Getting Over Itなんちゃら
堕ちた先は広間のようになっている……けれど檻が取り付けられて移動できないようになっている監獄だった。
んー、監獄というよりは闘技場の方がしっくりくるのかしら。
それくらい広いのだけど、そこにはたくさんのモンスターが倒れている。
アイコンから見るに全部NPCね、化け物プレイヤーでここに来たのは私が初めてかしら。
上の人もそんなこと言っていたし。
「おいあんた、あんたも落とされてきたのか……」
「え、はいそうですけど?」
「そうか、災難だったな。ここは白銀の塔。表向きは人類進化のための研究所だ」
人類進化とはこれまた大きく出た話、だけどこのゲームの遺伝子改良関連を見るとあながち冗談じゃすまない気がするのよね。
文明レベルもこの塔だけやたら高く感じるし。
「この部屋は俺達魔族やモンスターを殺さないための仕掛けが施されている。死んでも生き返っちまう呪いだ……」
「呪いねぇ」
それ、プレイヤーはデフォルトで持っているんですけどね。
つまりこの部屋にモンスター連れ込めば素材が取り放題という事になるのかしら。
だったらプレイヤーにとってこれほど美味しい狩場はないわよね。
でも逆に化け物プレイヤーにとっては捕獲されるリスクがある……あれ、ちょっと待てよ?
ステータス画面を開いてリスポン位置を確認……oh、この部屋になっているわ。
今まであの町から出たことなかったけれど、リスポン位置の固定は厄介なのよね。
イベントで化け物プレイヤーだけが町から排斥されて、ペナルティエリアを固定位置にされたのも事前に紹介していたようなものだったのかもしれないわね。
実に性格が悪い。
「あの檻くらいなら壊せるんじゃないの? そこら辺にハンマーとか転がってるし」
「できるならやっている……だがあの周りは俺達が苦手とする聖属性で包まれ、そして床も檻も銀をもとに作られたミスリル素材だ。それだけじゃない、能力の大半……例えばあんたなら飛ぶこともできないだろうさ……できるもんならやってみろっていう嫌がらせだよ」
いわれた通り羽を動かしてみるけれど身体が浮く感覚がない。
なるほど、飛んではいけないと……。
「なぁあんた、もし俺達をここから出してくれたなら何でも頼みを聞く。よこせと言われたらこの心臓、魂だろうと差し出そう。だからどうか俺たちを助けてはくれないか!」
『グランドクエスト:白銀の塔を開始します。グランドクエストとはプレイヤー全員が参加を許されたクエストです。結果次第で今後のマップ環境に影響が出ます。クリア条件1、白銀の塔に加担して今後も同様の実験を続けてもらう。クリア条件2、囚われの魔族を助け出す。クリア条件3、実態を公表して他国を動かす。詳細は添付されたデータをご覧ください』
おぉう、急にクエストが始まったわ。
えーとなになに?
白銀の塔は人類進化をうたいながら非道な実験を続けている、まぁ見ての通りよね。
この塔は人間プレイヤーにとっては美味しい場所であり、実験が成功すれば強大な存在になることも可能。
ただしこの実験はとある遺跡から発掘された神の血を輸血することで英雄とそん色ない存在を作り出すものであり、適合しなければ呪いを受けることになる。
……つまりこの塔で実験を受けなくてもとある遺跡というのに行けば人間プレイヤーも強化されるという事よね。
だとしたら彼ら人間プレイヤーにとってのうま味は……あぁ、ここで手に入る無限ドロップか。
さすがにランクは落ちているだろうけれど、下位素材くらいは手に入ると。
クリア条件2はそのままの意味ね、彼らをどうにか助け出す。
方法としては……まぁあの檻をぶち破って、聖属性をどうにかできる邪悪結界を使うのが一番なんだろうけれどそれだと私専用になってしまう。
多分どこかで聖属性を解除する方法があるんじゃないかしら。
3つ目は普通に他にある町や国に行ってここの実情をリークしろという事ね。
賛同する国もあれば、反感を抱く国もあるでしょう。
あるのかどうかはともかく、神様を信仰している国があればそれはもう怒り狂うんじゃないかしら。
宗教の怖さは身に染みているからね……中東に行ったとき、うっかり危険地帯に踏み入って銃撃戦に巻き込まれたときはさすがに死ぬかと思ったわ。
そのあと救助されてから出されたご飯の量も少なくて二度死にかけたけど。
「んー、ここから出る方法がないわけじゃないんだけど……」
「本当か⁉」
「うん、すごく間抜けな絵面になるけどできるよ」
「頼む! 何とかしてくれ!」
そこまで言われたらしょうがない。
まず調理キットから大釜を取り出す、このサイズになるともはや大きなツボなのよね。
そこに入ることで地面の銀を無効化、直接触れなければいいならこれで十分対処できる。
「ちょっとそこのハンマーとって」
「お、おう」
困惑している魔族さんは放置しながらハンマーを受け取って、足で釜を固定。
ハンマーで地面をつついて体を持ち上げて、ゆっくりゆっくり檻に向かっていく。
肌がチリチリし始めた段階で邪悪結界発動、よしチリチリおさまった。
あとはひたすら、檻をハンマーで殴る!
