モデル:リヘナラ
「真のラスボス登場ってわけね」
ぽつりと呟いた一会ちゃん。
なんかその様子だとハデスとノーデンスはそこまで強くなかったように聞こえるわね。
いや、実際面倒だけど強いかどうかで言えば……ねぇ。
ゲーム的に例えるならそうね、バフもりもりにしてくる奴と一撃必殺技連発してくる奴のコンビみたいな感じだった。
ソロで二人同時にってなるとかなり厄介だけど複数人で囲んで叩いたら大したことないなーっていう。
縁ちゃんなら一人でも瞬殺できたでしょうしね。
あの子、相手より一段階くらい強くなるような感じだけど任意なのよね。
普段からその場の直感みたいなもので力加減しているけど、それが面倒になると圧倒的なパワーで叩き潰す。
7代目東京タワーをぺしゃんこにした張本人なだけあって規格外の強さよ……。
私には輪切りが限界だわ。
「敵意を感じないけど切っていいのか?」
刀君……成長したわね。
以前なら問答無用で切りかかっていたでしょうに、こっちに確認してくるなんてお姉ちゃん感激。
「まぁちゃちゃっと終わらせちゃいましょうか。帰ったらパーティやるんだし、みんな来るでしょ?」
そう尋ねると一斉に頷くみんな。
その中には妲己もいたけど、英雄さんだけはどうしたものかといった表情だった。
「英雄さんも一緒にね。嫌だって言ったら引きずっていくから。というわけでおらぁ!」
有無を言わさず、さっさと仕留めてしまおうと拳を振るう。
狙うはあの辰兄さんとナイ神父みたいなやつ!
「あぶな!」
「あ、ごめん間違えた」
うっかり、辰兄さん殴りそうになっちゃった……ちぃ、外したか。
「今度こそ!」
「おっと、僕じゃなくてあっちね」
「失礼、うっかりしてました」
ちっ……この機会にナイ神父と辰兄さんを葬ろうと思ったのに……。
まぁ冗談はこのくらいにしておきましょうか。
しかし無抵抗で敵意のない相手を殴るというのもなぁ……空間そのものというか、世界の淀みとかそういうものの集合体を相手にどう戦えというのか。
うーん、とりあえずあいさつでもしてみるか。
「こんにちは、いい天気ですね」
片手をあげて、一般的な挨拶を口にした瞬間だった。
焦点の合わない目は私を捉え、そして全身から針を突き出して飛びかかってきた。
「ノーフリーハグ」
とっさにビンタ。
針に当たったけど刺さることなくふっ飛ばせたわ。
やっぱり鬼のパワーってすごいわね、普段だったら間違いなく刺さってたであろう硬さだったけどなんともないわ。
「辰兄さんの影響か、随分となれなれしいわね」
「酷いなぁ」
はいはい無視無視、相手にするだけ無駄な人だから。
しかしダメージを与えたって感じもしないし、このまま殴り続けても倒せそうにない。
まぁ……うん、そう簡単に世界レベルの集合体をどうこうできるわけないわよね。
「ならやっぱりこうするしかないか」
接近してぶん殴る。
くの字に折れ曲がった肉体を追撃で空中まで持ち上げて、更に空気を蹴って跳躍し連撃を叩きこむ。
息の合ったコンビネーションというべきか、永久姉の呪いが追撃を加え、地面に落ちたところを一会ちゃんが投げ飛ばし刀君が両断する。
しかしまだ生きている……と言うと語弊があるけど、倒しきれていない。
流石世界そのものみたいな存在……っと、あぶな!
