撮影開始
「うーん、まずい!」
もごもごと口を動かしながらクエストで指定された道を歩く。
道中出てきたのは野生の狼、それを相手にしてみたところベースにした伝承が強力だったのもあって軽く撫でただけで首を落としてしまった。
ネクロマンサーの特性上5割以上肉体が残っていれば蘇生して手ごまにできるけれど、区分がね……頭部を始点に5割だったから首はねたらだめだった。
なので仕方なく狼の肉を食べている。
ドロップアイテムが狼の肉だった。
正直毛皮落としたらどうしようと思っていたけど、味を知ることができたという意味で肉でよかったと思う。
生産職でもない限り毛皮とか使わないしね。
「筋っぽくて、硬くて、臭みが強い。前に中国で食べた犬とは比べ物にならないわね」
それでもしっかり咀嚼して飲み込む。
お残しはしない主義だし、なによりこれも私のブログに書くからだ。
狼の肉を食べる話が受けるのかといわれたら、ぶっちゃけものすごい反感食らう。
ただしそれは現実でやった場合であり、ゲームブログの攻略関連としてみるとまた違った意味を持ってくる。
例えばこのゲーム、空腹度という隠しパラメーターがある。
……隠し要素多すぎる気がするけれど、ともかくこの隠しパラメーターの減少は致命的だ。
空腹が行き過ぎればまず移動速度に制限がかかり最終的に動けなくなる。
そしてそのまま放置しているとHP全損で死に戻り、βプレイヤーの中には食料調達に苦労したという人も結構いるみたいだった。
物を得られるか、よりも味が受け付けないという意味で。
現代人の舌は非常に肥えている。
その結果食料があったとしても、あまりの不味さに胃や舌が受け付けないことがある。
その結果食料が目の前にあるのに餓死するという事もあるのだ。
実際何人かのプレイヤーは始まりの町周辺でとれる獣肉が口に合わず、最終的には泣きながらNPCショップでパンを買い占める羽目になったと聞いた。
……不味いけど食べられないほどじゃないんだけどなこれ。
あ、そうだスクショとっておこう。
ブログに載せるのに必要だし、えーとこれかな。
「うおっ」
ポンッと目の前に球体が現れる。
レンズのようなものがこちらを見つめているのでとりあえずポーズをとってみるとカシャリという音と共にスクリーンショットが保存されたと視界の端に写った。
ふむふむ、便利だなこれ。
「ねぇあんた動画とかもとれる?」
『可能です。写真撮影、動画撮影、動画配信全て承ります』
おぉダメもとで聞いてみたけど喋った。
便利だなぁ本当に。
「じゃあ私の後ろから動画撮影してて」
『かしこまりました、ステルスモードにて撮影します』
そういうと玉カメラはすぅっと姿を消した。
代わりに視界の端にRECという文字が浮かび上がる。
ふむふむ、プレイの邪魔にならないようにこうして姿を消すわけか。
さっきのはわかりやすいように姿を見せていたわけだな。
うん、需要があるかわからないけれどこの動画もブログに載せよう。
あと動画配信サイトにも載せるか、広告収入が得られるし。
……だとしたら、少し挨拶とかしておくか。
「はーい、フィリアです。これから化け物になろうオンライン、通称化けオンの動画を撮影したいと思います! 現在はチュートリアルクエストをプレイ中。モンスターが闊歩する森を抜けて始まりの町へ行けというクエストです!」
こんなもんかな。
「それじゃあこのまま撮影を続けますね」
カメラ目線……といってもカメラがどこにあるのかわからないけれど、多分こっちだろうという方向に顔を向けて挨拶を済ませてからまた道を進む。
しかし……ずいぶんと長い道だな。
走るか、飛ぶか……せっかくのチュートリアルだしどっちもやっておくか。
まずランニング程度の速度で少し走ってみる。
ふむふむ、アバターのポテンシャルが高いのか軽いランニング程度でも結構速い。
それに疲れる感じはしない。
いいね、じゃあ今度は飛んでみよう。
背中の翼を動かして地面をける。
ふわりと、体が浮き上がるのを感じて目線を下に向ける。
おぉ……他のゲームでも飛んだことはあるけど、これまたずいぶんと心地いいなぁ。
そうだ、高度ってどれくらいまで行けるんだろ。
ちょうど木陰に隙間があるからそこを通ってみよう。
そう思ったのが悪かった。
ぼふっという音と共に森の上に出た瞬間だった。
「ふぎゃああああああああああ!」
太陽光に焼かれた。
そのまま墜落、ゴキュリという嫌な音と共に視界が暗転した。
「おぉ魔の者よ、死んでしまうとは情けない」
「は、え?」
「なんじゃ、死んだ自覚もないのか」
「死んだ……?」
「うむ、死因はステータス画面から死亡履歴を見ればわかるはずじゃぞ」
「はぁ……」
先ほどのペナルティ兼チュートリアルおじいさんの話を聞いてステータスを開いてみる。
そして死亡履歴という欄を開くとそこにはこう書かれていた。
『死亡:太陽光に焼かれながら首の骨を折った』
……えぇ?
確かに吸血鬼の弱点として太陽光レベル10をつけたけどさ……そんなに弱いの?
ちょっと試しに飛んでみよう。
まずは数cm……徐々に高度を上げて木々の隙間を抜けて、右腕を太陽光にさらしてみる。
「あづぁ!」
じゅっという音がしてすぐに腕を引き戻した。
だというのに太陽光にさらした右腕は炭化して真っ黒になっていた……えぇ?
「な、ならこれで……」
初期装備の袖で左腕を隠しながら太陽光にさらしてみる。
今度は問題なかったらしく左腕が火に焼かれることはなかった。
なるほど、太陽弱点というのは直射日光に当たらなければいいのか。
ならやりようはある。
森の中で何度か見かけた植物、大きい葉っぱと木の枝を使って簡単な傘を作る!
いろんなところに行くから取材先で覚えた工芸技術が火を噴くぜ!