この幼女はいったい誰なんだー
バーチャルとリアル、それが融合してからの世界はトラブルが絶えない。
どのくらい酷いかというと、ネカマ幼女総理が退任してから選挙する暇もなく暫定的に祥子さんが総理大臣になって、そのまま任期とかそういうの無視するレベルでひたすらお仕事するレベルである。
というか任期も人気もうだうだ言っていられる状況ではなくなった。
高レベルプレイヤーや、化け物プレイヤーなんかを中心に特別チームを編成、警察と自衛隊の人数を3倍に増やして対処しているのである。
そして今日も今日とてトラブルは起こるのだ。
今の私のようにね!
「で、あなたの召喚獣がお腹すかせて私に飛びかかってきたと」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
久しぶりのオフ、食べ歩きを満喫しようと露店をうろうろしていた私に突如狼が飛びかかってきたのである。
うん、まぁゲームと融合したからプレイヤーの中にはお店を出したいって人も増えたのよ。
それで諸々法改正をして、特定区画では申請さえすれば自由にお店を出していいという事になった。
基本的に空き地とか広場とかそういうところなんだけどね、たまに路上でもそういうのがある。
その手の視察もお仕事なんだけど、私は完全にオフで遊びに来ていたのだ。
そんなときに幼女率いる狼に噛みつかれたのである。
「そりゃまあお肉沢山食べてたけどねぇ」
「この子最近太り気味だったからお肉の量を減らしてて……」
「それで私に飛びついたと」
フランクフルトにホットドッグ、謎肉の串焼き等などお肉を中心に食べていたからか、私が襲われたのだ。
まぁ襲われたといってもちょっと甘噛みされたくらいだけどね。
いまだに腕にぷらーんとぶら下がっている狼君は放置。
「で、これどうするの?」
「えと……どうしましょう」
「そこの鉄板で焼いて食べてもいいならこのままでもいいけど」
「それだけはなにとぞご勘弁を……」
むぅ、ダメか。
犬肉はそれなりに美味しいんだけどなぁ。
「あ、あの、そのお肉を譲っていただけませんか? もちろんお代はお支払いしますし、迷惑料で上乗せしてくださって構いませんので」
「んー」
ご飯を無駄にするわけじゃないから譲るのはやぶさかではない。
しかしこれ、結構気に入っているのよね。
10ダースくらい食べても飽きない味なのよ。
かといって上乗せとかしたら祥子さんにシバかれるからなぁ。
「このまま待ってるからそこら辺で買ってきたら?」
「いいんですか?」
「甘噛みだから痛くないし」
「でも牙が食い込んで……あれ?」
腕の力を抜いているので狼君の牙はたしかに食いこんでいる。
けど皮膚を突き破ってはいないのだ。
このまま力を入れたら牙が砕けるんじゃないかしらね。
「昔から動物には好かれるのよ。山に登ってクマに出くわしてもお腹見せてくるし」
「へ、へぇ……じゃあお言葉に甘えて」
「はいはい、いってらっしゃーい」
ふむ、小走りで去っていった女の子を見送りながらベンチに腰を下ろすが……どうしたものかしらねこれ。
ふと思い立ったのでスッとフランクフルトを動かす。
その動きにつられて狼君も目線が動く。
謎肉を回転させると狼君も目を回転させる。
目の前でホットドッグを齧ると牙が食い込む。
なるほど、やはりお腹が減っているのね。
「ま、飼い主を待ちなさい。私があげたらあの子また凹むわよ?」
「ぐぅ……」
狼君が喉とお腹を鳴らして返事をする。
いや、まず放せよと言いたいけどいいか。
「お待たせしました!」
「おかえりー」
「ほら、むー君お肉だよー」
「ばうっ!」
私の腕から口を放して飛びついた狼君、なるほど君はむー君というのか。
「変わったお名前ね」
「あ、はい。実家で飼っていた犬の名前から付けたんです」
「へぇ、ムーって名前だったの?」
「いえ、ムーンライト・バルディッシュ4世って名前でこの子は6世です」
……ネーミングセンスについては私はどうこう言える立場じゃないんだけどさ、それはさすがにどうかと思うわよ?
「ばうっ」
「え? おかわりはないわよ?」
「がうっ!」
再び私の腕に噛みつく狼君もといむー君。
「あぁ、ごめんなさい!」
「あのさ、提案なんだけど」
「なんでしょう」
「お前のむー君山に棄ててこい」
「それはできないですよぉ!」
幼女の叫びが虚しく響いた。
しかし……この幼女どこかで見た覚えがあるな。
A.嫁と娘に棄てられた元総理大臣




