やっぱりこいつ性格も破綻しているわ
「ねぇねぇお姉さん今暇?」
「よければ俺らとお茶しようぜ」
ちょっとした用事で街に出た時の事だった。
軽薄そうな人たちに声をかけられたのである。
俗に言うナンパだ。
いや、この前の国会でちょっとした有名人になっちゃってね、素顔隠しているんだけどそれが仇になったみたいで。
普段なら遠巻きにされるか全力疾走で逃げられる。
杖ついたお爺さんがクラウチングスタートで逃げたのはさすがにショックだったわ。
「悪いけど、急いでいるから」
「んだよ、お高くとまってんなよ? 俺らこれでも化けオン出身だぜ? それも初期組だ」
人は何かと優劣をつけたがる。
ゲームや創作物と一体化した世界になっても、その習性は変わらない。
なんというか……化けオンが爆心地になったこともあり、一番早く異形化が発生したので力の使い方を熟知している人が多いのだ。
つまり純粋に強い。
そして初期組ともなれば化け物プレイヤーにせよ、人間プレイヤーにせよ、それなりに高レベルなのだ。
他のゲームと違いレベル上限が決められていない、そしてステータスこそ不可視だが人間だろうが化け物だろうがいつも殴り合いしていた世紀末世界である。
当然のごとく、戦闘にはなれているのだ。
つまりこの人達は大人しくしないと暴力行為で黙らせるぞと言っているのだろう。
「これ以上は条例に引っかかるわよ」
「はっ、その前にあんたの口をふさげばいいだぶぇっ!」
「現行犯確保ー、あーもしもしポリスメン? 伊皿木よ、条例違反者二名確保」
喋ってたやつは舌を噛み切ってしまったみたいだけど、見たところ化け物プレイヤーだから大丈夫でしょう。
もう一人のニヤニヤしていた方は無言のまま気絶した。
さて、こいつらは警察にお任せするとしてだ……。
「お久しぶり。何してたのかしら」
「気付いていたか」
「慣れた気配がしたからね。それに気配の消し方が独特だったから」
「む……」
「気配を消したらそこだけぽっかり穴が空く、逆に目立つもの。今度周囲に紛れる方法教えてあげるから遊びに来るといいわ、英雄さん」
近くにあった木の影から出てきたのは英雄さん。
化けオンの中では堕ちた英雄と呼ばれ、恐れられていた人である。
ペナルティNPCとして生きてきた彼女だが、まぁ紆余曲折あって今は自由の身だ。
ちゃんと日本国籍を取得して、その上でちょっとした問題児でもある。
……うん、公安にお勤めの仲間なんだけどちょいちょい私の首を狙ってくるのよね。
「ふっ、相も変わらず豪胆だな。その命を狙っているというのに」
「それ、この前祥子さんに怒られたじゃない」
「うむ、だから外でやればいいという話になった。公安の機材、そして公共物に危害を加えず、周囲に被害者を出さなければいいという約束でな」
「まぁ、被害者に関してはクレームが無ければいいと思うんだけどね」
「……汝、相も変わらず糞みたいな人間性しているな」
「酷い言い様。で、今日も特訓でいいの?」
「否、本気を見せてもらおうか!」
そう叫ぶと同時に英雄さんの姿がブレ、分身が現れて一斉に襲い掛かってきた、なにこれかっこいい。
どれも実体があるみたいで全身に熱が走る。
切られた、けどすぐにつなぎなおしたので問題ない。
やっぱり刃物で切られると痛いよりも熱いのよね。
のこぎりでギコギコされるのは普通に痛かったけど。
「防戦一方か!」
「ん-、こうかな」
英雄さんの動きを見て、なんとなくで真似してみる。
おぉ、できたわ。
理屈としては足運びと体捌きに魔法を併用、実体を持っているかのように見せるため空気を圧縮しつつ、こちらの目と感覚をごまかしているのか。
「人が頑張って編み出した技を一目で真似するの、ずるいと思うぞ……」
「だっていい技だったから。そして応用編!」
分身体に合わせて式神召喚、その外見を私そっくりに変えつつ、100体に及ぶそれらで英雄さんを包囲して構える。
「このっ!」
振り下ろされた聖剣、その一撃はすさまじく半数の分身体と式神が吹き飛ばされた。
ので、起爆した。
「うわっ」
式神と分身体の中に爆発魔法を仕込んだのである。
いうなればパンパンに膨らませた風船、突いて割れたら周囲に被害を及ぼすのだ。
今回はちょっとした威力の爆弾程度。
ざっくり換算、C4爆弾5㎏くらい。
「馬鹿かぁ!」
爆破、そして連鎖爆発に巻き込まれ空高く打ち上げられる英雄さん。
「たーまやー」
「くたばれぇ!」
落下の勢いを利用しての切りかかりだが、足場が無いからこそ軽い。
剣先を指で突いて、体勢を変えてくるりんと回転した英雄さんをお姫様抱っこ。
そのまま地面に下ろして撫でまわした。
「はい、私の勝ちね」
「むぅ……なぜ勝つたびに人の事を撫でまわすのだ……」
「勝者のご褒美ってね。次はそうねぇ……お腹撫でまわすわ。その後はお尻で、胸も撫でまわしたいし、最後はぐへへ……」
「ひっ」
「そんな怯えないでよぉ、とって食うわけじゃあるまいし」
「性的に食われそうで恐ろしい!」
「でも初めては祥子さんに捧げたいからなぁ。ごめんね?」
「なぜ我がフラれたみたいになっているのだ!」
ムキーと腹を立ててぽかぽかと殴ってくるけど、可愛いわぁ。
ちょっと衝撃波が出ているけどこのくらいなら軽い物よ。
「ん、電話だ。もしもーし」
『せっちゃん? また、やったわね? そしてまた被害出したわね?』
グシャリと、思わず端末を握りつぶしてしまった。
愛しの祥子さんの名前だからうっきうきで出たらお説教モードだったのだ。
この絶望、普通の人にはわかるまいて……。
なお、この後英雄さんの方にかかってきて、二人揃って怒られた。
そしてナンパ男二人は警察に連れていかれ、こってりと怒られたらしいが……後日の事である。
「お疲れさまです! 姐さん!」
「お荷物お運びいたします!」
なんか、舎弟になったわ。
キーボード新調して初めての文書、ミスがあったらごめんなさい!
慣れるまで大変だこれ。




