ウェディングトラブル
リンゴーンという鐘の音が響き渡るチャペル。
私と祥子さんだけがレッドカーペットの上を歩き、その周囲を身内と、そしてやばい面々が立ち並ぶ光景は異常としか言いようがない。
しかしこの光景、この記憶を一生忘れる事はないだろう。
なぜなら、これは私達の結婚式なのだから。
「幸せにしますね」
「だったらまずこういう無茶を辞めてね?」
ずらりと並んだ面々、邪だったりしたりしなかったりする神様達である。
うずめさんを中心とした一部グループはチャペル内であり、まだ披露宴でもないのにお酒を飲んでいるという暴挙だが……まぁいいか。
そう思いながらお互いにヴェールをとりあい、そっとキスをした。
……死ぬほど緊張してたけどいざ本番となると祥子さんの方が足震えてるのよね。
お揃いのウェディングドレスで見えないのがせめてもの救いというべきかしら。
「ここに、新たな夫婦の婚姻を神の名のもと……えっと、認めます!」
半ばやけくそになった神父さんがそう叫んだ。
いや、本物の神様の前でそれ言うのはきついわよね、正真正銘マジもんの神様だから。
うん、一部邪神だけど。
この結婚式に至るまで、長いようで短い出来事があったのだ。
あれはとある日の事。
「うぁあ……もう総理大臣なんて嫌だぁ……」
お酒を浴びるほど飲んで、ぐったりとテーブルに倒れ込んでしまった祥子さん。
日々の激務についに泣きが入ったのである。
「お酒はほどほどにしないと明日に響きますよ?」
「だってぇ……おしごともうやだぁ、隠居して縁側でお茶啜りながら生きていきたいぃ……」
あー、ダメだこりゃ。
しっかりお疲れモードに入ってしまっている。
年に数回、激務に揉まれた祥子さんはこうなってしまうのだ。
具体的に言うならお酒を無茶苦茶飲んで、煙草の空き箱を積み上げ部屋が真っ白になるほど煙を吸い込んで、ぐったりしてからいつもの調子を取り戻す。
健康に悪いけど今は天使となってしまった祥子さん、検査の結果内臓機能やら新陳代謝やらがとんでもないことになっていて大体の物質は毒性を発揮せず、ほとんどすべての物体が致死性ではなくなるそうだ。
そんなこんなから私の手料理も解禁されて、更には私の血液を飲んでも平気な数少ない人になったというわけである。
今では毎朝エナドリ代わりに私の生血を飲んで出勤するほどで、どっちが吸血鬼かわからない。
が、今回は重傷だ。
既に部屋は濃霧に包まれたように真っ白で、酒瓶も何ダース転がっているかわからない。
やはり総理大臣というのは激務なんだろう。
「ねー、せっちゃん。手っ取り早くおやすみとる方法ない?」
「んー、普通なら忌引きとかですかね。でも祥子さんって……」
「……うん、まぁ、ね」
この手の話になると口が重くなる祥子さん。
以前聞いた話ではちょっとした事故から両親と不仲でほぼ絶縁状態、親戚筋からも絶縁状態だという。
簡単に言うならお金の話が原因らしいけど、どうも祥子さんは弟がいたらしくてね。
弟さんには滅茶苦茶お金をかけた両親だけど、祥子さんにはかなり厳しく接していたらしい。
最終的に祥子さんは苦学生としてバイトと学業を両立していたけれど、そのバイトで得たお金を奪われ学校を辞めるかどうかの瀬戸際に立ったらしい。
その際に今の後見人となっている人が将来公安に入ることを条件に援助をしてくれたらしいけどね。
それが三日月委員長、もといテンショーさんこと天照様の親族であるツクヨミ様だったそうだ。
「あの親とか死んでくれて構わないんだけど、昨日も元気にお金の催促の電話かけてきたから……」
「ばれますね、即行で」
「そうなのよぉ!」
ガンッとテーブルに頭を叩きつける祥子さん。
完全に参ってるわね。
「じゃあ結婚式とか」
