ツボ女暴食人生経歴
「えーと、なんで飛べるゲリさんがここに?」
「それ言ったらフィリアさんも飛べるでしょ?」
久しぶりの出会いは質問のせめぎ合いとなった。
その勝敗は……どうでもよかったので私が先に答えることにした。
「立って歩く、私には立派な足がついているんだから」
「いや、そんな名言をここで使われても……」
「まぁ普段は普通に歩いているので。なんか飛ぶのって普段使わない筋肉使うから妙に疲れるのよね」
「それはわかる。俺の場合飛んだ方が楽なんだけど、飛んでたら上からタライ降ってきた。それで目を回しているうちに穴に……」
なるほど、そんなギミックがあったのね。
思えば飛行可能な化け物を選んだ人はどうなるのかとか、結構疑問はあったし納得。
でも幽体系の、物理攻撃無効化できる化け物プレイヤーは……そもそも入れない設定とかになっているのかしら。
だとしたらさすが糞運営といわれるだけあるわね、特定キャラだけは入れない町とか普通のゲームだったら大炎上待ったなしよ。
「それでさっきのアナウンスだけどさ、あれフィリアさん?」
「うん私、クリアするにはここを脱出するなり破壊するなりしないといけないみたいだけどね」
「ふーん、じゃあちょっと試してもいいかな」
そう言って子竜化を解いたゲリさん、こちらの返答を待つことなく天井に向かって炎を吹くが……。
「やっぱりダメか」
「無駄だよ、俺達の中でも魔法が得意な奴が色々試したが全部無効化された」
ゲリさんの呟きに答えたのはクエストを提示してきた魔族の人。
憔悴しているのはもちろんだけど、もともとの顔色がね……なんというか元から青いのよ。
魔族と言われて納得するような肌の色をしている。
「うーん、じゃあ普通に出ようか」
魔族の人の言葉にうなづいて子竜化してから私が壊した檻に向かってふわふわと飛んで行く。
「あ、あんたちょっと待った!」
「え? あんぎゃああああああああああ!」
ゲリさんが飛んで行くと同時に浄化されるようにして消えていった。
ポンッという間抜けな音を立てて地面に転がる小さな鱗、同時に穴が開いてその鱗が飲み込まれていった。
昔あったわね、こういうの。
ブロックを積み上げて色々作っていくゲームだけど、自動経験値回収マシーンとかドロップアイテム自動回収マシーン。
水の流れとかを利用してアイテムだけ降ってくるようにして、モンスターは外に出られない、そしてモンスターのリスポーン地点を用意することで無限にアイテムと経験値を回収できる装置だったはず。
「なに今の!」
リスポンしたゲリさんが声を荒げる。
そういえば聖属性エリアがあるの教えてなかったわね。
「あそこ、聖属性が常に張られているからデメリット持ってると死ぬらしいわよ?」
「早くいってほしかった!」
「言う前にゲリさんが特攻したんじゃない……」
その言葉にゲリさんが黙り込んで目をそらす。
こっちを見なさい、こっちを。
「まぁいいわ、ちょうど邪悪結界で近くにいる人守れるようになったから一緒に行きましょうか」
「あ、そんな便利な手段があるんだ」
「時間制限もあるけどねぇ」
そう言ってゲリさんを肩に乗せる。
「ところで、なんでツボに入っているの?」
「地面に銀を使っている場所があるらしいから」
「へぇ」
そんな会話をしながら釜とハンマーを使って脱獄、ゲリさんもなんか持って行けと言われたアイテムを装備していた。
どうやらドラゴン専用装備で、私と同じように武器としても使える防具という感じ。
ただし武器防具が装備できない種族限定で、なおかつドラゴン関連に精霊の力と邪悪な力……この場合聖属性弱点を持っていることが条件らしい。
ゲリさんピンポイントの装備だから自動生成系のシステムでも積んでいるのかもしれないわね。
コレクターにとっては天国か地獄か……多分天国なんでしょうね。
「ゴーレムの話は聞いた?」
「自由の翼と悪魔の肉体だっけ? あと量産型、勝てない相手じゃないと思うんだけどできれば避けたいよね」
「そうね、あまり時間かけられないし」
「邪悪結界だっけ? それ時間制限あるんだよね、あとどのくらい?」
