どんな時でもこういうのは現れる
同時刻に冬コミにて合同誌に乗せる作品のプロローグを公開します。
よければ読んでねー、あとコミケ会場来る人は手に取ってみてくださいねー。
今の私は空腹である。
だがちょっとしたトラブルによりご飯が食べられない、つまりとても機嫌が悪いのだ。
そのトラブルというのが……これである。
「人々の変貌は神の試練である! 故に異形になった者共は神の裁きを受けたのだ! 純粋な人間であり続けた我らこそ真なる者! 異形を殲滅せよ!」
「殲滅せよ!」
「殲滅せよ!」
まぁ、いろんな事情からネットとかに触れてこなかった人達。
このご時世に、と思うかもしれないけれど意外と少なくない。
例えばVR非適合性症候群と呼ばれるもの。
端的に言うなら体質的にVRが合わないというもので、軽度なら3D空間として生成されているものの2Dにしか見えない、つまり距離感がはかれないというようなの。
重度になってくるとVRマシンを使用するだけで吐き気やめまいといった症状が発生して即座にバイタルエラーではじき出される。
文字通りVRマシンに適合できなかった人という意味で使われていた言葉だったんだけど、これがまぁ一部からは差別用語だなんだという突き上げをくらってきた。
じゃあ他にどんな言い回しがあるのかと言われても困るので、10年くらいずっとこの名前が使われているんだけどね。
そんな人たちがちょっとしたカルト教団になったのよ。
主張はそのまんま、人間至上主義みたいなものでとりあえず化け物殲滅しようぜという内容。
そんな過激な主張にも理由はあるけれど……。
「はい、ストップ。ここより先は立ち入り禁止ですよ」
「そこをどけ! お前は人間だろ!」
「一応人間だけど、血筋をたどると鬼の血が混ざっているので……言うなれば天然人外? もともとそういう人種って結構いたんですけどね。ドラゴンの血が混ざっている人とか、暇つぶしに人間界闊歩してる神仏妖怪とか、その手の子孫とか」
「ならば貴様も殲滅対象だ」
そんな風に声を張り上げながら機関銃をぶっ放してくる黒服の男性。
うん、いろいろあって銃規制が意味を成さなくなったから彼らのような人間限定で譲渡不可、転売不可という条件と厳しい監視のもと所持が許可されるようになった。
こう化け物とかゲームキャラの力を手に入れた人達が横暴の限りを、というわけじゃないけどあちこちでトラブル起こしたから。
具体的には婦女暴行とかの意図的な犯罪に始まり、うっかり力加減間違えて機械壊したり人を怪我させたりという事故。
それらに恨みつらみが合わさってこういった人達が出てきた。
日本はまだましな方で、アメリカとかは毎日ドンパチしているらしいわ。
宗教色の濃い国ではミサイルとドラゴンのドッグファイトが見られるとか。
とりあえず打ち出された弾丸をつかみ取って対処するけどね、国会議事堂に傷つけられたらどうなるかわかったもんじゃない。
「死ね化け物!」
「お断りします」
どこから調達してきたか、ハルバードで切りかかられたけど頭突きで跳ね返す。
流石に重量武器だけあって結構痛い。
「この!」
「それはだめでーす」
構えられたロケットランチャーを奪い取り、そして中身を引っこ抜いて飲み込む。
うむ、少しは腹の足しになったわ。
「貴様……」
「はい解散、さもなくば……」
「どうする気だ。所詮政府の飼い犬、貴様にできることなどたかが知れていよう!」
「あー、それ間違い。私はたしかに公安に属しているけど立場的にはもうちょっと物騒な役職なのよ」
「なに?」
「公安連合異形対策本部職員、法と秩序の番人伊皿木刹那、それが私。つまりトラブルの火種を先んじて潰すことを許可されているし、その過程で人が死ぬようなことがあってもお咎めなし。もちろん私利私欲のために動いたらアウトだけど、今回は状況的に何の問題も無いのよ」
「ふざけるな! 人命を何だと思っている!」
「ブーメランで切腹するのやめてほしいなぁ……変貌した人たちだって好きでそうなったわけじゃないし、犯罪者はともかく彼らも一生懸命生きているんだから」
「化け物は殲滅するべきだ! 人間こそ至上の生物であり万物の霊長であるべきなのだ!」
本音が出たなぁ。
傲慢な回答、それこそが本当の言葉であり願いなんでしょうね。
自分達より優れた存在はいない、そう思っていたかったんでしょう。
だけどそんなことはあり得ない。
それ相応の理由があって、人は頂点に立ったつもりでいる。
けど実際はただの偶然の産物でしかないのだから。
「うーむ、面倒になってきたな……」