「そういう予定のある知り合いはいないわ……」
「じゃあいっそ私達で結婚します? 同性婚認められるようになったし」
「それいいわね!」
「そうしたら結婚式当日と、準備日程で総理不在でも問題ない日程、あとハネムーンで1日くらいは休めますよね!」
「よーし、そうと決まったら今すぐ役所に手続きに行って、式場の予約よ!」
「おー!」
と、まぁこんな感じで二人そろって深酒&ドワーフでもショットグラスでぶっ倒れるといわれるとんでもないお酒をカパカパあけた勢いで入籍してしまったのである。
そこからはとんとん拍子に話が進み、国会では私に対するお目付け役が正式にできたという事で大歓迎され、世間からは同性婚という事で歓迎も批判も含めて様々な声が上がったが概ね好評だった。
そして引くに引けなくなって、周囲の理解からおやすみを取得しやすくなった祥子さんと私はこうして結婚式を挙げたのである。
「あの、もし離婚したくなったらちゃんとお話し合いしましょうね?」
「え? 離婚って分かれるつもりだったの? 私とは遊びだったのね」
「そ、そんな事はないです! ほら、同性で子供作れる技術が確立されたとはいえ世間の声とか、祥子さんの気持ちとか、いろいろあるじゃないですかほら!」
「私の気持ちねぇ」
「そうですよ! あの時はお酒の勢いで動いちゃってましたし!」
「ねぇせっちゃん?」
「は、はい!」
「お酒の勢いで婚姻届出すほど、私はお安い女じゃないわよ?」
「え?」
「これからよろしくね、旦那様?」
「は、はひ……」
ほっぺにキスされた。
こういうなんでもない行為が一番くるのだ。
……なんて言えばいいのだろう、心臓が持たないというよりも理性が持たない。
今すぐに押し倒して合体したくなるのだ。
「あ、明日のハネムーンだけど都内の温泉旅館貸し切りだったわよね」
「そ、そうです」
「じゃ、披露宴まで休憩がてら調べさせてもらうわ」
しかし……祥子さん、耳真っ赤だなぁ。
心音もいつもよりすっごい早かったし、声も緊張してる時特有の音程だった。
あの人なりにドキドキしていたんだろうなぁ。
……やばっ、私祥子さんに好かれてるって意識したらこっちまで恥ずかしくなってきた。
「刹姉? 祥姉? ブーケトスするならみんな待ってるよ」
「はーい、今行くわ一会ちゃん」
……一会ちゃん、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?
お姉ちゃん、嫉妬しちゃうぞ?
「ほら、せっちゃん行くわよ」
「はい、祥子さん」
こうして、私達は無事結婚式を挙げることができたのだった。
なお、ハネムーンにて色々トラブルが起こったし、なんなら初夜も大変だったし、3か月後に祥子さんの懐妊、その1月後に私の懐妊、しばらくしてからの出産とトラブル続きになるとは知る由もなかったのよね。
pixivファンボックス解説しました。
そこで二人の初夜を記載、この後18時から公開される予定です。
ノクターンの方でその一部を公開、えちちすぎてなろうじゃ無理だ!
刹那さんが攻めです、吹っ切れた童貞は怖い
祥子さんはうぶなので……はい
注釈:同性で子供を作るための技術
女性同士の場合は割とシンプル、血液サンプルなどから精子を人工的に生成し、性器にとりつけるアタッチメントからバイタルなどの興奮度合いを察知して相手の体内に射出する。
男性同士の場合子宮がないので同様の方法で作り出した卵子を用いてカプセル内で受精、成長を見守るというのが中心だが、昨今では小型化したカプセルをお腹に抱える男性も増えた。
刹那さんの体液
一般的には猛毒だが、祥子さんは刹那さんと相性がいいので取り込んでも問題なし
一般人の場合キスで即死するので注意




