の手加減して殴るつもりだったけど……。
「立場的に私お父さんだからかな……ごめんね? そんなに強く出られないの、今回は」
そう言って祥子さんが視線をそらした。
うん、あの、同性婚にあたって身ごもった方が母親というのが暗黙の了解みたいになってるのよ。
形式的なもので書類とかそういうのいっさいなく、ただ名義的にどっちが産んだかという扱いで。
つまり私はこの子のお母さんで、そして祥子さんが産んだ刹子ちゃんのお父さんという名義になっている。
そして世の常か、父親は母親に強く出られないのだ。
「おねがい、します」
「よくできました。そうねぇ、なにがいいかしら……えーと、TRPGのルールブックとさいころはどこにあるかな」
「せっちゃん、流石にそれはダメ」
「冗談ですよ。んー、なにか好みの名前とか、逆にこういうのは嫌っていうのある?」
「……綱の名は好まん」
「綱? まぁいいけど……」
「それと源というのも好まん」
「源ねぇ……じゃあ頼光で。というか性別……あぁ、両方あるのか、じゃあいいや」
男の子のアレと、女の子のアレ、両方あったので命名的には問題ないだろう。
本人がすっごい不服そうな顔しているのはさておき、先に嫌だと言わなかったのが悪い。
「で、茨木? 酒吞? それとも他のなにか?」
「気付いててその名をつけるとは、趣味が悪いぞ」
「そりゃいきなりお腹食い破られたらね」
「両方が混ざり合っている、とだけ言っておこう」
「へぇ、三日月委員長みたいなものか……まぁいいわ、とりあえず今は眠りなさいな。その時が来れば起こしてあげるから」
「うむ、ではこの肉体を頼むぞ母よ」
「頼まれたわ、頼光くんちゃん?」
「……父よ、この母頭おかしいぞ」
「いつもの事だから、見守ってあげましょうね」
なんかサラッと酷い事言われたけどいいや、もう限界だ。
「祥子さん」
「ん? どしたのせっちゃん」
「さすがに体力が限界なので寝ます」
「え? ちょっ、いきなりすぎるでしょ! ねぇ!」
そんな叫び声を聞きながら私の意識はフェードアウトした。
しばらくしてから、改めて頼光くんちゃんと対面したけれどぎろりと睨んできたので微笑み返してあげたらそっぽ向かれたわ。
……家族が2人増えた、これからが大変な予感もするけれど総理大臣のお仕事が忙しい祥子さんの分も私が頑張らないと!
本当は祥子さんの方を書こうと思ったんだが、なんかやばそうという予感からこっちになりました。
刹那さんだったら遠慮なくグロ展開持っていけるからね。
そしてアース・スターノベル様から審査員賞いただきました!
や っ た ぜ
順次経過報告とかしていくと思いますが、原稿に追われる夢の生活により更新が一時ストップするかもしれません。
その時は前もって言うから許して……。
あと今日は同刻にpixivファンボックスで刹那さんの初夜を公開します。
祥子さんをもってして「あれ普通の男なら萎えてるわ」と言わしめた初体験や如何に……私も書いてて萎えた。




