女神も裁かれる
ある日のことだ。
いつものように変化した街を歩いて、たまに飛び出してくるゴブリンを蹴散らしながらコンビニに向かっていた。
妙に商品が潤沢になり、品切れを起こさず仕入れの必要もなく、無限に商品が湧いて出てくる不思議なコンビニ。
そう、ゲームと一体化した影響で一部の小売店はとんでもない利益を得ているのである!
なおこれが原因で潰れた会社とか事業者はいない。
あの、まぁ爆発的というか乗数的に人口が増えたからね。
食料とか小物とかいくらあっても足りないのよ。
結果的に無茶苦茶儲けているのが今まで「上に搾取され、下に突き上げられる!」と嘆いていたコンビニ経営者たち。
むっちゃ儲けて、独立して、早々に独立した人たちは悠々自適に暮らしている。
ある種のバブルね。
ともあれ、そんな道中で事件は起こった。
「ひゃっはー!」
SFさながらの未来マシンが大量に生産されるようになった昨今では珍しい大型トラックが信号を無視して突っ込んできた。
周囲に人はおらず、道路を横断していた私めがけての一撃。
ぶつかる、そう思った瞬間には光に包まれていた。
……またか、とため息が出るのは仕方のない事。
「あなたは勇者に選ばれました」
「はいドーン!」
私はいかにも善人ですよと言わんばかりの表情で両手を広げる神々しい女性。
その顔面に本気の右ストレートをぶち込んだ。
司馬さん直伝、神すらもぶち殺せるパンチである。
ちなみに黒助君もできるけど今はまだ私の方が威力出せる。
「あーもしもし神父? うん、また異世界転移。あるいは転生。主犯ぶん殴ったから私の端末起点に八百万チーム集合でお願い」
端末を取り出してピポパ、相手はナイ神父でありこういう事のトラブル処理を行ってくれている。
マヨヒガちゃんもサポートはしているんだけど、最近ちょっと忙しそうだからね。
神父はちょっと過労死してもらおうかなと思っている次第である。
「な、なにを……」
「あーうちの世界異世界転生とか異世界転移は法的に禁止してるんですよ。それを破った現行犯としてあなたを逮捕します」
「人間の分際でそのような! そもそも我ら神々の理を人間風情の法で縛れるとでも思っているのか!」
おー、化けの皮がはがれてる。
人間風情かぁ、まだそう見えているという事はこいつ大したことないな?
「ふむ」
端末を見るとカウントダウンが始まっていた。
約3分、みんなが集合するまでそのくらいという事だろう。
「3分間遊んであげる。私を殺せたら、異世界行きも考えてあげるわよ」
「ぬかせ!」
猫被り女神が大量の光の玉を生み出し、それを停滞させてビームを撃ってきた。
が、威力はカスである。
これだとシェルターに穴あけるのが精いっぱいかな。
「ビームって言うのはこうやるのよ!」
カッ、と口から放ったビームは女神の周りに浮いていた光の玉も巻き込んで真っ白空間の天井を破壊した。
おや、これ外は宇宙だ。
ここから落として別世界にって言う方向性だったのかな?
「おのれおのれおのれおのれおのれ!」
「うっさい」
ビキビキッと角をはやして、全身に刺青を広げ、鬼の力を解放しつつ追撃のビーム。
さらに接近して蹴り上げ、英雄さんから教わった分身と式神で空中コンボを決めて地面に叩きつけた。
ふっ、決まったわ……これぞ伊皿木流新奥義、刹那八裂連弾!
「が……な……ぜ……」
「え? なに?」
「なぜ、人間風情が……そのような力を……」
「生まれつきです」
べしゃりと、女神の後頭部を踏みつけて待つこと2分50秒。
パキパキと世界が壊れる音と共にナイ神父率いる地球の神様達がやってきた。
「よう木っ端者、楽しそうじゃねえか」
司馬さんがニッコニコで挨拶、その光景に怯えている女神は口をパクパクとさせて絶望を体現したような表情である。
「せっちん攫うとか、あんたも馬鹿だねぇ」
うずめさんは酒瓶片手に半裸である。
服を着ろ。
「じゃ、お話ししよっか。刹那はもう帰る?」
「えぇ、報告もしなきゃなんで」
これからコンビニでおやつ買って公安に行こうかなと思っていたんだけど、そうも言っていられないようだ。
まぁどの道行くんだけどさ、差し入れ持っていくだけのつもりだったのが本格的にお仕事になってしまった。
こう、攫われそうになったという事実を基にちゃんと報告をしなければというね。
まったく、面倒だわ……。
「あ、お仕置きはきつめにお願いしますね」
「はいはーい」
こうして、女神の世界は地球と同じ軌道をとる惑星の一つに組み込まれることになったのだ。
うん、ナイ神父たちに食われた。
詳しくは知らんけど、こっちの世界の神話体系に組み込まれたらしいよ。
本当に詳しくは聞いていないけどね。
女神(一応創世神、戦闘力は異世界で最強、なお地球側の神様には一方的に滅多打ちにされるレベル、正直とかげの方が強い)
刹那さん(人間の皮被ってない化け物)
ナイ神父(やべーお方)
八百万伊チーム(人間じゃ対処不可能な事案の解決係、全員公安勤務)