殲滅してしまおうか、そう考えた瞬間だった。
ぽんっと肩に手を置かれた。
唐突に表れた複数の気配、それは人はもちろん変貌した人たちも超越するとんでもない威圧感を発したものである。
それこそ神様レベルの物だ。
なおかつ隠す気のないそれは……。
「ナイ神父」
「やぁ、お困りのようだね」
「今悩みごとの種が増えました。どうしたんですかお揃いで」
神父と共に現れた人達、姿形は人間そのままだが全員が全員ナイ神父と同じような気配を発している。
とても禍々しくて、邪悪で、吐き気を催すようなおぞましい気配。
それが数十人。
「見たところ暴徒のようだけど……なぜ殲滅しないのかな?」
「国会前を血の海にするのはどうかと思ったんですよ。それにこの方角に市街地があるのでビームも使えませんし、血を使った攻撃は禁止されてるので」
便利なのに制限が多すぎるのよねぇ。
ファンネル使えるなら一瞬で終わらせられたのに。
「なるほど、ならば僕らが一肌脱ごうじゃないか!」
そう、軽く答えた神父はミチミチと音を立てて姿を変えた。
円錐形の肉の柱、そう表現するのが適している存在、まさしく化け物と呼ぶにふさわしく、変貌した人たちなんかこれに比べたら木っ端者でしかないだろう。
それに合わせて背後にいた人達も……あ、フィリップスさんもいる。
一緒になってミチミチと変貌していく。
フィリップスさんは蛸とドラゴンを混ぜた美味しそうな姿に、黄色いレインコートの……あの人記者仲間だったよな。
あの人も触手をいっぱい生やした美味しそうな姿になる。
他にも下半身が蜘蛛のお姉さんとか、分裂消滅を繰り返している肉塊、よくわからない泡みたいな、でもなんとも説明しにくい……うん、そんな感じの異形に。
「ひぃ!」
「あ……ああ……」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!」
各々、教団の人達は発狂してぶっ倒れてしまった。
殲滅するよりも簡単な制圧だけど、大丈夫なのかなこれ。
『大丈夫、ちょっと心が壊れただけだから』
神父の声が頭に直接……。
『XLチキください」
『ブレないね君……まぁいいや、彼らの身の安全は保障するからこっちで預かっても?』
「必要な書類を提出してからお願いします」
「じゃあ僕が」
人間の姿に戻ったフィリップスさんが手を挙げた。
「クリスを預かってもらっている借りもあるからね。今後も困ったことがあったら言ってくれたまえ」
「じゃあ触手ください。お腹減ってるんです。あの人たちが暴れまわってるせいでいろんなお店が閉まってて」
「……まぁいいか。あとで送るから」
「はい、美味しくいただきますね」
今夜はたこ焼きかな……。
あ、でも祥子さんこういう食材嫌いだから一人でタコパするか。
うん、今から楽しみだなぁ。
教団の人達はなんか連れていかれたけど、手荒なことはされないだろうし、されるようだったら私が乗り込むだけだからいいか。
あー、もう本当にお腹減ったわ!
備蓄してたカップ麺でも食べに帰るかな。
Q.彼らはこの後どうなったの?
A.もっとやばいカルト教団になった
Q.刹那さんのSAN値っていくつ?
A.カンストして、メーター一周してもう一度カンストしてる
Q.ナイ神父の登場タイミングよすぎない?
A.面白そうな人物は常にマークしている、とかげも見られている
Q.刹那さんが人間……?
A.流石に自覚した、人外の自覚もあるし周囲が人外だらけなので気にしなくなった
祥子さんも天使になったから気にする必要もなくなった
Q.ゲームとかってVRだけじゃないよね
A.三半規管がとにかく弱い人達がVR非適合症候群になるので3D映像のゲームで酔う事が多い
結果的にほとんどレベルが上がっていないキャラになるし、大体の場合幼少期から触れなくなってサ終してデータも残っていないので人間のまま
Q.赤ちゃんとかみたいにハーフにならないの?
A.文字通り非適合だった、ある意味では進化できなかった人類
Q.カルト教団の結成までの経緯は?
A.ネットコミュニティで知り合った。最初はネットで愚痴を言うだけだったが過激派がヒャッハーしまくって、それを利用できると思った人があれこれ思考操作してこうなった。なお金目的でやった主犯は制御できないからポイしてナイ神父が拾った
Q.刹那さんと祥子さんの結婚っていつ?
A.早ければ次回、つまり来週の水曜日を待って
Q.とかげとベルゼブブの結婚っていつ?
A.早ければ次々回、つまり再来週の水曜日を待って