「残り10分弱、でもそっちじゃなくて持ち込んだ食材アイテムがね……」
「あぁ、餓死か。ペナルティは緩いけど身動き取れなくなるらしいから、モンスターに囲まれた状態だと絵面と精神的にきついっていうね」
「ゲリさんが落ちてきたから非常食は手に入ったんだけど……」
「待って! 今ウルトラ不吉なこと言ったよね!」
「あ、ごめん。主食の方がよかった? でも私お肉は野菜とご飯を一緒に食べたい派だから」
「俺のこと食材扱いするのやめてくれないかな!」
「でもさ、こうして同じ釜の仲だからちょっとくらいいと思わない?」
「思わない! 同じ釜の飯を食うんじゃなくて同じ釜に入っているだけの間柄! そして食われるの俺だけ!」
「とかげの調理法は……あぁ、確かアマゾンに行ったときに教わったのがあるわ。独特の癖があったから臭み抜きの手順を変えたらもっとおいしくなりそうなのが」
「あんた行動範囲どうなってんの⁉」
「基本世界各地飛び回ってるけど? 最近は落ち着いて半年くらい日本にいるけど、去年は世界3周くらいしてきた。まさかシベリアで木を数えるバイトしてたらトラと戦うことになるとは思わなかったわ……」
「リアルの方が大冒険⁉ どうやって逃げたの⁉」
「持ってた鉈でどうにかね……」
「手負いの獣ってやばいんじゃ……ちゃんとその後処理されたんだよね?」
「うん、みんなで解体して毛皮を売ってお金にした。お肉は美味しくなかったなぁ……」
「倒してる⁉」
いやはや、想い出というのは振り返ると楽しいけれど聞いてくれる人がいるともっと楽しいんだなぁ。
でもシベリアのトラより北欧であったお姉さんの方が怖かった気がする。
このご時世に鎧を着て槍を持ったお姉さんは少し気を抜いたら殺されるんじゃないかってくらいの殺気を放ってたから。
その時はお酒一緒に飲んで仲良くなって連絡先交換したわね。
あとはインドで会った不思議な男性、いろいろあって意気投合したけれど別れ際に連絡先だけよこして「呪い殺したい相手がいたら連絡くれよ」と気軽に言ってたっけ。
それを言ったらイタリアのマフィアやアメリカのギャングもそれなりに怖かったけれど、あの人たちも仲良くなったら秘伝のレシピで作った料理を振舞ってくれたわ。
思い返せばなかなかに大冒険しているわね。
「ねぇ、フィリアさんは本当に人間なの? リアルでも吸血鬼とかだったりしない?」
「普通のジャーナリストよ? 趣味は食事と料理だけど」
「絶対普通の人じゃないと思うんだけど……人外の友人とかいないよね?」
「んー、いないわね。多分」
「たぶんって何!」
「住んでるのが瑕疵物件、アレな表現すると心霊物件でポルターガイストとか毎日だから何とも言えないのよね。あと遺伝子的には人間なんだけど人並み外れた知り合いは何人か、ちょっとおかしい人もちらほらいるから」
だから誰かが「実は僕人間じゃないんです」とか言ってきても素直に受け入れられると思う。
「フィリアさん、人付き合いは考えたほうがいいよ。あと住む場所もちゃんとしたところの方がいい」
「あ、それなら大丈夫。今の家別の人が管理人として住むことになったから引っ越しする予定があるの」
「へぇ、じゃあその時はしばらくインしない感じ?」
「んー、そうね。基本的に引っ越し期間は来週だからこのクエスト何とかするなら今週中に終わらせちゃいたいところだけど……」
「普通この手のクエストは一月くらいかかると思った方がいいよ」
「そうよねぇ、VOTだけ引っ越しぎりぎりまでおいておこうかしら。あれなら中で眠れるし」
「やめた方がいいよ、俺それやって全身の筋肉バッキバキになったから」
「あー、それもそうね」
そんな会話をしながらがっこんがっこんと進んでいく。
しばらく進むと階段が見えてきて……。
「これはさすがに無理ね」
「だよねぇ、どうする?」
「こうする」
釜に下半身を突っ込んだまま、羽を動かして飛行する。
普段よりも重圧かかっているように感じるけれど、飛べないこともないからヨシ!
このまま上の階までレッツゴーよ!
ちなみに主人公はいく先々で奇妙な縁を持ってくるので、各国に友人がいます。
人かそうでないかはともかく。