よく考えるとこのハンマー武器扱いじゃないのね……後で調べてみましょう。
ガンゴンと音が響くなか、ミスリルで作られたという檻は徐々に変形していく。
ふむふむ、銀ほど柔らかくないけれど鉄ほどの強度はない……これならタイムリミット以内に行けそうだわ。
「せーの!」
最期の一発と大きく振りかぶって、檻を殴りつけると変形していた檻は無残な音を立てて倒れていった。
ふっ……この程度なら余裕ね。
「このまま連れ出すこともできると言えばできるんだけど、諸々内部を破壊してくるからちょっと待っててもらっていい?」
「あ、あぁ……だが気を付けてくれよ。ここの奴らが作ったミスリルゴーレム、あれは俺達の天敵だ」
あー確かに全身ミスリルだと私の攻撃通じないのか。
触れられるだけでこっちが負けるとなればどうにもならないわね。
うん、対処法がないから見つけ次第逃げに徹しましょう。
「ちなみに奴らは恐ろしく速い奴と、頑丈な奴がいる。速い方は名を自由の翼、頑丈な方は悪魔の肉体と呼ばれていた」
自由と悪魔ねぇ……ずいぶんとまぁ、適当な名前を。
「そして量産型もいるがこいつらはフレームにミスリルを使っているだけで外装は鉄だ。鈍重だが大して強くないものの、うっかり深手を負わせすぎると自爆して内部のミスリルが散弾のように飛んでくる」
「うわやっかい」
「名をヤッガイというらしい」
「そんな冗談はいらないわよ……」
というか運営、アニメ作品の影響受けすぎじゃないかしら。
「これを持って行ってくれ、何かの役に立つかもしれない」
「これは?」
「兄貴の使っていた武器だ……何かの助けになるかもしれない」
差し出されたのは手甲、だけどねぇ……。
「私武器装備できないのよ」
「そうなのか? だが兄貴も人狼だから剣などを持てない体だったが、その手甲だけはつけられたんだ」
「え?」
差し出された手甲のフレーバーテキストを確認。
『人狼のために作られた手甲、攻撃のための武器ではなく防御のための物だった。攻撃にこそ特化している人狼にふさわしく、その身を守ってくれる。手甲越しであれば銀などに触れることもできるため、結果として人狼の戦闘力を跳ね上げる事となった。特殊効果:人狼であり武器を装備できないデメリットを所有している場合のみ装備可能』
……なんというご都合武器。
でもまぁありがたく使わせてもらうとしましょう。
多分ここでのイベントはプレイヤーの強化、特定の種族やデメリットに応じてそれらを緩和するための装備がもらえる系イベントなんでしょうね。
普通に考えたらこれレイドバトルなんじゃないかしら。
参加人数無制限というあたり、普通にパーティ単位で乗り込んでどうにかするのがベストなんだろうけれど……。
英雄さん、西に行けと言ったあなたはそんなに私が嫌いですか?
私悪いことそんなにしていないのに……。
「ふぎゃああああああああああああああああああ」
そんなことを考えていると悲鳴と共に黄色い何かが落ちてきた。
新たな犠牲者……かと思ってそちらに目を向けると……。
「いてててて、びっくりした。高所恐怖症に何してくれてんだよくそが!」
「ゲリさん?」
「あれ、フィリアさん?」
小さな黄色い竜が天井に向かって文句を言っていた。
なお量産型ゴーレムヤッガイの姿は頭が大きくて目が一つ、腕が伸びてかぎ爪がついている短足のなにかではありません、たぶん