「辰兄さんガード!」
「いっだぁ!」
とっさに近くにいた辰兄さんで守る。
いや、当たっても筋肉固めたら平気なんだけどさ、無駄な力使いたくないのよね。
「もう一回行くわよ! 一会ちゃん!」
「えぇ!」
今度は地面と水平に飛ぶように殴りつけて、永久姉の呪い追尾弾を当てながら一会ちゃんが蹴り上げて刀君が切って、空中からの攻撃はナイ神父と辰兄さんを傘の代りにして耐える。
何度か繰り返すうちに変化が出てきた。
打撃で吹き飛ばずその場に留まる、投げ技に受け身を取る、刀に触れても両断できず半ばで止まる、呪いを飲み込む。
耐性を得ているようだった。
「千日手になりそうね……」
とりあえずビームをぶっ放してみるけど、火傷のように爛れた皮膚はすぐに再生した。
そもそも熱には強いみたい……今の並の大陸くらいなら消し飛ばせる威力にしたのに骨が露出した程度。
こうなってくるといよいよ取れる手段がない。
「へい神父! 対処法!」
「そんな携帯端末のAIみたいな呼ばれ方されてもねぇ。正直僕ら神様だって世界を相手に戦うなんてしないからなぁ……ほら、ゲームでもボスがいてそれが秩序を乱してるでしょ? 世界の秩序そのものと戦ったりとかしないし、世界そのものを壊そうとすることもないから。めったに」
「その珍しい例を聞いているんですが?」
「んー、とりあえず食べてみたら?」
「なるほどそれがあったか」
辰兄さんとナイ神父のハイブリッドな見た目してるあれにかぶりつくのはちょっと……というかすごく嫌だけど、やるしかないか。
ということで一口、肩のあたりに噛みついてみる。
「ぎっ!」
にっが! そして噛みつき返された! しかもなんか吸われてる感覚……これハデスとのバトルでも感じたやつだ。
私が奪われる感覚……くそっ、喰い合いってことね……。
やってやろうじゃないの!
伊達に暴食の異名は持ってないわよ!
「ぐおおおおおおぉぉぉおおぉぉぉおぉぉぉぉぉ!」
「があぁぁああぁああああぁぁぁぁあぁぁあぁあ!」
苦みをこらえるために叫びながら喰らう。
負けじと叫び返してきた奴は……もしかしたら自我を得ているのかもしれない。
今までの耐性だと思っていたのはもしかしたら成長途中だった?
だとしたら、なおさらここで勝たないといけない。
こいつがどんな奴か知らないけど、きっとろくなことにはならない。
「がふっ!」
ザクリと、お腹が熱くなった。
奴の右腕が私のお腹に突き刺さり、胃袋の中身……つまり喰った奴の肉体や魂そのものを物理的に取り返しに来た。
まずい……このままだとこいつは回復し続けて、そして私は一方的に……あ、いや同じことすればいいや。
貫き手つっこんで、囲碁路哭さんから教わった方法で手のひらに口作って奪われたの回収。
もうちょい早く気付いていたら勝ててたんだけど……また千日手だ。
こうなったら明鏡止水で……世界に繋がるのはまずいから、こいつ自身と繋がる。
今立っているのは世界の作り替えの隙を使って蘇らせた仮初の大陸。
こいつ自身の力を使って作られている。
それで押し負けているのは私の出力が足りていないからだ。
だから世界を切り離し、この大陸だけ……こいつの力の及んだ範囲だけを明鏡止水で合一する!
「はあああああああああああぁあぁぁぁぁあぁぁああぁあぁぁ!」
どす黒い感情が頭に流れ込んできた。
これがこいつの……間違いない、こいつはここで逃がしちゃいけない存在だ。
もしこれが本格的に活動を始めたら世界はこいつに壊される。
壊されて、何も生まれず全てが……光も時間も動きを止めた虚無へと変わる。
そんなことはさせない……させてなるものか!
「いい加減に!」
大きく顔をあげて、そして胃まで突き刺さった腕諸共食べるように、肉体を変質させる。
それは巨大な口だった。
お腹から胸元を通り過ぎ喉元を過ぎて、顔にある口まで到達する。
その巨大化させた口で一口で飲み込んだ。
すぐに肉体を元に戻して、お腹の中で暴れまわる奴を消化するべく押し込めて……そして家族を巻き込まないように、明鏡止水を解くと同時に肉体の自由を失った。
一般的に負けそうで「やばい」って状況になったら覚醒とかすると思うんですよ。
なんで「あ、同じやり方で抵抗すればいいんだ」ってなるんでしょう。
刹那さんおかしくない?
誰だよこんな化け物にしたの。




